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自宅で一服


 聞き込みは想像していたよりも十倍くらいあっさりと進んでいった。


 というのもそもそも王国の側に勇者召喚を隠す気がないらしく、勇者がこの世界にやってきていることは既に周知の事実になっていたからだ。


 今から半月ほど前に、王様は民衆を集めて演説をぶったらしい。


『魔物被害にあえぐ我が民よ、安心してほしい! 彼らこそ異界より参った勇者達である! ――これより先、我らは魔族に対して攻勢に出る! 勇者殿がいれば、怖いものなど何もない!』


 ド派手な身振り手振りで話をしていた王の隣にやってきたのは、精悍な顔立ちをした黒髪黒目の少年だったという。

 そしてその隣には、第一王女であるミーシャが仲睦まじげに立っていたとか。


 それって間違いなく……聖川和馬君だよな。

 主人公適性は高いと思っていたけれど……まさか既に第一王女まで籠絡しているとは。

 どうやら異世界でも、彼のハーレムライフは留まるところを知らないらしい。


 でも話を聞いている限り、やっぱり一年一組の皆が最前線に送られるというのは間違いないようだ。

 転移する時にギフトを付与されたとはいえ、俺達は所詮進学校に通っていた少しだけ頭のいい高校生でしかない。


 そんなに過度な期待を持たれると、後が怖いと思うんだけど……大丈夫だろうか。

 一応俺を抜いて三十人――つまり今のところ一人も欠員は出ていないらしいのは安心できるところだろうか。


 王様はなんでそんな風に勇者達に責任が乗っかるようなことを言ったんだろうかと思い話を聞いていると、きな臭い匂い気配がどんどんと濃くなってくる。


 どうやら今のグルスト王国の国王、イゼル二世はあまり評判の良い王ではないらしい。

 どこに耳目があるから表立って悪口を言うような人はいなかったが、皆国王の話をする時は露骨に顔をしかめていたほどだ。


 王国はイゼル二世に代替わりしてから明らかに傾き始めており、放漫経営のせいでどんどんと景気も悪くなっているらしい。


 そして和馬君の隣に立っていた第一王女ミーシャもかなりの浪費家で国王の次に嫌われ者らしく、彼女の発言である『パンがない? それなら道ばたの草でも食べたらいいじゃない』という名言は、各地で風刺画が描かれるほどに人気を博しているようだ(もちろん皮肉で言っている)。


 もしかしたらその矛先を魔王と勇者に向けて、何かあったら勇者をポイっとして民衆のガス抜きに……なんていうのは、流石に俺の考えすぎだろうか。


 けれどこうして話を聞いている限り、勇者召喚にはどうも色々と裏がありそうだ。

 魔王を倒してそれでハッピーエンド、とはいかないような予感がひしひしとしている。


 とにかく情報が足りないな……でもむやみに嗅ぎ回って目をつけられても危険だろうし、今日はこのくらいにしておこう。

 一旦落ち着いて明日に備えるためにも、俺は一度自宅に戻ることにした。









 誰にも見られないように路地裏に入り、白壁の方を向いて『自宅』のギフトを発動。

 自宅があるのは時空魔法で作られている空間の中であるため、スペースのないところでもギフトは問題なく発動ができる。


 でも俺がどこに泊まっているかがずっと不明というのも、後々に問題になりそうな気がする。


 ある程度生活に余裕ができたら、カモフラージュのためにも宿には泊まった方がいいかもしれないな。

 中に入り靴を脱いでからどさっと一階にあるソファーに座る。


 少しだけ落ち着くと、疲れからか身体が糖分を欲しているのがわかった。

 冷蔵庫からりんごジュースを取り出すと、思わずごくりと喉が鳴る。


 辛抱できずにその場で蓋を開け、喉の奥へと流し込んでいく。


「んぐっ、んぐっ……ぷっはー! 労働の後のジュースがしみるなぁ!」


 おっさん化しながら500mlのジュースを飲み終えると、今度は喉が渇いてきた。


 冷蔵庫に入れていた麦茶をコップにいれ、これも一息に飲み干す。


 お腹をたぷたぷにさせてから、自室に戻って人心地つくことにした。


 今日は怒濤の一日だったな……自宅から外に出て、魔法を打って、そのまま歩いてグリスニアについてから冒険者になって、その後に聞き込みもして……。


 色々と考えなくちゃいけないことは多いけれど、とりあえず現状の確認からしていこうか。


「ステータス、オープン」

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