表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/34

第12話

 



 「息を吐いて。しっかり意識を保って」




 落ち着いた声色が、アンバランスな時間差の底に落ちてくる。


 ふくよかな感触が肌の先に掠める。


 尖った先端が降り注いでくる。


 押して、引いて。


 交互にすれ違う、軋みのような厚み。



 今、何が起こってるのかの理解は、遥か遠い場所にあった。


 彼女の言葉の大部分は、繋ぎようのない破片となって散らばっていた。


 それは「言葉」だけじゃなくて、もっとずっと、身近に動いているもので…




 「……………くっ」




 刺すような痛みが、そこらじゅうで起こってた。


 グワングワンする頭が、地響きのようにうねってた。


 どうすることもできなかった。


 手は縛られてるし、動くことすらままならない。



 …本当に、俺は死んだのか…?



 不意にそう思ってしまったのは、目の前の「現実」が、あまりにも“剥離”していたからだ。


 こんなこと、起こるはずがない。


 ここは地獄か何かで、俺は今「あの世」に…?


 まさか、…夢…?


 


 目の前にいるのは天ヶ瀬だ。


 それは間違いなかった。


 ただ、だからこそあり得なかった。


 天ヶ瀬がどんな子なのかは、まだよくわかってない。


 出会って数ヶ月だし、同じクラスってだけで、そんなに話したこともない。


 接点だってほとんどない。


 たまたま隣の席ってだけで、たまたま、“共通の趣味”があるってだけで。



 …だけど、「変な子」じゃないっていうのはわかる。


 クラスのみんなは天ヶ瀬の虜になってる。


 容姿端麗で、成績は優秀。


 おまけに明るい性格ときた。


 付け入る隙なんてなかった。



 ガッ



 髪を掴まれて、無理やり顔を持ち上げられる。


 抵抗もできないまま、俺は痛みに耐えるしかなかった。


 彼女は俺の目を見て、必死に何かを訴えかけた。


 その全部を拾い切ることはできなかった。


 「大丈夫だから」


 そう言っていることは、確かに聞き取れた。


 突っぱねるようで、どこか静かな“温かみ”を、——持ちながら





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ