影と闇
影に溶け込んだまま、近付いていく。
魔法の攻撃範囲まで歩いていくが、ワイバーン達がこちらに気付いた様子はない。
俺の闇魔法の練度が上がっているおかげか、現時点でも隠密性はかなり高いようだ。
これなら王城に忍び込んで御津川君と情報交換することもできるかも。
……って、今はそんなことを考えてる場合じゃないか。
「シャドウアーツ」
アイテムボックスから剣を取り出し、それぞれに闇の魔力を纏わせていく。
シャドウアーツは闇属性の魔力を武器に付与することで、それを自在に操ることができるようになる魔法だ。
高LVで覚える闇魔法の一つではあるが、得物の質によって威力が大きく変わってしまうため少しピーキーな性質を持つ。
レブナントから頂戴した刀と直剣に闇属性が付与されていき、刀身が黒く染まっていく。
これで下準備が完成した形だ。
『騎士の聖骸』から採れる武器はアンデッドが使っていたものだからか、闇魔法と非常に相性がいい。
俺の手を離れた十を超える刀剣が、ワイバーン達の方へと向かっていく。
同時に発動準備を整えた魔法を起動させる。
「ダークナイト」
既に夜の帳の下ろされた暗闇の中にいるワイバーン達の周囲が、更に深い闇に染まっていく。
闇魔法LV9の魔法であるダークナイトは、ドーム状の漆黒の闇を作り出すというただそれだけの魔法だ。
ただし深淵なる闇は、全てを覆い隠す。
ダークナイトによって生み出される闇は全てをかき消す。
どれだけ明るい光を放ったとしても外に漏れ出すことはなく、音や衝撃といったあらゆるものを闇の帳の中に押し込めてしまう(ちなみに、強力すぎる光魔法を使うと闇が払われてしまうためそこは注意が必要だ)。
こいつを使うとどうなるかというと……。
「シャドウアーツ」
「「GYAAAAAAA!!」」
空中を自在に飛び回る刀剣が、ワイバーンを切り刻んでいく。
ワイバーン達は苦悶の声を上げるが、当然その声が外に漏れることはない。
俺の方もジョウントを使いワイバーンの懐へ入り込み――そのまま一閃。
聖骸の騎士が使っていた白色の剣は、抵抗もなくするりと一体のワイバーンの首を落としてみせた。
「GOOOOO!!」
近くにいたワイバーンがこちらの存在に気付き、プクリと喉を膨らませる。
火炎袋と呼ばれる場所に溜めた可燃性の魔力と、魔力自体によって生み出される炎を組み合わせて放つ竜種の特殊攻撃であるブレスの予備動作だ。
一度食らってどれくらいの威力があるのかを確かめてもいいかも……いや、そうだ。
せっかく余裕があるんだから、あれを試してみるか。
「聖魔反転」
聖骸の騎士を倒すことで手に入れたギフトの『聖魔反転』を使うことにする。
こいつの効果は聖と魔、つまり光魔法と闇魔法の属性を反転させること。
このギフトを使っている最中は、光属性が闇属性になる。
まぁ見てみるとわかりやすいだろう。
「リフレクション」
魔法を反射する光魔法のリフレクション。
本来であればうっすらと光を纏っている透明なバリア状の魔法が、今は完全に漆黒に染まっていた。
「GYAAAAA!?」
ワイバーンが放った炎が、リフレクションに命中。
闇属性を纏い黒炎になったブレスが、放ったワイバーンへと反射して飛んでいった。
とまぁこんな風に光魔法が闇魔法に変わり、若干効果も変わるわけだ。
ただこのギフト、致命的な欠点がある。
――人間への回復は光魔法でなければ効果を発揮しないため、この聖魔反転を使っている間は回復魔法を使っても傷が治らないのだ。
未玖と一緒に試した結果、相手の光魔法による治癒も完全に阻止できるため、対人戦ではかなり役に立ちそうだけどね(ちなみに練習を繰り返しているうちに、未玖から闇魔法のスキルが生えてきた。闇墜ち聖女が誕生した瞬間である)。
あと、ギフト自体のLVが低いからかジャッジメントレイやアイギスのような高LV魔法だと聖魔反転が発動しない。
『聖女』のギフトにはLVがないけれど、『自宅』や『聖魔反転』にはLVがあるんだよね……これもまた未だに解明されていない謎の一つだ。
とまぁそんなことを考えながら反転させた光魔法を使って戦っているうちに、ワイバーン討伐はあっという間に終わった。
アイテムボックスで死骸を全て回収してから、血痕などの証拠を土魔法を使って地面を掘り返して隠滅。
そのまま『自宅』を使い、何食わぬ顔でヴェーロへと戻る。
そしてその二日後、不思議そうな顔をしているギルドの受付嬢から越境の際にこなせそうな依頼を受け、俺達はそのまま神聖エルモア帝国へと入国するのだった――。
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