番外編 王の野望
【side イゼル二世】
「――と、このようにして聖女であるミクは処理された模様です」
私――グルスト王国国王であるイゼル二世は玉座に座りながら根からの報告を聞いていた。
根、というのは我が王国が秘密裏に保持している諜報部隊のことだ。
諜報組織というのは多かれ少なかれどの国も抱えているものだが……我が国の根は決して表にできないような汚れ仕事をすることに関しては、どの国よりも優れていると自負している。
貴族の不正の証拠を集めたり、偽の証拠造りをしたりする程度など朝飯前。
根の最精鋭部隊であれば……一切の痕跡を残さずに暗殺をする程度のことは造作もない。
膝立ちになりながら報告をしている黒服が、根のリーダーを務めている男だ。
根に所属した時点で名前は捨てられているため名前は知らないが、コードネームであるフクロウと呼ぶことが多い。
「ふむ、なるほどな……死体は確認したのか?」
「いえ、しかし第十階層へ繋がる転移罠を使い飛ばしました。万が一にも生き残っている可能性はありません」
第十階層か……我が父が精鋭の騎士団を派遣し、それを文字通り全滅させた化け物達の巣くっている階層と聞く。
なるほど、たしかにそこに飛ばされたのであればあの聖女であろうとひとたまりもないであろうな。
光魔法の腕はなかなかなのかもしれないが……本人に大した戦闘能力はないと聞いている。
フクロウの言うとおり、万が一にも生き残ってはいないだろう。
「しかし、聖教の連中は馬鹿だな。せっかくの高レベル光魔法の使い手を、派閥争いのために殺すとは……」
おまけにそのために根を動かしてほしいと私に要請してくるというのも質が悪い。
これで我らは共犯者ではないか。
……まぁ、元々聖教会とは知らぬ仲ではない。
異界の勇者達の気を引き締めるためにも犠牲は必要だと思っていたし、ちょうどいい機械だったな。
「アキラの方はどうだった?」
「そちらは失敗した模様です。かなりの手練れを派遣したのですが……」
「ちっ、そう上手くはいかんか……まったく異界の勇者は疎ましい」
今回私と聖教会は互いに戦力を出し合って、異界の勇者を殺そうと共謀した。
あちらは聖教会内で一大派閥を作っている『聖女』のミクが邪魔であり、こちらは私に取って代わろうとする『覇王』のアキラが邪魔だったからだ。
まあミクは、私にとっても邪魔だったがな。
あやつはアキラ同様、王国に反抗的な態度を取ることが多かった。
ミクが死んだことで勇者達が従順になればいいのだがな……。
そういえば近頃反抗的な次女のアリシアは、ミクとは仲が良かったか。
あやつもさっさと改心してくれると助かるのだがな。
魔族との融和などという馬鹿げたことを口にしおって……そんなこと、考えるだにおぞましい!
「しかし聖教も虎の子の暗殺者集団である漆黒法典を出してきたはずなのだが……それでもアキラを殺しきれなかったのか」
「勇者の中でも、戦場を回っているアキラの実力は頭一つ抜けています。私以外の者では、荷が重いでしょう」
成長の早い異界の勇者は、これだから厄介だ。
下手に育てすぎてしまえば、反抗されると目も当てられない事態になってしまうからな。
そのせいで下手に魔族との矢面に出せないのだ。
アキラのような反抗的な勇者を新たに作るわけにはいかないからな。
「フクロウよ、そちならアキラを殺せるか?」
「差し違えてでよければ、殺してみせましょう」
「……いや、よい。あいつにそこまでの価値はないからな」
幸い魔族との戦争は日々激しくなっている。
稀に出てくる強力な魔族と戦わせれば、いかな勇者でも生き残ることはできまい。
……まったく、魔族に関しても頭の痛い問題だ。
さっさと殲滅して、人間だけの楽園を生み出したいものである。
「下がってよいぞ」
「はっ」
フクロウの姿がぐにゃりと歪み、一瞬のうちに消えていく。
本人のギフトという話だったが……こればかりは何度見ても慣れないな。
「アキラは殺せなかったが……まぁ聖教会に恩は売れた。それに……今はあやつにかかずらっている暇などない」
なぜなら私に、千載一遇のチャンスが来ているのだからな。
――魔族達を一網打尽にする、最高のチャンスが。
マントについているポケットから、一通の手紙を取り出す。
そこに記されている文字を読んでいけば、思わず噴き出してしまう。
「ぶふーっ! 馬鹿も馬鹿、魔族は馬鹿ばかりだと聞くが、こいつは別格だ! まさか――リーダー本人がこの城に乗り込んでこようとするとは!」
両国の停戦合意と両種族の融和を……と記された文字を見るだけで心が躍る。
なんとありえないことに、向こうのリーダーは単身で話し合いに来るつもりのようだ。
こんなチャンス――逃してなるものか!
リーダーの魔族を殺し、長を失った魔族達を殲滅し、そして我ら王国が魔族領を征服する。
そうなれば――王国は建国以来最大の国土となり、私の偉業は未来永劫語られることになるだろう!
「ふふふ……がっはっ……ガーッハッハッハ!!」
笑いが止まらない。
この私――イゼル二世の覇道はここから始まるのだ!
この時の私は、自分を待っている明るい未来を疑っていなかった。
まさかあんな風に転落していくことになるなど……当時の私は、考えもしていなかったのだ……。
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