【2】聖女と枢機卿 2
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無事に起こす事もなく、神獣から怒りを買う事もなく、天幕へ寝かす事にある種の達成感を感じた面々は安堵するとともに枢機卿の次の指示を待った。
「聖騎士は捕らえた賊から情報を聞き出せ。愛し子様が目を覚ましたら、御訊きし、真偽を確かめる。」
「はっ。」
「神官は神獣様に伺いを立て、愛し子様の側に控えられるか聞くのだ。ただし、神獣様の機嫌を損ねない事を注視せよ。」
「はっ。」
各々が散っていくのを眺めながら、枢機卿はこれから起きるかもしれない事態に頭を巡らせるのだった。
それから暫くして、神官から愛し子様が目を覚ましたという事を耳にする。
「愛し子様。お目覚めになられたと聞き、馳せ参じました。私は教会にて枢機卿を賜っております、フォーロスと申します。愛し子様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。私はメリシャです。…あっ!」
「どうしましたか?」
声を上げたメリシャに、一抹の緊張が走る枢機卿。
「えっと、この子はルー。」
メリシャが足下にいた子狼を抱えて、そう告げた。
子狼はメリシャに名を呼ばれて、誇らしそうに胸を張る。
枢機卿は何も見ていない体で聞いているが、知っている事をメリシャに告げる気はない。
「それと、この子はネリ。二匹とも良い子なんです!」
肩に乗った小鳥はメリシャの頬に擦り寄り、メリシャに呼ばれた事を嬉しく感じていた。
微笑みながら紹介するメリシャだが、目の前の枢機卿が子狼と小鳥に睨まれて手に汗を握っているとは気付いていなかった。
「はい、ええと。賊を捕らえて聞き出したところ、御両親も捕えられていたらしいのですが、行方を伺ってもよろしいでしょうか?」
「っ!?」
「ーーああ。辛い思いをされましたのに、配慮が足りず申し訳ありません。すぐにお探しいたしますので、こちらでお休みになられてくださいませ。」
メリシャが怯えるように肩を振るわせる光景に、枢機卿は焦って視線を外して天幕を退出していった。
そのお陰でメリシャが辛い記憶からでなく、真相を隠そうとする思いからだという事を知られずに済んだ。
教会の枢機卿とは街や村にいる神父よりも上の地位に立つ者たちだ。
その階級にある枢機卿に女神と出会ったという荒唐無稽な話を話す気になれなかった。
「お父さんも、お母さんも心配してないかな。」
(大丈夫ですよ、メリシャ様。)
(そうです。きっと女神様が心配ならないよう、手配してくださっている筈です。だから、今は休みましょう?)
「うん。ありがとうね。」
心配するメリシャに寄り添う二体は励ましながら、不安が取り除かれるように願いつつ、メリシャと眠りについた。
「愛し子様は知らないようだ。御両親の居場所を何としてでも突き止めよ。」
「はっ。しかし愛し子様の一家を襲うとは到底許せませんな。」
「愛し子様は大変怯えていらっしゃる。遠く離れた地で、調査するのだぞ。」
「心得ております。」
枢機卿は聖騎士に命じると、再びメリシャのいる天幕の前へ赴いた。
入り口を捲ろうとした時、足下から緑色の羽根を持つ小鳥が現れる。
『メリシャ様はお眠りになられた。お目覚めになられるまで、静かにせよ。』
「はっ!」
小鳥のままメリシャの元へ飛んでいく背を眺めることなく、入り口を閉ざした枢機卿は背後に控えていた聖騎士と神官を伴い、会議を開くことにした。
会議の結果、教会の上層部である教会本山へ伝令を送る事が決められた。
独自に調査をしていた聖騎士の報告によれば、一家を妬んだある農園の者が、その農園と懇意にしていた貴族を抱き込んで襲撃を図ったらしい。
文書に事細かに記載した文を持たせて、本山へ向けて急使を走らせた。
何度聞いてもメリシャの両親の行方を知らぬ存ぜぬと叫ぶ賊を懲らしめた聖騎士は教会で身柄を拘束し、メリシャが目覚めるのを静かに待った。
メリシャが目を覚ました後、これからの行動を軽く説明してメリシャを連れた一行は本山への文に記載した領都へ向けて出発する。
先に賊を詰め込んだ荷車を向かわせていたため、メリシャに無理を強いる事なく、一行は進む事ができていた。
本来であれば道中を立ち寄った街や村の宿屋を頼るのだが、今回に限って言えばメリシャを他の教会関係者に知られる事を避けるため、野営を繰り返して目的地へと走った。
目的の領都へ辿り着いた一行は平民のメリシャを気遣って、領都内にある高めの宿屋に泊まり、翌日に領主と会う事になった。
事前に知らされていた領主は柔らかい笑みを浮かべてお互いの情報を交換し、話し合いの結果、使節団が来るまで自由に住むことが決まった。
枢機卿が話している間、メリシャは他の聖騎士と神官に付き添ってもらい、領主の庭で弾んだ会話をしていた。
その時、少年が近寄ってきたのを察した聖騎士が立ち上がるが、メリシャを少年の視界に入れてしまった。
この領都の主人である領主は貴族や国に顔が効き、教会出身の貴族でもある。
「何で、こんな所に平民のガキがいるんだ!」
少年はメリシャだけを視界に捉えて、聖騎士が止める暇もなく、指を刺しながら叫んでいた。
神官は急いで驚くメリシャの耳を塞いだが、守護者たる神獣の耳に入ってしまっていた。
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