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第12話「聖女の祈りと涙」

次女と狂女と皇女 

第12話「聖女の祈りと涙」

文化祭前日。女学院は朝から大忙し。最終飾り付けやリハーサルで、生徒たちは興奮と疲れが入り混じった表情を浮かべている。自皆ジュンコは、実行委員として朝早くから校舎を回っていた。ポスターの位置確認、ゴミ箱の設置、会場案内板のチェック……影の薄い自分でも、みんなの役に立てている実感が少しだけあった。「お疲れ様、ジュンコ。もう少しで完成だね」ジュンコが廊下で案内板を直していると、共原キョウカが大きな段ボールを抱えてやってきた。「キョウカ……ありがとう。クラスのお化け屋敷、怖さ増したって聞いたよ」「ふひひ……ジュンコが来たら、一番怖い部屋で二人きりにしてやる予定だぜ♡」過激な冗談にジュンコが苦笑いしていると、公野コウミが優雅に(しかし少し疲れた顔で)現れた。「ジュンコ、お疲れですわ。私のクラスのカフェも、ようやく完成よ。高級スイーツが並んで、皆を魅了するはずですわ!」「コウミさんもお疲れ様。明日、楽しみだね」三人が少し立ち話していると、校舎の奥にある小さな礼拝室の扉が静かに開いた。そこから出てきたのは、聖灯セイヒ。白いベールのようなヘッドドレスを被り、穏やかな微笑みを浮かべたシスター風の少女。清い心の持ち主で、学園の礼拝室を管理し、悩む生徒の相談に乗ることが多い。いつも祈りを捧げ、誰に対しても優しい言葉をかける。聖灯は三人を見つけると、静かに近づいてきた。「みなさん、おはようございます。文化祭の準備、本当にお疲れ様です」柔らかな声に、三人が振り返る。「あ、聖灯さん。おはよう」ジュンコが控えめに挨拶すると、聖灯は優しく微笑んだ。「ジュンコさん、あなたが実行委員でみんなをまとめていると聞きました。本当に素晴らしいことです。神様も、きっと喜んでおられます」その言葉にジュンコは少し照れて、「そんな……私なんて、地味で……ただみんなの役に立ちたくて……」キョウカが少し警戒したように、「おいシスター。ジュンコに宗教勧誘すんじゃねぇよな?」コウミも、「そうですわ。ジュンコは私たちの大切な友人ですのよ」聖灯はくすっと笑って、首を振った。「勧誘だなんて、そんなつもりはありません。ただ……ジュンコさんを見て、ふと思ったんです。あなたはいつも誰かのために頑張っているのに、自分を大切にしていないように見えて……」その言葉が、ジュンコの胸に少し刺さった。聖灯は続ける。「実は、今日の朝、礼拝室で祈っていたんです。文化祭が無事に成功しますように、そして……ジュンコさんが、少しだけ自分のことも大切にできますように」ジュンコの目が、少しうるんだ。「聖灯さん……ありがとう。そんな風に祈ってもらえるなんて……」聖灯はそっとジュンコの手を取り、「あなたは優しすぎるから、疲れてしまうんです。明日、みんなが楽しんでくれるのは、ジュンコさんがいるからこそですよ」キョウカが少し気まずそうに、「……シスター、意外と鋭いな。ジュンコ、確かにちょっと疲れてるかも」コウミも、小声で、「そうですわ……私たち、ジュンコに頼りすぎてたかも……」聖灯は三人を見て、穏やかに言った。「共原さん、公野さん。あなたたちも、ジュンコさんを大切に思っている気持ちが伝わってきます。だからこそ、明日、ジュンコさんが笑顔でいられるように、みんなで支えてあげてください」その言葉に、二人が少し頷いた。突然、校内放送が流れた。「実行委員の自皆ジュンコさん、至急職員室へお願いします」ジュンコが慌てて、「ごめん、行ってくる!」と走り出す。残された三人は、少し黙っていた。聖灯が静かに、「ジュンコさん、本当に頑張り屋さんですね。……実は、私も昔、似たところがあったんです。みんなのために頑張りすぎて、ある日突然涙が止まらなくなって……」キョウカが珍しく真剣な顔で、「シスター……お前も、そんなことあったのか?」聖灯は小さく頷き、「はい。だから、ジュンコさんが同じようにならないよう、祈っているんです」コウミが、「私たちも……もっと、ジュンコの気持ちを考えないとですわ」職員室で、ジュンコは先生から「明日、開会式の挨拶を頼みたい」と頼まれた。「え、私が……?」影の薄い自分が、みんなの前で挨拶なんて。緊張で手が震える。でも、先生は優しく、「君が実行委員として一番頑張ってるからね。みんなも、きっと喜ぶよ」ジュンコは礼拝室に戻ると、聖灯が一人で待っていた。「聖灯さん……私、開会式の挨拶を頼まれちゃった……緊張して、ダメかも……」聖灯はジュンコを抱きしめるように手を握り、「大丈夫。あなたならできます。私も、明日、一番前の席で祈っていますから」その温かさに、ジュンコの目から涙がこぼれた。「ありがとう……聖灯さん」キョウカとコウミが戻ってきて、ジュンコの涙を見て慌てる。「おいジュンコ!? どうした!?」「ジュンコ、泣かないでちょうだい!」ジュンコは涙を拭きながら、笑った。「ううん……嬉しい涙だよ。みんながいてくれて、聖灯さんが祈ってくれて……私、明日、頑張れる」聖灯は三人を見て、優しく微笑んだ。「神様は、いつもあなたの味方ですよ」文化祭前日の夕方。校舎は静かになり、明日のために灯りが消えていく。ジュンコの心は、少しだけ軽くなった。聖女の祈りが、ジュンコを優しく包んでくれた。明日、みんなの笑顔が見られますように。

(第12話 終わり)

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