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買い物とお茶と1

 森を出てマリンシェルの町に着くころには、もう夕暮れ時だった。


「ほほーっ、ここがクロ様の暮らされている町ですか! ううむ……なんというか冴えない港町ですな……クロ様には相応しくないような……」


 町を眺めながら、オヤカタくんが述べる。

 そう、オヤカタくんだ。

 オヤカタくんがいるのである。

 どうしてかというと――


「オレはクロ様の下僕となったのです! これからは常におそばにおります! なのでオレも一緒に行きますぞ!」


 とまあ、こういう理由だ。


「クロさんクロさん、大丈夫なんですか?」


 チコが声を落として話しかけてくる。

 どうやらチコはオヤカタくんを少し怖がっているらしい。

 まあ、盛大に殴る蹴るの暴行を受けたんだから、無理もない。


「チコ的にもギルド職員としても、町の中に魔物を入れるというのは……」


「おお、珍しく意見が合うなチコくん」


「はい? こんなの誰でも意見が一致するに決まっているじゃないですかぁ」


「むう」


 チコに冷たくあしらわれて、ロゼは面白くなさそうに唸った。


「やっぱりロゼも反対?」


「あ、ああ……やはりその、な」


 わたしが訊ねると、ロゼはバツが悪そうに目を泳がせる。


「どうしてダメなんですかっ! ワタシはクロちゃんの家に居てもいいってロゼちゃんは言ってくれましたっ! ワタシはよくて、どうしてオヤカタさんはダメなんです?」


 少し怒っているような語気で、ミュウはロゼに言葉をぶつける。


「そ、それは……」


「ふっ……いいんだよ、人魚のお嬢ちゃん。オレは人間から見れば所詮、魔物なのさ」


「オヤカタさん……」


「ねえロゼ、チコ、わたしの方で面倒は見るから、なんとか認めてもらえないかな」


 わたしが改めてお願いすると……


「……まあ、クロがそこまで言うなら自分は構わないが……町の人たちにはなんと説明する気なんだ?」


「うーん……わたしのペットとか?」


「それで納得してくれるだろうか……」


「納得してくれるんじゃないですかぁ、この町の人たちって、なんというか平和的ですし」


 チコはちょっと含みのある言い回しをする。


「それにクロさんは、すごく信頼されているみたいですしねぇ。……でも、被害に遭った冒険者さんたちはどうでしょうねぇ」


「もうそれはオヤカタくんが謝罪するしかないよ」


「なんですと!? なぜオレが人間なんぞに頭を下げねばならんのですか!」


「んー、襲ったから……かな? それに、そうしないと町、というかわたしの家には居られないと思うけど」


 こっそり、というのは嫌だし。


「ぐぬぬぬ……」


 頭から湯気でも噴き出すんじゃないかってぐらいに悩むオヤカタくんだったけど、結局は冒険者や旅の商人に謝る道を選んだのだった。


「ところで気になっていたのだが……クロはどうしてそこまでオヤカタやミュウくんに優しくするのだ?」


 町の中に入ったところで、いきなりロゼが言い出した。


「え、そんなに意外?」


「少しな。クロはどちらかというと面倒事を厭う方だろう」


 たしかに。だけどまぁ、ミュウもオヤカタくんも可愛いし。

 わたしは可愛いモノに弱い。だからつい優しくしてしまうのかも。


「あーあーフォイアロートさんたら、わかってないですねぇ。よくそれでクロさんの友人を名乗れたもんですよぉ」


「なに?」


 チコの挑発的な物言いに、ロゼはまなじりを吊り上げる。


「クロさんはなんだかんだで優しいんですよねぇ。だからこの人魚とか、きのこみたいに押しが強いキャラには弱いんですよ。頼られると放っておけないというかぁ……そういう所もまた魅力的なんですけどぉ」


 押しが強いのに弱い、か。否定はできない。チコもかなり押しが強いから。


「それとぉ……あとはコレです」


 チコは制服のポケットからなにかを取り出してロゼに見せた。


「ああ。なるほど、それか」


 ロゼは得心いったというように頷く。

 チコがポケットから取り出したのは、クマのぬいぐるみだった。チコがいつも持ち歩いている可愛いクマのぬいぐるみだ。わたしは密かに狙っていたりする。

 でも、ロゼはなにを納得しているんだろう。わたしが可愛いモノ好きなのはバレていないはずだし、まったくもって謎だなぁ。

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