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出会いと別れ


 ウェントの街へ入る。

 その際未玖とティナリアの身分証がないことが問題になった。


 通常の場合、ギルドや有力者なんかが身分を保障していない人間が街に入る場合、厳格なボディチェックと銀貨三枚もの通行料が必要となる。


 そう、問題とは――俺も未玖も、通行料を払うとすっからかんになるくらいに金がなかったのだ。


 未玖の場合、そもそも合流した段階で食料品や寝袋くらいしか持っていなかった。


 そして俺は、アイテムボックスに金になりそうなものは大量に入っているんだけど、これを下手に換金して注目されるのも避けようと思っているのであんまり気楽に売ることができず、ほとんど全てを死蔵してしまっている。


 冒険者ギルドには『騎士の聖骸』から出た素材やアイテムなんかは買い取らないというルールもあるわけで、なんとかバレないように捌く方法はないものだろうか……。


「マサルさんほどの魔導師であれば不可能なんてものはないと思ってたけど……お金って世知辛いんですね……」


 凄腕魔法使い(に見えている)俺の財布が通行料を払ってすっからかんになったのを見て、ティナリアは現実の恐ろしさを知ったようだ。


「だ、大丈夫です! 絶対に借りたお金は、利子つけて返しますので!」


 なぜか拳を握りながら、そう約束してくれた。

 俺そんなに頼りなく見えますかね……見えますか、そうですか……。


 ウェントの街は、王都と比べると全体的に大きかった。


 土地の値段が安いからか建物も一階建てで面積がでかいものが多く、冒険者なんかの肉体労働者が多いからか売っている食べ物もサイズが大きめだ。


「はへぇ、王都とは全然違うねぇ……」


「たしかに、でも活気はこっちの方がありそうだね」


 王都グリスニアは良くも悪くも、ある程度こなれているというか都市的な感覚のする街だった。


 ウェントの街はそれと比べると建物の感じや着ている服なんかは野暮ったいところも多いような気がする。


 けど王都と比べると歴史が浅いからか、その分だけ一人一人の活力が大きいようで、街全体が活気に満ちていた。

 暮らしていて元気が出そうなので、俺個人的にはこちらの方が好みかもしれない。


「ティナリアとはここでお別れだな」


「はい……」


 なんとなく街の中をブラついていた理由には、別れが切り出しづらかったというのもある。


 なんやかんやで開拓村で彼女を拾ってから、既に二週間近い時間が経っている。

 それだけ一緒に生活をしていれば、どうしても情が湧いてくるものだ。


「何して働くか決まった?」


「私……とりあえず色々とやってみようと思うんです。自分に何の才能があるかなんて、やってみないとわからないですし」


「いいことだと思うよ、ティナリアはまだまだ若いしね。ただ、騙されないように注意するようにね。それと働くんだったら労働条件はきっちりと詰めておかないと、後で騙されてることに気付いても遅いから……なんなら私が契約書に目を通して…………」


 未玖の方も俺と同じく仲間意識が芽生えていた。


 同性の友人に色々と思うところもあるようで、遠足に出かけるときに子供の荷物を逐一チェックする母親のように、あれこれとティナリアに注意喚起をしている。


 ティナリアの方はふんふんと頷きながら、真面目に未玖の話に耳を傾けていた。


 ――ティナリアは俺達と一緒に行動するようになってから、劇的に食糧事情が改善した。


 そのおかげで母であるルナリアさんに似たどこか陰のあるような印象はなりを潜め、快活で溌剌とした女の子へと変貌を遂げていた。


 顔の輪郭もふっくらとした感じになって、思わず周囲の目を引く健康的な美少女にになったと思う。

 その証拠に周囲からはチラチラとティナリアと未玖を見る男達の視線が感じ取れる。


 これだけ器量がよければ、宿屋なり酒場なりで雇ってもらうことくらいなら訳もないだろう。


「しっかり読み書きの勉強なんかもしたら、冒険者ギルドの受付嬢なんかにもなれるかもね」


「う……受付嬢!? 私がっ!?」


 ギルドの受付嬢は美人揃いだ。

 冒険者というのは基本的には男が多く、彼らを上手いこと転がすために、手練手管と美貌が必要になってくるのだ。


 そしてギルドの受付嬢というのは、女の子からすると憧れの職業の一つでもある。

 現代日本の感覚で言うと一流企業の受付嬢なんかに近いかもしれない。


 危険もあるし激務でもあるけれど、一流の冒険者は稼ぐ額も桁が違う。


 彼らと接する機会の多い受付嬢は、玉の輿に乗るチャンスが高い仕事として女子からは羨望の的になっているらしいのだ。


 この世界の女性は肉食系というか、パワフルな人が多いのである。


「が……頑張ったらなれるでしょうか!?」


「うん、きっとなれるさ」


 夢が叶うとは限らないけれど。

 それでも夢を追うこと自体は、とても素敵なことだと思う。


 だってほら、今こうして将来を見据えるティナリアの目は……こんなにキラキラと輝いているんだから。


「それじゃあ……お元気で! 本当にお世話になりました!」


 ティナリアはこの短期間で、一気に大人っぽくなった。

 大人の階段を上った彼女はきっと、この街の荒波に揉まれながら成長していくのだろう。


 ティナリアと別れ、俺達はまず宿に泊まる。

 そして俺はドアを設置し、ゆっくりと自宅のドアを開くのだった――。





「ルナリアさん、居ますか?」


「はい、どちらさまで……あら、マサルさんじゃないですか」


「無事ウェントまで連れて行きましたよ。それでですね……」


 俺はルナリアさんに連れられ村長宅へと向かう。

 そして村に、森を歩いて手に入った野草や魔物の肉を格安で提供することにした。


 現金なもので、俺がアイテムボックスを使い大量の食材を出すと、村長の態度は露骨に軟化した。


「これらはティナリアがウェントに行きたいと言わなければ、手に入らなかったものです。なのでどうか……ルナリアさんに便宜を図るよう、お願いします」


 こうして娘が村を飛び出したルナリアさんの肩身が狭くならないようにしてから、再びウェントの街に戻る。


 あんまり俺が面倒を見すぎては、ティナリアのためにもならない。

 あとはきっと、彼女がなんとかするだろう。


 ウェントに戻ってから武器屋へ行き、『騎士の聖骸』産だとわからないよう第十一階層の魔法使いのレブナントが使っていた武具を一つ売ると、なんと金貨十五枚ほどで売れた。


 あんまり大量に売って怪しまれるのは嫌だけど、各街で一つずつくらい売っていけば当分お金の心配をする必要はなさそうだ。


 金の心配をする必要がなくなった俺達は、次の日にはウェントを後にして、更に東へと向かうことにした。


 ティナリアのことが頭をよぎった俺達は今度は寄り道はせずにひたすらトレーニングに没頭しながら進み続け……そしてとうとう、神聖エルモア帝国との国境近くにある、ヴェーロの街へとたどり着くのだった――。


読んでくださりありがとうございます。

これにて第一章は終了になります!


勝と未玖がどれくらい強くなったのか……第二章をお楽しみに!


この小説を読んで


「面白い!」

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