【1】聖女と女神の邂逅
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聖女と女神の邂逅
6歳を過ぎた子供は国中に建てられた教会で女神に祈り、巫女を選定することが国教として決められている。
農園を持つ家族のもとに生まれたメリシャが教会で祈りを捧げた日、巫女選定の場で聖女が誕生した。
農園になる作物によって、それまで村で1、2を争うほど裕福になった農園一家が恨み、教会から家路に着く一家が襲われた。
メリシャが目を覚ました時、一家は暗い建物内に閉じ込められ、目の前にいる父親と母親は怪我を負っていた。
(誰でも良いから、誰か助けてください!)
意識が戻らない2人を前に、メリシャはただ祈りを捧げ続ける。
眠気に抗いながら、祈り続けるメリシャに囁く優しい声が聞こえ、目を開けた先に、そこには女性が1人佇んでいた。
「どうしたのですか。我が愛し子よ。」
「あなたは…どなたですか?ここには私達しか居なかった筈なのに…。それに愛し子って。」
「私はあなた方に日々祈りを捧げてもらっている女神です。そして愛し子、というのは私が祝福を与える存在に授けられる名、と言えば分かるでしょうか。」
意味を知ったメリシャは微かに場を選ばなかったことに肩を落とす。
「そんな女神様。このような場所にお呼びして申し訳なく…。」
「良いのです。けれども、ここはあなたが居るべき場所ではないでしょう。」
「はい…。教会から帰るところまでは覚えているのですが、目覚めたら、ここに居て。そうだ!父と母が目覚めないんです。どうか助けていただけないでしょうか?」
「そのために参りました。私は愛し子の憂いに応え、あなたに祝福を与え、あなたの周囲が幸せになれるよう、尽力しましょう。」
「ありがとうございます、女神様。」
深く頭を下げる愛し子を前に、女神は外を透視して方法を模索する。
(選定した日に、これほどの蛮行を冒すなど万死に値します。まず、この一帯を燃やしましょうか。そうすれば嫌な記憶も無くなるはずです。このような蛮行をーー)
「女神様。どうかなさいましたか?」
「いいえ。ではご両親を癒しましょう。ですが、このような悪環境にいることはなりません。すぐにでも安全な私の庭へ送りましょう。」
「待ってください。家族だけ送っていただけませんか。私は聖女であることを伝えれば、悪いようにはしないと思うんです。」
「ふむ。私は愛し子の憂いに応えますが、ならば彼らを残していきましょう。きっとあなたを守ってくださるでしょうから。」
「家族をよろしくお願いします。女神様。」
「ええ。ご両親のことはお任せなさい。そして我が愛し子には、守護者を与えましょう。」
(眷属よ。我が愛し子を護るため、参じなさい。)
女神がメリシャの目前を手を向けると、その場に2体の獣が姿を現した。
1体は子狼の姿を持ち、黒い体毛に薄浅葱色の瞳でメリシャを眺めている。
1体は小鳥の姿を持ち、緑の羽根に金糸雀色の瞳でメリシャを観察している。
「えと。お名前はなんと言うのでしょうか?」
「本来の名はありますが、愛し子に名付けられることを彼らは望んでいます。」
(うーん。どうしよう。)
「まだ時間はあります。ゆっくり考えてみてください。私はご両親を案内しましょう。」
「…はい。」
上目遣いの2体を見ながら悩み続けるメリシャを眺めつつ、女神は2人の案内を始めた。
怪我が癒えても意識の戻らないメリシャの両親を天使に預けた女神は、信心深い信徒を探した。
女神の目には女神に祈る人々が持つ信仰心の強さを見ることができる。
そしてある都市の教会で、指示を出す男に目が留まる。
『そこな信徒よ。』
「っ!これは女神様であらせますか。」
『神託である。心して聞くが良い。』
「はっ。」
(女神の神託は女神の気まぐれが多いが、その多くは民にかかる災いに関わることが多い。此度は何に対してなのか見極めなくては…。)
『此度、我が愛し子を見出した。その愛し子と愛し子の一家が襲われてしもうた。愛し子の願いで一家の安全を第一に考える愛し子に胸を打たれたが、誰を差し向けるべきか悩んでおった。長き信仰心を持つお前に、その任を任せようと思う。良いか?』
「はい。承りました。この命に代えましても、お救いいたします。」
(女神様、お怒りだったなぁ。)
女神の気配が消えた先に向かって祈りを捧げていた男は立ち上がり、教会奥から出て指示を出す。
「聖騎士に告ぐ。全員武装し、表に出よ!」
夜を見回っていた神官や聖騎士は突然の招集命令に慌てふためいて、眠っていた非番の同僚を起こし、教会にいた全員が騎馬を率いて集まった。
都市にいた領民が突然のことに逃げ出す中、男は告げる。
「これより緊急の出動を命じる。命令は走りながら告げるが、女神の思し召しであることを厳命せよ。」
「ですが枢機卿。陽が出てからでも良いのでは…。」
「ならば、お前は残るが良い。私1人でも行くぞ?」
「くっ。行けば良いのでしょう。」
「ーー行くぞ!」
馬に跨った男…枢機卿を前に、聖騎士らは後に続いた。
更にその後ろを神官が続き、強行軍のような一団が領内を駆け巡った。
その報は領地を治める領主に伝わるのに、それほど時間は掛からなかった。
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