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亡域の冥王  作者: キノコのほうし
第1章 日本崩壊

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第1話 災害

 人間、死ぬときは死ぬ。

 そんなこと誰でも知ってる。

 でも、今日その時が来るなんて誰が考えるんだ。


 血をだくだくと流して「死にたくない……」と嘆く同級生を前に、貝原良太(かいばらりょうた)はそんなことを思っていた――


 ***


「うるせぇ……」

 俺はスマホのアラーム音で目を覚ました。

 全く寝た気がしない。


 そりゃそうだ。

 朝までアニメを一気見してて4時間くらいしか寝ていない。

 俺はカーテンの隙間から入る朝日が床に反射して光の線のようになっているのを見ながら、深く布団をかぶった。


 よし寝よう。


「良太! あんたいつまで寝てんの! 早く起きなさい!」

 母さんはドアを勢いよく開けて、大声で叫んだ。


 ああ、クソが。

 俺はあきらめて連休明けの平日という現実を受け入れ、布団から出てリビングへ向かった。


 ***


「お母さんもう仕事出るから。食べ終わったら食器洗っといてね」

 そう言いながら母さんは荷物を持って玄関に消えた。


 母さんがいなくなったことで、静まり返った我が家でいつも通り1人での朝食の時間になった。

 父親は早々に家を出て居ないし、歳の離れた姉は数年前に家を出たっきり帰ってきていない。

 俺が高校生になってからは1人でご飯を食べることがデフォルトになっていた。


 朝のニュースは交通事故とか政治家の汚職とか野良猫の死体が増えてるとかろくな内容じゃなかった。

 ただでさえ、休み明けで憂鬱な日にこんな辛気臭い内容ばかり流されると参ってしまう。

 自分で観ておいてなんだが、もっと平和な出来事を放送してほしいものだ。


 そんなこんなで、朝食を食べ終えた俺は言いつけ通り、食器を洗ってから身支度を済ませて学校へ向かった。


 ***


「おい、なんだその服装は!」

 校門から怒号が聞こえた。


 今日の立ち番は佐藤らしい。

 いちいち服装とかでキレんなよ。

 めんどくせえなこのジジイは。


「おはようございます」

 俺は目をそらして、できるだけ気配を殺して通り過ぎた。

 こういうやつは刺激しないようにそっとやり過ごすに限る。

 佐藤は俺に反応を示すことなく、目についた生徒に怒号を浴びせていた。


 人に礼儀をとやかく言うくせにお前が挨拶返さねぇのかよ。

 朝から無駄にイラついてしまった。


 ***


 今日は教室のドアが閉まっている。

 こういう時、少し緊張してしまう。


 俺がドアをガラガラと横に開けると、教室にいた人たちは静まり返り、俺に視線が集まった。

 しかし、突然の音の正体が俺だとわかるや否や、まるで何もなかったかのように再び話し出した。


 毎回、音が戻るまでの瞬間は緊張する。


 俺は自分の机の横にカバンを下ろして、ウィンドブレイカーを椅子に掛けて座った。

 すると前にいた女子が俺に話しかけてきた。


「貝ちゃんだー。おはよー」

「お、おはよう。小森(こもり)さん」


 彼女の名前は小森星羅(こもりせいら)と言う。

 茶髪をポニーテールに結っており、テニス部で日焼けした肌から元気っ子のような印象も受けるが、実際はマイペースな天然系である。

 これは俺が入学してから半年かけて集めた彼女の全情報だ。

 まあ集めたって言っても、クラスの連中が話しているのを聞いただけで直接本人に聞いたわけではない。


 小森さんはクラスの中心にいる一軍女子でありながら席替えしてからはカースト下位の俺みたいな陰キャにも話しかけてくれる聖人だ。


 一時期は俺のことが好きだから話しかけてきてるんじゃないのかと思ったこともあったけど、他の男子と俺以上に親しく話しているのを見てそんなわけないと悟った。


「小テスト勉強した?」

 そう言って小森さんは俺に英単語帳を見せてきた。


「え、小テスト?」

「先週、先生が連休明けに小テストするーって言ってたじゃーん。あ、さては貝ちゃん勉強してないなぁー? もう、そんなんじゃまた再テスト地獄だよ?」

 小森さんは言ってる内容の割に、面白いものを見るみたいに笑っている。


「はぁ…これが成績上位者の余裕か……」

「んー? まぁね! あたし頭いいから!」

 やべ、声に出てた。

 なんか小森さんがドヤ顔で誇らしそうにしてるしいいや。


「そういうの自分で言うところは頭悪そうだけど」

「あー! 貝ちゃんに頭悪いって言われたぁー」

 しまった、また口が滑った。


「ちょっと星羅、ダル絡みすんなよ。貝原そういうの苦手なんだから」

 そう言いながら現れたのは笠原愛理(かさはらあいり)さんだ。

 笠原さんもテニス部に所属していて、小森さんとは中学時代からの友人らしい。

 黒髪のショートヘアでボーイッシュに見えるが、少し大きめのセーターで萌え袖をしていたり、カバンにクマのぬいぐるみのストラップをつけていたりと凄く女子をしている。

 クラスではたびたび愛派か星派かと議論が勃発しているらしい。

 ちなみにこれも盗み聞いた情報である。


「愛理にもダルいとか言われたー。ひどーい」

「まじダルい」


 小森さんがキャッキャと笑っているのとは対照的に笠原さんは心底冷たい目をしていた。

 しかし、それは友人としての信頼関係があっての態度なのだと2人の様子を見ていれば理解できる。


「ていうか、英単語全然覚えらんないんだけどー」

「そんなこと言って、どうせ満点取るんだろあんたは」


 笠原さんが小森さんの頭をグリグリして、2人がじゃれている。

 うちのクラスのかわいいランキングにてトップを張っている2人の絡みをこのまま見ていたいのだが、陰キャ男子がずっと眺めているとクラスの奴になんて言われるか分かったものではないので、スッと机から本を取り出して、俺は気配を消した。


 ――キーンコーンカーンコーン


 しばらくすると、チャイムが鳴って担任の八木が入ってきた。

「ホームルームするぞー。全員席に着けー」


 ***


「えー、今日はテストがあると伝えていましたが、テスト範囲が間違っていたようなので延期になりました」


 教室中からドッと歓声が沸いた。


「貝ちゃん良かったね」

 小森さんが後ろを向いてニヘっと笑って言った。


「助かったよ」

 さすがに今日と明日は勉強しよう。


「はい、静かにっ! まだホームルーム中だぞ、切り替えろ!」

 珍しく八木がしっかりとクラスをまとめようとしている。


「えー、それで今日の連絡がまだあって……ん?」

 突然言葉が止まったかと思うと、教室が静まり返った。


 ――キーン

 静かな教室に甲高い音が鳴り響く。

 耳鳴り?


「うぅ…っく」

 気持ち悪い。

 なんだこれ。

 頭が割れそうだ。


 次第に音の勢いが増して、めまいのような頭を揺さぶる感覚までしてきた。

 俺以外にも皆が頭を押さえて苦しそうにしている。


 もしかして全員にこの音が聞こえているのか?

 するといきなりスーッと音が引いて消えた。


「え、なに今の」

「やっべぇ、まだ俺気持ち悪いわ」

「なんかヤバくなーい?」


 音が止んだ瞬間、一斉に皆が口を開いた。


「貝ちゃん大丈夫? なんだったんだろ今の」

 小森さんが振り向いて俺に聞いてくる。


「わかんない。スピーカーが壊れたのかな」

 最初は耳鳴りかと思ったけど、途中からは超音波みたいになってて、頭に直接音を流し込まれてる感覚だった。

 本当に何だったんだ。

 皆も何が起きたのかわかっていないのか、さっきの出来事を近くの人と話している。


「ねぇ、なんか変な――」

 ――ドンッ

「え…?」


 小森さんの声を聴いて俺が顔を上げると彼女の顔がブレた。

 次の瞬間、俺の目の前には天井にあるはずの蛍光灯があった。

 そして、体が落ちる感覚がした。


「かはっっ……!」

 衝撃で息ができない。

 体中から危険信号が出てる。


「「「キャーーーーーーー!!! 」」」

「「「「うぁぁあああああ!!! 」」」

 ――ドドドドドドドドド


 悲鳴と叫び声、遅れていろんな物が落ちる音が聞こえてくる。


 やばい、視界がぼやけ始めた。

 俺、死ぬのかな。


「あっ……」

 天井が崩れて瓦礫が俺の顔面にめがけて落ちてくる。

 その光景を最後に、俺は意識を失った――


 ***


「う、うぇっ……っはぁ…はぁ……」

 俺は目を覚ますと同時に俯いて何かを吐き出した。


 口を拭った手を見てみると真っ赤だった。


 一気に背筋が締まり、全身で恐怖を感じた。

 え、なにこれ、血?


 俺がさっき吐き出したのは血だった。

 昔、なんかで吐血したときは内臓が傷ついてるとかって見たことある気がする。


 俺は全身をまさぐって怪我をしていないか確かめた。

 しかし、不思議と体の痛みがない。


 吐血をしといて無傷ってことは無いと思うんだけど…。

 ていうか俺、全身叩きつけられてたよな?


 俺は近くにあった机に寄りかかって上体を起こすと、視界に入った光景に絶句した。

 教室中の物があちこちに散らかっている。

 ロッカーやテレビ台が倒れ、机や椅子がめちゃくちゃになっていた。

 地震か?


 ――ガタッ


「うぉ! びっくりした」

 音のした方に人影が見えた。


 しかし、周りの物が邪魔で顔が見えない。

「お、おい」

 俺は床に手をついて前傾姿勢になりながら、様子を窺うように人影に向けて声をかけた。

 すると、かすかに反応があった。


「大丈夫か!」

 俺は急いで近くに駆け寄った。


***


「…っふぅはっ...…はぁはぁ…っはぁ……」

 ただ口から息が出るだけで言葉にならない。


 人ってあり得ないものを目にしたときこういう反応をするんだ、なんてことを混乱した頭の片隅に冷静な思考がよぎった。


 まず、へし折れた腕が目に入った。

 肘が逆に曲がり、その先が途中で折れて、Z字のような形になっている。


 めくれた制服からは陥没した腹が見えている。

 上半身から穴の開いたバケツみたいに血が流れ続けていた。


 ポニーテールに結われた彼女の髪はほどけて、血に塗れている。

 笑顔の絶えない彼女の顔には苦悶の表情が浮かんでいた。


「小森さんっ!」

「あ…や…た…」

 かすれた声が聞こえた。


「生きてるっ!」

 奇跡だ。

 この状態でも息がある。


「大丈夫! すぐに助けがくるから! あと少し頑張っ――」

 俺が手当たり次第に思いついた言葉を投げかけていると、小森さんが震えながら手を伸ばしてきた。


 俺はその手を両手で包み込むように握り返した。

「大丈夫。大丈夫だから」

 本心ではわかっている。

 助かるわけがない。


 でも、俺にできるのは小森さんの不安が少しでもなくなるように嘘でごまかすことくらいだった。


「っあ…っふぁは…や…だ…」

「……」

「……っはぁっ......死に…た…く………ない」


 小森さんの手から力が抜けた。

 俺は人生で初めて同級生を看取った。


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