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再会


 話しかけようとした時、俺はまず違和感を覚えた。


 いつもクールな御津川君が、明らかに焦っている。

 彼は先へ潜っていきたそうに、ジッと第六階層へ続く階段を見つめながら貧乏揺すりをしていた。


 そして次に感じた違和感は、


(未玖さんがいない……)


 未玖さんは和馬ハーレムの中と行動を共にしていることが多い。

 未玖さんくらいの美人になると、基本的にスクールカーストは最上位で固定される。


 なので本人の望む望まないにかかわらず、気付けば彼らと行動を共にしなければいけなくなっていたのだというのは、本人の談だ。


 なぜ未玖さんがいないんだろう。

 バリエッタさんから聞いた話だと、聖教会の聖女として祀り上げられているというと言う話だ。

 もしかするとその兼ね合いなのかな……と思っていたが、どうやら違うらしい。


 御津川君は荒い息を吐きながら、うずうずした様子で身体を動かしている。


「晶、これ以上は無茶だ!」


「はあっ、はあっ……いや、俺は行くぞ」


 よく見ると御津川君の顔色は、俺が知っている彼のものよりも悪かった。

 最初はこの世界の食糧事情の問題かなと思っていたけど、彼の様子を見てその理由に気付いた。


(多分だけど御津川君は……グリムリーパーの鎌の精神攻撃を何度も食らってるんだ)


 心身ともに化け物級の御津川君に精神の異常が来ている様子なんてそれしか考えられない。

 なんで御津川君だけがあんなに焦ってるんだ?


 その疑問の答えは、和馬君の口から出てきた。


「こうなった以上、未玖さんのことは諦めるしかないだろう。今の僕らじゃ第六階層の踏破は無理だ。今すぐに騎士団に助けを呼んでもらった方が……」


(――未玖さんがっ!?)


「お前らはな。俺は……行く」


「あっ、ちょっと待て、晶!」


 俺が衝撃を受けている間に、御津川君は和馬ハーレムの制止を振り切って第六階層へ続く階段へと駆け出した。


 慌てて影の中を移動し、御津川君に先行する形で第六階層へと潜る。


 今すぐにでも、詳しい事情を聞きたい。

 どうやって接触するのがいいだろうか……と考えていると、御津川君が急に鼻をヒクヒクさせた。


「匂うな……まだ犬が残ってやがったか」


 彼は驚くべきことに鼻をひくつかせながら、俺が隠れている影の中へと着実に近付いてくる。


「そこか――フレイムタンッ!」


「わあっ、ちょ、ちょっと御津川君、ストップストップ!」


 いきなり炎の魔法剣を影の中に突き立てようとしてくる御津川君を見て、慌てて影から飛び出す。

 剣を構えていた彼はこちらを睨み付け……彼にしては珍しく、口をぽかんと大きく開ける。


「鹿角……生きてたのか、お前」


「うん、なんとかね。御津川君も元気そうで何よりだよ」


 再会の感動に打ちひしがれている時間はないので、早く話を聞かせてもら……


「チッ、邪魔ッ!」


 ウィンドサーチに反応があった。

 俺達の話し声を聞きつけたグリムリーパーがこちらにやってきていたのだ。


「ライトニングボルト!」


 こちらに近付いてきていたグリムリーパーは一撃で消滅した。

 どうやらライトニングボルトでも威力が過剰すぎるようだ。

 今ならライトニングでも倒せるかもしれない。


「鹿角、お前、その力……」


「うん、これでも頑張ったからね。強くなったんだよ」


「お前ならもしかして……第十階層にも行けるか!?」


「もしかしなくても……そこに、未玖さんがいるんだね?」


「ああ、聖教会の奴らが転移魔法陣を使って飛ばしやがった。記憶を盗んで確認したから間違いない」


「……わかった、今から助けに行くよ」


 ただでさえ王国への信頼度ががた落ちになっていたけれど、その国教である聖教会も一緒に腐っていたとはね。

 大方突然現れた聖女が力を持たないうちに亡き者に……的な話だろう。


 ……ふざけるな。

 勝手に喚び出したくせに、俺達をこれ以上そっちの事情に巻き込むなよ。

 怒りで頭が沸騰しそうだ。


「今すぐ助けに行く。御津川君、一応後で連絡を入れるよ」


「ああ……鹿角、未玖を……頼んだ」


「もちろんさ」


 『自宅』を使おうとして……思いとどまり、ジョウントで転移するように見せかけることにした。


 未玖さんを助けに行こうと文字通り命を張ろうとしていた御津川君が悪い人ではないということは知っているけれど……この世界で自分の力は隠しておくに越したことはない。


 御津川君から離れてからドア設置を使い、第十階層へやってくる。


「未玖さん――ッ!」


 全力でウィンドサーチを使いながら、反応を探る。

 やってくる風野郎をジャッジメントレイでぶち殺しながら、複数の反応が同時にある場所を探し続ける。


「――居た!」


 駆ける、駆ける、駆ける。

 上げまくった俊敏を、今使わないでどうする。

 風を置き去りにするほどの速度で駆けていくと――そこには、半年ぶりに見る、懐かしい顔があった。


「勝君……ごめんね……」


 彼女は――未玖さんがゆっくりと目を閉じる。

 なぜか俺に謝っていた。


 謝らなければいけないのは、俺の方だ。

 なんとか間に合ったけど……本当に危ないところだった。


「――大丈夫だよ、未玖さん」


 目を瞑る未玖さんを守るように前に立つ。

 新たな得物が来たと、エルダーリッチが楽しそうに笑う。


「オオオオオオオオオッッ!!」


「――勝君、逃げてッ!」


 エルダーリッチの魔法が、勝君と私を纏めてなぎ払おうと放たれる。


 たしかに以前は苦戦していたこともあるけれど。

 今の俺にとってはエルダーリッチ程度、ただの雑魚モンスターだからさ。


「大丈夫――ジャッジメントレイ」


 ジャッジメントレイと同時にアイギスを発動、相手の攻撃は完全にシャットダウンしてしまう。

 そして光の柱はエルダーリッチを飲み込み……


「オオオオオオオッッ!!」


 実にあっさりと、塵になって消えていった。


「……ね、大丈夫だったでしょ?」


「……勝くんっ!!」


 身体ごとくるりと振り返ると、突然の衝撃。

 気付けばなぜか、未玖さんに抱きしめられていた。


「ちょ、ちょっと未玖さん!?」


 なんとか間に合って……本当に良かった。

 全部が全部上手くいったわけではないけれど。


 今はこうして未玖さんと再会できたことを喜ぼう。

 俺は半泣きで抱きついてくる未玖さんを、優しく抱きしめ返すのだった――。



ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


第一部はこれにて完結です!


「第一部面白かった! 続きの執筆もよろしく!」


「第二部が、続きが早く読みたい!」


「勝と未玖の活躍をもっと見たい!」


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