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亡域の冥王  作者: キノコのほうし
第1章 崩壊した世界

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第一話「乱世の日常」

 あれからずいぶん経ったように思う。

 俺があの大災害に遭ったのは高校の入学式の日だった。

 式の最中に大気を震わせるような轟音が鳴ったかと思ったら、俺を含めた全員が地面にうずくまり、苦しみだした。

 落ち着いたころにはすでに地獄絵図だった。

 次々と人が破裂して死んでいったのだ。

 そして俺は、あの災害の後から異能力を使えるようになっていた。


***


「おーい! 良太(りょうた)君、こっちも頼む!」

「はーい!」

 俺は呼ばれた声に返事をして、いままで治療していた人から離れて呼ばれた方へと行った。

「すぐに終わるからじっとしててくださいね」

 俺はそう言って、寝たきりになっている人の体に触れた。

 すると、体内で荒れ狂っている光が触れた先から俺へと移っていく。

「多いな」

 しかし、問題はない。

 俺はそのまま溢れかかっていた光を全て吸収した。

「終わりましたよ」

 言い終えると、さっきまで寝たきりだった人の顔色がよくなっていた。

 今は眠っているが、時期に目を覚まして元気を取り戻すだろう。

「いやあ、助かります。近頃また体調を崩す者がでてきまして、困ってたんですよ」

 彼はこの町で一番大きなキャンプを運営している自治組織の副代表を務めている。

 これが単なる体調不良でないことを正確に理解できるのはおそらく俺のような能力を持っている人だけだろう。

 俺に発現した能力は謎の光を知覚するというものだった。

 あの災害が起きて以降、大気中にはモヤのようなものが漂って見えるようになった。

 人体の中にも光が見え、それは能力を使う際に変化するのだ。

 例えば、手から火を出す能力だと光は手に集まり、全身を強化する能力だと光は全身に満遍なくいきわたる。

 そのことから、俺の目に映る“もの”が能力に関係していることはすぐにわかった。

 そして、能力を使うとその光は弱まり、失った力を回復するかのように大気中のモヤが体内に入っていき、輝きが戻るのだ。

 その性質から俺はよく見る異世界物のラノベから連想して、魔力(まりょく)と名付けた。

 能力を使える者は魔力が循環するのでいいのだが、使えない者は常時体内に魔力を取り込むことになり、最終的にはあの災害時同様に人体が破裂して死亡することになる。

「しばらくは大丈夫だと思いますけど、何かあればまた教えてください」


 こんなことをしてもただの先延ばしでしかないことはわかっていた。

 能力を発現しない人は俺のような能力者に助けてもらわないと生きていけない。

 俺が救えるのはこの近辺だけで、それも一日に数十人くらいしかいない。

 昨日だって三人は死んだ。

 偽善だとわかっていても自分に救える力があるのに助けないということが俺にはできなかった。

「ありがとうございました。これ、ほんの気持ちですが」

 そう言って彼は俺に野菜が詰まった段ボール箱を渡してきた。

 第一次産業が機能していない現在となってはこういった食材は大変貴重なものだ。

「ありがとうございます」

 俺は段ボール箱を受け取って自分の拠点に戻った。


 ***


「お疲れ様。いつも大変だね。それが今日のお礼?」

 簡易的に木でつくられた塀の外に、門番のように立っている一人の女子が俺に話しかけてきた。

 彼女は茶髪のロングヘアを赤いリボンでポニーテールに結っており、この状況に似つかわしくないフリフリのミニスカを履いている。

 端的に言うとギャルのような見た目をしている。

「うん、野菜だから早く食べないと傷んじゃうね。今日は野菜炒めかな」

佐々木(ささき)向井(むかい)がイノシシ狩りに行ってるよ」

「もう一週間くらい野菜続きだから肉が取れるといいんだけど」

 そうは言ってみたものの、最近は野生動物の数が減ってきて肉が取れなくなってきている。

 あまり期待しないでおいたほうがよさそうだ。

「あの二人は狩りよりも体を動かしたいだけだと思うけどね。あ、そうそう。代表が良太のこと探してたよ。多分食料調達の話じゃないかな。いまは会議場にいると思うよ」

「ありがとう。ちょっと行ってくる」

「行ってらー」

 俺は野菜を食糧庫に置いてから、いつも話し合いをするときに使っている大きな切り株がある通称会議場に向かった。

 会議場ではすでに切り株の周りに人が円を成して話し合いをしていた。


「あ、帰ってきた」

 俺に気づいて、そう言ったのはこの拠点の代表である西高大成(にしたかたいせい)である。

 元は七三わけに眼鏡という、委員長のような見た目をしていたのだが、眼鏡は割れて使えなくなり、髪の毛も長いと邪魔だからと言って短く切ってしまった。

 そのせいで今では野性味あふれる見た目になっている。

 彼は俺と同じ高校の同級生だ。

 あの災害で人が大勢死んだことにより、生活インフラが失われ、避難所を運営する人間もいなかったため、大半の人が動けないでいた。

 そんななか、いち早く状況に気づきひとり立ち上がって指揮をとり拠点をつくりあげた。

 この拠点にいるほとんどが西高に声を掛けられた高校の生徒だ。

 まあ災害直後ということもあって、ついてきたのは俺を含めて20人ほどしかいなかったのだが。

 あれからなんだかんだで総勢35人ほどになっている。

 俺たちの拠点ができてから一週間ほどして町のキャンプができたのだが合流はしなかった。

 こんなご時世、信用できる人と一緒にいたいからである。

 それに町の自治組織が運営しているキャンプは人が多く、それだけ問題も多いだろうことが予想できた。


「いま戻りました」

 俺が会釈をするとこっちこっちと手招きをして輪の中に加えて、西高が話し始めた。

「今ちょうど貝原(かいばら)くんの班に食料調達に行ってもらおうって話してたんだよ。お願いできるかな」

「いいけど、今回はどこまで行くんだ?」

「隣町にしたよ。エリア3のあたりはまだ手を付けていなかったはずだからね」

 西高は地図を開いてある場所を指さした。

 エリア3とはこの拠点から北に二キロほど行ったところにある、隣町の別名だ。

 元は戸原町三丁目という名前だった。

 食料調達と言っても農場に行ったり、買い物に行ったりするわけではない。

 人が死んで空き家になっているところをあさりに行くのだ。

 政府も警察も機能していない今となっては法律などないに等しかった。

「了解、でも食料調達だと俺の班だけじゃ人手が足りないと思うんだけど。もう一人くらい追加で連れて行ってもいいか?」

「もちろん。確か川村(かわむら)さんが暇してたから彼女がいいかも」

 川村とはさきほど門番のように立っていた女子のことである。

紗月(さつき)か。あいつ連れて行っていいの? 見張りは足りてるのか?」

「大丈夫、大丈夫。僕がいるからね」

「それもそうだな。じゃあ、連れて行くけど――あいつ駄々こねそうだなあ。そんときは代表が説得してくれよ? あいつ西高のこと大好きだから」

「あはは、その時はそうするよ」


 案の定、面倒くさいと言って行きたがらなかったので、西高がなだめて説得することに成功した。

 俺は班員と嫌がる紗月と共に食料調達へ向かった。


 ***


「もう、いいじゃん。この辺の家で適当に食料みつければ」

 紗月は投げやりな感じで言った。

「この辺はゴロツキどもの縄張りだからすでに取りつくされていると思うよ」

 この班の攻撃担当である斎藤理恵(さいとうりえ)が紗月をなだめるように言った。

 彼女は黒髪ストレートのロングヘアで釣り目という、猫のような雰囲気をまとっている。

 俺と同じく、高校組の一人でもある。


「ずっと拠点に籠りっぱなしというのもあまりよくないですからね。それに情勢を知るために外に出るのも大切ですよ?」

 おかっぱで背の低い、童顔の少年が俺の後ろからひょこっと顔を出して言った。

 彼は情報担当の川島幸太郎(かわしまこうたろう)である。

 西高が外を出歩いていた時に見つけて拾ってきた15歳の男だ。


「というか紗月は普段から仕事してないんだから、これくらい手伝いなさいよ」

 呆れた表情で言ったのが盾兼支援担当の倉崎希(くらさきのぞみ)である。

 彼女はかわいい自分に絶対の自信を持っているため、身なりを整えることに命を懸けている。

 こんな状況でも一際目立っていた。

 外にでると衣類を調達できるため、なにげに遠征に一番乗り気なのが彼女だ。


「もう、わかったよ。私が悪かったって…」

 紗月はみんなからこんなに言われると思っていなかったのか、しょんぼりとした表情をしていた。

 紗月は拠点防御の一角という重要任務を任されているので仕事をしていないわけではないのだが、実際は敵が来ないとただ拠点でのんびりしているようにしか見えないので、最近は無職のような扱いを受けている。

 俺としても腐らせておくにはもったいない能力を持っている紗月には、もう少しやる気を出してほしいと思っているのだが、俺まで口を出すと袋叩きにしているみたいだったので黙っておくことにした。


「おい、お前ら一応外なんだからもうちょっと警戒して――」

 俺が言いかけた時だった。

「いやあああ」

 どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 真っ先に斎藤理恵が飛び出していった。

 彼女の能力名は剛力制裁オーバーパワー

 純粋な肉体強化系の能力である。

 最大で身体能力を六倍にまで引き上げることができる。

 強化状態では五感も人並み外れたものになるので、悲鳴の主の場所を誰よりも早くとらえたのだ。

「こっち!」

 俺たちは肉体の強化を弱めているとはいえ、アスリート並みの身体能力になっている彼女に必死でついていった。

 数十メートル先の角を曲がったところには二人の男女が複数の男に囲まれていた。

「いいから、ついて来いって言ってんだよ!」

 1人の男が女の子の腕を強引につかんで連れ去ろうとした瞬間、斎藤理恵は力を開放し、一足飛びに男の顎にめがけて膝蹴りを食らわせた。

「うごぉ」

 男は大きくのけぞり数メート背後に飛ばされた。

「な、なんだお前ら!」

 周りにいた男たちが臨戦態勢に入る。

「あちゃー」

 紗月が額に手をあてて、やっちゃったねぇという感じで言った。

 ちょっとバカっぽい。

「いつも斎藤さんは手を出すのが早いんですよ。いや、出したのは足なんですけど」

 続けて幸太郎がなんか言っていた。

「はあ…全員戦闘態勢! 相手の数が多いから前に出過ぎるなよ!」

 俺はしぶしぶ戦闘の号令をかけて、男たちに応戦することになった。

 相手はざっと見ただけで15人くらいはいた。

 さっき斎藤さんが1人の顎を粉砕したから動けるのはあと14人か。

「もうっ、ほんと急すぎ!」

 そう言って希は能力を発動させた。

 彼女の能力名は守護天使エンジェルホープ

 自身を中心に半径十メートルの円形の領域を展開し、範囲内の指定した対象に防御力の強化と肉体性能の向上をもたらす天使の加護を付与することができる。

 ちなみに天使とは倉崎希のことである。

 希が能力を発動させる一瞬の間にすでに斎藤さんが5人を蹴散らしていた。

 ただでさえ戦闘向きの強力な能力を持っている斎藤さんに希のバフがかけられることで男たちを圧倒していた。

 なんか斎藤さん一人で勝てそうな勢いだな。

 俺がそんなことを思っていたら、相手の男たちも能力を使い始めた。

「ち、能力者かよ。なめてんじゃねぇぞ!」

 そう叫んだ坊主頭の男が地面に手を触れた瞬間、道路がうねって足場が不安定になった。

 バランスを崩した斎藤さんのすきをついて、近くにいた筋骨隆々の大男が腕に電気をまとわせながら斎藤さんを殴り飛ばした。

 電気の影響で斎藤さんはしびれて動けなくなっていた。

「もー、なんで私が参加したときに限ってこんなことが起きんのよ。ほんと最悪なんだけど」

 そうして気だるげに川村紗月は能力を発動させた。

 紗月の能力名は静謐射放レイジーボウ

 弓矢を具現させる能力。

 具現させた矢は、魔力に引き寄せられるという性質があり、元弓道部である紗月が放つ矢はほぼ確実に相手の狙った場所を射ることができる。

 紗月は人限定ではあるが魔力を認識することで、遮蔽部がある場所や通常の目では見えない距離であっても人の位置を把握することもできるのだ。

 これこそが拠点防衛を任されている理由でもある。

「理恵、早く起きてよ! これ疲れるんだからねっ」

 そんなことを言っているが、紗月は斎藤さんの周りにいる男たちだけでなく、目についた者を片っ端から射貫きまくっている。

 紗月が能力で作りだした弓は連射性能が優れており、矢を放った瞬間に次の矢が出現し、(つる)を引く動作なく連続して射ることができる。

 少しすると斎藤さんも復活し、気づいたら紗月と二人で男たちを全滅させていた。


「さすがね」

 希が少し驚いた表情をしながら言っていた。

「紗月も普段からこれくらい働いてくれたらいいんだけどな」

 俺はそう言って倒れている男たちに近づいては魔力を吸い取ってまわった。

 魔力は生命エネルギーのような性質も持っているのか、極端に魔力が減ると力が入らなくなって動けなくなるのだ。

「俺はこいつらから魔力を奪うから、幸太郎と希は二人を安全な場所まで連れて行ってくれ」

 俺はさきほど襲われていた男女には別の場所に移動してもらって、紗月と斎藤さんと一緒に男たちを拘束して道に放っておいた。

 しばらくすればこいつらの仲間か誰かが助けに来るだろう。


 俺たちは移動した幸太郎たちのところに行って男女に話を聞くことにした。

「あ、あの! ありがとうございました!」

 女の子が俺を見るや勢いよくあたまを下げてきた。

「いいよ、いいよ。俺は何もしてないしね。礼を言うならこの二人にしてよ」

 そう言って俺は紗月と斎藤さんを前に出した。

 斎藤さんは当然のことをしたまでだと言わんばかりに一歩引いていたが、紗月はどや顔でさあ私に礼を言いなさいって感じだった。

 なんか腹が立ったけど、活躍したのは間違いなかったので何も言えなかった。

「助けていただいてありがとうございました。私、あのままだとあいつらに」

 緊張が途切れて恐怖が戻ってきたのか女の子は自分の肩を抱きながら震えていた。

「そのことなんだけど、二人のことを教えてもらえないかな」

 俺がそう聞くと女の子が話し始めた。

「私の名前は清水瑞樹って言います。こっちは弟の翔也です。多分襲われたのは私の能力が原因だと思います。能力のせいで町のキャンプを追い出されて噂になってたから…」

 俺たちは顔を見合わせた。

 確かにキャンプに入れてもらえず、孤立することは今では珍しくない。

 俺たちの拠点にはそうした者も数名いるからだ。

 しかし噂を聞きつけて狙われるほどとはいったいどんな能力なんだ。

「言いづらいと思うんだけど、その能力について教えてもらえないかな」

 俺は優しく警戒されないように問いかけた。

 瑞樹さんはこちらをじっと見て目を泳がせている。

 やはり警戒されるか。

 翔也くんは止めるみたいに瑞樹さんの服の裾を掴んでいた。

「大丈夫、俺たちの拠点には珍しい能力者とか町のキャンプでうまくやれなかった人がたくさんいるから。弓を使ってたそこの紗月とかがそうだし」

 紗月がなんか言いたげな顔をしていたが無視した。

 それを聞いて瑞樹さんは覚悟を決めた表情をして口を開いた。


「私が洗脳で弟が透過です」


 こりゃキャンプ追い出されるわ。

 俺たちは全員苦笑いしていた。


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