クラスメイト
袋を立ててチンするタイプの和風ハンバーグを皿に乗せ、脇を固めるようにあらかじめ切っておいたキャベツと解凍してあるミックスベジタブルを乗せる。
いかにも男の料理だけど、俺の調理スキルだとこのくらいが限界だ。
炊飯器を開き、ご飯を取り分ける。
全てをお盆に載せてから、飲み物を取るために冷蔵庫を開く。
今の未玖さんは、間違いなく地球産のものに飢えているだろう。
食事には合わないかもしれないけれど、せっかくなので飲み物はお茶とコーラの2タイプを用意することにした。
「す、すごい! コーラがあるよ勝君!」
「全部飲んじゃって大丈夫だからね」
「い……いいの?」
「うん、ほら、それじゃあ冷める前に食べよう」
目をキラキラさせている未玖さんと一緒にいただきますをする。
ご飯とハンバーグを食べると、いつも通りの美味しさだ。
けれど誰かとご飯を食べるという経験自体が久しぶりなせいか、なんだかいつもよりずっと美味しく感じる。
「……」
未玖さんの興奮は、食べ慣れている俺とは比べものにならないほどだった。
彼女はハンバーグを一欠片口に含み、ご飯を口に入れて……目を瞑ったまま、感動していた。
「どうしよう勝君、泣きそう……」
「泣きそう!?」
「うん、まさかまたこんなに美味しいご飯が食べられるとは思ってなかったから……」
どうやらアリステラの食糧事情はなかなかに厳しいらしい。
オークの肉は売ったりしたけれど、俺はこの世界の食事にあまり馴染みがない。
素材は美味しいんだけどね……と未玖さんは言う。
「基本的に味付けが塩しかないし、胡椒や香辛料は高級品だからたまにしか使われないの。それに私の場合、ご飯は基本的に毒味されてから出るから冷めたものばっかりで……」
「……そっか、大変だったんだね」
毒味をされるってことは、つまりはそれだけ大切に扱われていたんだろう。
それなのにこんな風に暗殺まがいの襲撃を受けたりもしているわけで……恐らく彼女は王国で、色々と複雑な立場に居たに違いない。
「コーラも飲む?」
「――飲む!」
それだけ大変な半年間を過ごしてきたんだ。
今くらいゆっくりと休んでも、罰は当たらないだろう。
俺は未玖さんと、久しぶりに楽しい時間を一緒に過ごすのだった。
お互いの話は尽きない。
何せ二人とも、これまでとはまったく違う人生を送ってきたのだ。
話すことなんかいくらでもある。
「召喚の間に、血まみれ衣服だけが召喚されてたなんて……」
「あの時は本当に気が気じゃなかったよ。あんなに血が出てたら、助からないんじゃないかって思った」
どうやら神様が言っていた通り、あのまま転移していたら俺はスプラッターになっていたらしい。
王国の人間やクラスメイト達も、未玖さんを除くと誰一人俺が生存しているとは思っていないそうだ。
なんて薄情な……とは思うが、しょうがないことかもしれない。
おかげで捜索されることなく過ごせているので、逆にありがたいと考えておくことにしよう。
「それなら今のうちにこれからの話をしようと思うんだけど……どうかな?」
「うん、もちろん大丈夫」
「未玖さんは今後、どうしたい?」
未玖さんは両手を足の上で揃え、ちらっとこちらを窺うように見上げた。
そして少しだけ恥ずかしそうに、
「私は……勝君と一緒に居たい。勝君が行くところに、どこまでもついていくよ」
それだけ言うと、ボッと顔を真っ赤にしてしまう。
どうやら口にした言葉の恥ずかしさに、自分自身でノックアウトさせられてしまったらしい。
その男前な言葉と、裏腹に女の子らしいしおらしさに、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。
自分の頬に触れると、少し熱を持っているのがわかった。
「……そう言ってもらえて嬉しいよ」
なんとか、そう答えるので精一杯だった。
沈黙が続く。
けれどその静けさは、不思議と悪いものではなく。
お互いが黙っていても、決して居心地が悪くはならなかった。
「ううんっ」
先に気を取り直したのは、未玖さんの方だった。
彼女は喉を鳴らすと、恥ずかしさを紛らわすためにコーラをプシュッと開栓して、ぴしっと背筋を伸ばす。
「勝君は、この後どうするか決めてる?」
「……ううん、あまり大したことは。『騎士の聖骸』をなんとかすることで精一杯だったから」
これは俺の嘘偽りない気持ちだ。
正直なところ、俺はクラスメイトが死なないように『騎士の聖骸』をなんとかしよう頑張っていただけで、それから先のことはほとんど何も考えていなかった。
二人とも、転移してからの今までの話はしてきた。
だから今度は、これからの話をしなくちゃいけない。
かたやクラス転移に巻き込まれて亡き者にされている引きこもり。
かたや暗殺されかけた聖教会の聖女。
これからも一緒に行動をするのなら、二人で足並みを揃えなくちゃいけない。
「勝君は他のクラスメイトの皆のこと……どうしたいと思ってる?」
だから未玖さんからの質問に、俺はしっかりと胸襟を開くことにした。
「可能であれば――全員を国外に脱出させたいと思ってる。正直な話、王国という国はまったく信用に値しないと思ってるから」