ミッション13;観覧車1周のうちに求婚せよ
遅ればせながら、ハル先輩&健太シリーズの最終回です。
お楽しみいただけると嬉しいです。
「次の方、何名様ですか?」
「に、2名です」
並んでいる間、チラチラと周囲を気にしていた俺は、緊張しながら答える。愛想のよいスタッフがゴンドラに案内してくれ、丁寧に扉を閉めて送り出してくれた。
「行ってらっしゃいませ!」
ゆっくり上昇を始めると、今まで並んでいた列や周辺を見渡しながら、誰にも見つからずに済んだと安堵する。
向かい側には職場とは違うハーフアップにスカートと柔らかな印象の、明らかにデート仕様なハル先輩。こうして初めて二人で観覧車に乗せられた日から約2年、付き合い出したものの、それまでの人間関係が希薄で恋愛も初心者だった俺には良くも悪くも濃い日々で、正直悩んだり舞い上がったり凹んだり持て余したりの連続だった。
昨年は別部署で不参加だったし関係もギクシャクしてたけど、また来られた事務所定番の親睦日帰り旅行。
ホントは人目に付く可能性がある場所なんて避けたかったけど、やっぱりここしかないと思う。コートのポケットに入れた小さな箱を、そっと確認した。
「顔、真っ赤だよ、寒かったもんね」
リラックスした笑顔で聞かれても、こっちの緊張は解れない。決心したけど、いざとなると心臓はうるさいし頭は真っ白になりそうだ。
「そっちに座ってもいい?」
聞いたクセに、俺の返事を待たずに隣に座るんだ。ヘタレで押しの弱い俺は、情けないと思いつつ、そういうちょっと強引なところに助けられている気さえする。
先輩といると未熟で格好悪いところばかりが気になって、ずっと努力してるつもりだけど追いつけそうにない。
先輩が好きで一緒にいたい、だけどそれは俺が頼れる男になって自信を持てるようになってから。
漠然と考えていたけど、心配していた母の容体は落ち着いて、面倒見てるつもりの弟は学校の仲間と起業、経済的にも自立できるぞと豪語された。
そもそも合格点がある訳じゃなし、クリア可能な経験値が決まってる訳でも無い。タイミングとお互いの気持ち次第だと励まされてここに来たんだ。
ゴンドラは頂上を過ぎようとしている。
小箱を開けて差し出し、正面から先輩を見据えた。
「ハルさん、俺と結婚してください」
「・・・はい」
驚いて口元を抑えた手を、笑顔で差し出してくれた。緊張しながら、その薬指に小さなダイヤがついた指輪を嵌めると、溢れる感情のままに強く抱きしめる。
その手を取って地上に降りると、いつの間にか集まった同僚達に小突かれまくり、けっこう痛かった。
なろうラジオ大賞、間に合いませんでした・・・。
が、なんとか最後まで書けて個人的にはスッキリです。
昨年末のインフルエンザは、期間も症状も過去最強クラスの不調。
体力の無い乳幼児や年配者には命の危険あり、と言われて納得。
体調には、くれぐれもお気をつけください。