1 首落としの女大公
アレクサンドラが追放されて僅か3年、ファルス王国は滅亡した。
フレイム帝国が宣戦布告するや否や、王都は一週間で陥落した。帝国軍は王国軍の兵の配置や動きを知っているかのような進軍で、恐るべき早さの電撃戦だった。
王都を包囲されると国王アレクセイは徹底抗戦を主張したが、臣下のほとんどは降伏を主張した。だが、議論などまったく意味がなかった。防衛戦だと言うのに王国軍の士気は低く、脱走が相次ぐ有り様だった。民は王も軍も信用していなかったから、帝国軍に蹂躙される前に逃げ出そうと、内から城門を開いた。暴動もあちこちで発生した。
帝国軍は隙を逃がさず、一気に王都へ雪崩込んだ。帝国軍が王城を占拠すると、貴族や王族、そして国王アレクセイが捕らえられた。帝国軍の屈強な騎士団が王の間に揃い、指揮官たる将軍と副官を迎い入れた。
アレクセイは驚いた。目の前に現れた副官が兜を脱げば、見知った人物だったからだ。
「アレクセイ国王陛下、お久しぶりでございます」
そう慇懃に声を発したのは、アレクセイが冤罪で追放したはずのアレクサンドラであった。
彼女が手を引いたのであれば、帝国軍の進軍の早さも頷ける。兵の配置や装備、指揮官の性格に至るまで最初から全て筒抜けだったのだ。婚約者として施した王妃教育には、ファルス王国の国防・軍事も含まれていた。ここでもアレクセイは間違っていた。王妃教育が施されたアレクサンドラを追放する位なら、毒杯を下賜すべきだったのだ。
アレクセイの処刑の日。
アレクサンドラは、戦場を駆ける戦神、戦乙女をあしらった綺羅びやかなドレスを纏い処刑場に現れた。右手には、女性でも軽く振るえるという帝国所有の宝剣を握っている。自らを戦乙女に準え、アレクサンドラ自ら神の代行者として名乗りを上げたのだ。
「お優しいことで」
後ろ手に縛られ、首を差し出すような姿勢で取り押さえられた国王アレクセイ。アレクサンドラはその耳元に顔を近づけると、そう、一言呟いた。アレクサンドラを殺さず追放で済ませるからこうなったのだという、侮蔑、嘲笑、皮肉。
猿轡が噛まされているアレクセイの応えがあるはずもなく、垂れた頭が僅かに動いたのみだった。
アレクサンドラが右手を大きく振り上げれば、血垢一つない剣先がキラリと光った。観衆は息を呑み、ただその一点を見つめた。
次の刹那、剣は叩きつけるように振り下ろされた。
一撃でアレクセイの首が胴体から分かれ転げ落ち、ファルス王国の民だったはずの観衆から割れるような歓声が上がった。
その後ー。
ファルス王国の王族は妃や子どもに至るまで、連座で一人残らず殺された。政を担っていた重臣も全員、処刑された。
一方、副官として従軍したアレクサンドラは、帝国の皇帝から、祖国の地を治める大公として封じられた。
以後、アレクサンドラは『首落としの女大公』と呼ばれ、畏怖と敬意の対象になったという。




