プロローグ
「いつまで寝てんの、早く起きなさい!」
月曜日の朝、僕は母に起こされ目を覚ました。
「ほんと、あんたは高校生にもなってだらしないんだから。朝ごはん冷めちゃうから早く降りてきなさい」
そう言って母さんはリビングのある階下へと降りて行った。
僕は母さんが明けたカーテンから入る朝日に、寝起きで開ききっていない瞼をさらに細めて、朝の始まりを感じた。
***
僕がリビングへ行くと父さんと姉と弟が食卓についていた。
「あんたが食べないと洗い物が終わらないのよ。早く食べちゃって」
母さんは調理道具を洗っていた手を止めて僕に言ってきた。
父さんと姉と弟はすでに朝食を食べ終わっていて、テレビでやっている朝のニュースを眺めていた。
――埼玉県玉津市厚志町で原因不明の損傷が見られる野良猫の死骸が発見されました。先月から日本各地で同様の事例が相次いでいるとのことです
そんな朝のニュースをしり目に僕はパンをかじった。
***
朝食を食べ終えて朝の支度を済ませた僕は寝癖をなおして、高校の制服に着替えた。
父さんの出勤を見送ってからしばらくして、僕も家を出て、登校用の自転車にまたがって高校へと向かった。
家から高校までは自転車で10分と少しかかる程度だ。
しかし、途中にある大通りの信号にひっかかるとかなりの時間待たされてしまう。
なぜだか、その大通りには歩道橋がないので、赤信号になると5分ほど足止めを食らうことになる。
そんなことを考えていると、先に見える大通りにある【歩行者・自転車専用】と書いてある信号が緑色に点滅していた。
月曜日から早々に運が悪い
僕は赤信号へと変わったそれを睨みつけて、道路の前で自転車を止めた。
こころなしか周りにいる人たちも憂鬱そうな表情をしている気がするのは、おそらく月曜日だからではない気がする。
信号が変わるのを待っていたその時だった。
突然、聞いたこともない轟音が鳴り響いた。
大地そのもの、いや大気すら震えているかのような世界の叫びと形容できそうな音だった。
その音を聞いた途端、視界が歪み船酔いにも似た感覚が僕を襲い自転車から転げ落ちた。
周囲にいた人たちも同様に苦しそうに頭を手で押さえてうずくまっていた。
しばらくすると轟音は鳴りやみ、状況に混乱しつつも立ち上がる人がちらほら出てきていた。
しかし、僕は一向に回復する気配がなかった。
むしろ時間が経つにつれて体の内側で何かが荒れ狂っているような感覚と全身の神経を針でつついているかのような痛みが僕を苦しめていった。
「熱い」
僕は何かのアニメで見た刺された人が痛いではなく、熱いと言っていたことを思い出していた。
あれ、本当だったんだ。
そんなことを考えている場合ではない。
これはやばい、本気でやばい。
次第に僕の中で荒れ狂っているものの抑えが効かなくなってきた。
これ、ダメなやつだ。
僕が悟ったのもつかの間、手から腕にかけて沸騰したようにボコボコと盛り上がって右腕が吹き飛んだ。
「ああああああああああああ」
僕は痛みよりもこれから起こることの恐怖に対して叫んでいた。
右腕だけにとどまらず、左腕、右足、腹部、頭部と一斉にボコボコと変形し、最期に僕のすべてを吹き飛ばし、周囲に血と臓物をまき散らした。
ほんとうに今日は運が悪い。
僕は最期の瞬間にそう、心の中でつぶやいた。
***
この日、日本は崩壊した。
日本全土を襲った災害は後に集団人体破裂現象と呼ばれ、歴史的な大災害として記録された。
日本人の約4割が命を落とすことになり、国を立て直すことは不可能かと思われた。
しかし、生き残りたちのなかに異能力をもつ者が次々と出現したのだ。
その力は人々に希望と絶望を与えることになる。
後に、異能力は特異な力と絶望的状況の打開という点からこう呼ばれることになる、“魔法”と。




