しょっぱい水
汗、舐めてもいい?
って訊いたら、あなた、理由も聞かず、いいよ、って笑ってくれた。
ぺろり。ああ、美味しい。ちょっとしょっぱくて、甘い恋の味。
くすぐったいよ。
顔をくしゃくしゃにして、また笑う。
大好きよ。あなたの滴る汗が、私、好きなの。
だって、水だけじゃ足りないもの。塩分も必要でしょう?
もっと遠くへ行ってみよう。
あなたはそう言って、私の手を引き、岩場を慎重に歩いていった。
人気のないほうへと私をいざなう。
足元を気遣いながら。やさしいひと。
でも、少し、怖い。ときどきあなたが少し怖くなる。
私を見つめる眼差しが、私を溶かしてしまいそうで怖いの。
知ってるかい?
昔ここで、若い女の人が溺れたことがあるんだって。
震える私に意地悪な瞳を向ける。
これ以上私を怖がらせてどうしようというの?
私はあなたの腕をぎゅっとつかんだ。
あなたも私の背中をぐいと引き寄せる。
鍛え上げられた筋肉質の腕で、私をとらえて離さない。
その女の人、恋人に突き落とされたらしいよ。
また、悪戯小僧みたいな瞳が光る。
私はその瞳を食い入るように見つめた。
夕暮れ時の潮風が、ふたりの汗を奪ってゆく。
喉が渇いちゃった。
私は上目遣いで潤んだ瞳を向けて、甘えた声で顔を寄せた。
どうしたの? 急に真っ青になって。
どうして? あのときは笑っていたじゃない。
私が海の中でもがいていても、ただ笑って見ているだけで。
喉が渇いちゃった。
もう一度言ってみたけど、あなたはぶるぶる震えるばかり。
何も答えてはくれないのね。
身体中の汗が引いて、渇きを癒す水もない。
私はあなたの瞳を見つめつづけた。
あなたの潤んだ瞳は、たっぷりの塩水を湛えている。
なんだ、ここにあるじゃない。
あなたは必死で私の腕を解こうとした。
でも、私はそれを許さない。
あなたがどれほどもがこうが、私はただ笑って見ているだけ。
あなたは必死に叫んでいる。
やめてくれ……やめ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
べろり。
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ああ、美味しい。もっとちょうだい。
水だけじゃ足りないもの。刺激も必要でしょう?