森の中
王都を抜け、更にその先にあるガヴァの森を歩いていく。
この世界でダンジョン以外の場所で戦うのは久しぶりなので、念には念を入れて戦ってみたが……もちろん大した問題にはならなかった。
『騎士の聖骸』を踏破できるだけの実力があると、流石に森に出ている魔物程度では問題にならない。
一人で進んだ方が速度は出るんだけど、俺は極度の方向音痴で森に入ってすぐに迷いそうになってしまった。
なので途中で未玖さんに助けを求め、今は二人でのんびりと森の中を進んでいる最中だ。
「明らかにヤバそうな見た目の野草とかあるけど、これって食べれたりするのかな?」
「この星形キノコとかもヤバそうだね」
気分は探索というより、ピクニックに近い。
疲れたら自宅に帰って休めばいいので、二人とも気楽なものだった。
とりあえず興味の赴くままに、けばけばしい色のキノコや野草をとりあえず採取していく。
ちなみに俺と未玖さんは、自宅から持ってきたリュックサックを背負っている。
一応物色してみたけど、王都にある背嚢なんかよりこっちの方が圧倒的に使いやすい。
「野草は食べれそうかも。いくつか知ってるのもあるよ」
「それなら食べてみてもいいかもね」
俺も未玖さんも光魔法のキュアを使うことができるため、とりあえず食べて文字通りの毒味をすることができる。
それに俺の場合、LVアップの効果なのか毒自体がほとんど効かない。
未玖さんの話では、ヨモギなんかの日本で見たことのある野草類も普通に存在しているようだ。
彼女の話では、植生はむちゃくちゃらしい。流石異世界である。
「あ、未玖さんその上に蛇がいるよ。ライトニング」
「キシャアアアッッ!?」
常にウィンドサーチと魔力感知を使っておけば、どこに魔物がいるかは丸わかりだ。
なので待ち伏せをされていようが、奇襲されるような心配はない。
雷撃を食らいぼとりと落ちてきたのは、茶褐色をした蛇だった。
既にLVが240を超えている今の俺の火力は既に人外の域に達しており、この森に出てくる魔物程度であれば最弱の雷魔法であるライトニングであってもオーバーキルになってしまう。
ブスブスと黒ずんでいる蛇から、美味しそうな匂いが漂ってくる。
未玖さんと自然と目が合う。
俺のお腹が鳴り、それに追従するように未玖さんのお腹が控えめに鳴った。
恥ずかしそうなに顔を赤らめる未玖さんに、小さく頷いた。
そろそろ飯時だったからね……こんな匂いを嗅いだらたまらなくなるのは当たり前だ。
今日の昼飯が決まった瞬間だった。
俺の調理スキルは、女子力スカウターがあれば爆発してしまうであろう未玖さんの前ではゴミみたいなもの。
餅は餅屋ということで、軽く血抜きをしてから後は未玖さんにお任せすることにする。
調理してもらう間、暇なので探索を進めることにした。
え、また道に迷うからやめとけって?
ちっちっちっ、馬鹿言っちゃいけないよ。
流石に同じ間違いを繰り返したりはしないさ。
俺の手には、ある秘密兵器が乗っていた。
「……よし、問題なく動くな」
俺が物置の奥の方から、とうとう発見したのだ――小学生の頃に実験で使っていた方位磁針を!
くるくると回ってから北を赤く指してくれる磁針を頼りに、俺は道を迷うことなく先へ進んでいく。
流石三大発明品のだけのことはある。
こいつがあれば、大航海だってできるかもしれない。
……いや、この世界の舟について知ってるわけじゃないけどさ。
風魔法で帆に風を当てたり水魔法で海流を操作したりできそうだから、リアル中世とかと比べたら航海技術は発展してそうだよね。
魔道具や魔法なんてものもあるわけだし。
「そういえば方位磁針って磁石なんだよな」
レールガンがあるんだから、雷魔法で電磁石とかも作れそうだよな。
作ったからどうだって話ではあるんだけど……俺の貧弱な現代知識では、砂場で使って砂鉄が取るくらいしか使い道が浮かばない。
一時間ほど森をさくさくっと進んでから、自宅に戻る。
するとそこには……見事な蛇料理が並んでいた。
「毒味はしたけど、大丈夫だったよ」
蛇肉の串焼きに、蛇肉を入れた鍋、それにあれは……蛇の照り焼きかな?
「それじゃあ食べようか」
「うん、いただきます!」
未玖さんの料理は大変美味であった。
元は少々臭みがあったらしいけど、ハーブの入った塩をすり込んだり、照り焼きにしたりすることでそれを感じさせない手際はプロのそれである。
一人で居る時は気付かなかったけど、家で誰かに料理を作ってもらったり、ご飯を一緒に食べたりするのって、すごく安心する。
いっちょまえかもしれないけれど……家庭を持ちたいと思う人の気持ちが、少しだけわかった気がした。
「あ、それ方位磁針だよね、見つかったんだ!」
「うん、これで未玖さんに無理させることもなく、一人で探索できるよ」
「……別に、無理なんかしてないよ? 勝君と一緒に森を歩くの、楽しいもん」
方位磁針があるから、あとは一人で森を抜けた方がいいかと思ってたけど。
未玖さんがそう言うなら、もうちょっと二人で進んでいくことにしようか。
俺もなんだかフィールドワークみたいで楽しいと思ってたし。
こうして俺達はゆっくりと時間をかけて、ガヴァの森を満喫しながら進んでいくのだった――。