椎茸隊士 課題
……羨望している。
……渇望している。
……宿望している。
天はなぜ我に使命を与えるのか。
露に光る草花は青々と茂り、浅瀬を泳ぐ稚魚たちは流麗に流れる。
かぐわしい自然の営みに従い、日に照り、陰に憩い、鳥の囀りに心躍らす。
生命の根源たる生業は遺伝子にきざまれているはずだった。
願い。
ある者は巨万の富を回収を求めるだろう。
ある者は千の羊を束ねる王を望んだであろう。
ある者は血肉わき踊る戦場で数多の首を切り落とすであろう。
たとえそれが永劫でなくとも。
つかの間の享楽。
刹那の快時。
悠久は望んでなどいない。仮初めの休息でいい。
有給。
有給!!
ただ一点のみを望む。
休みをくれ。
死んでしまう!
劣悪な環境だった。
ノイズ交じりの昼の放送が鳴り響く中でも、仕事に心を奪われた同僚は打楽器を打ち込んでいた。この音がいいんだよ、と自前で購入したAは毎日青い顔をしながら謝罪文を入力している。
受話器をとったら戦闘の合図だ。金切り声の婦人が、ねぇを連呼しながら問い詰めてくる。
はい、存じております。おっしゃるとおりです。つきましては。のちほど。
有り体の枕詞を言い並べながら、クレーム対応マニュアル「さしすせそ」を思い出す。
さようでございます。
承知いたしました。
すみません。
誠心誠意対応いたします。
そのように対処いたします。
言葉の並びかえで時間を稼ぎ、留飲を飲んでもらう。
「まずい、雨宮が倒れた」
「救急車はかけるな。労災だと面倒だ」
「タクシー呼べ、いますぐ!」
雨宮、頼む。午後には点滴をつけて戻ってきてくれ。
また電話が鳴り響く。
手にしたコピー用紙を裏返しにしてメモを取る。
きょうもまた有給申請書が台無しだ。