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邂逅


「あなたは……魔物、なんでしょうか?」


 目の前の人物には足がない。

 そして着ているのは戦っていた時の鎧ではなく、さらさらとした赤い絹の服だった。



 上等な仕立てがしてあり、縁には金の刺繍が織り込まれている。

 ただグルスト王国が着ているそれとは文化圏が異なるようで、服はゆったりとしていてどこか南国のような感じを受ける。


 魔力感知を使ってみるが、目の前の幽霊からはまったく反応が得られない。

 更に言うと戦意のようなものも感じなかった。


「いや、魔物としての僕は既にあの段階で死んでいる。今の僕は……そうだね、残留思念とでも呼ぶべき存在かな」


 どうやら戦う気は本当にないようで、にこにこと笑いながらどこからか取り出した白旗を左右に振っている。

 この世界にも白旗って文化、あるんだ……ってそうじゃない!


「何かご用でしょうか? 恨みが晴らせず未練から幽霊になってしまって……って感じなら、光魔法で浄化しますけど」


「大丈夫、恨みは死ぬほどあるけど、僕もう死んでるし。少し話し相手になってくれればそれでいいよ」


「はぁ……」


 俺が眠っていた時間は大して長くなかった。

 ダンジョンの活動自体は止めたから、これでダンジョンアタックもなくなっただろうし。


 やることはやったから、少しくらいなら問題はない……かな。

 俺もここがなんなのか、ちょっと気になるし。


 聖骸の騎士はこちらに向き直ると、ぺこりと頭を下げた。

 九十度にぴしっと背骨が曲げられる。


「ありがとう。これで僕は……ようやく悪夢から解放された」


「いや、俺も俺のためにやっただけなので」


「それでも……ありがとう。長い……長すぎる時間だった」


 どうやら聖骸の騎士として活動している間、彼はずっとひどい悪夢にうなされていたらしい。

 既に時間の感覚もなくなるほど前から、彼はずっとこの場所で眠り続けていたということだった。


「ボスを倒したことで、このダンジョンは活動を止めますかね?」


「うん、魔物も徐々に消えていくだろうし、そうだね……あと数時間もすれば何もないただのデカい地下施設になるはずだ」


 ホッと一息つく。

 それなら皆のダンジョンアタックを止めることは問題なくできそうだ。

 頑張った甲斐もあるというものである。


「いやぁ、長いこと居すぎたせいで悪霊化しかけてたからさ、本当に助かったよ」


「……ちなみに悪霊化したら、どうなってたんですか?」


「聖骸の騎士が弱くなってて、その横に悪霊化した僕が居ただろうね」


 そうなってたらまず勝つことはできなかっただろう。

 どうやらタイミング的にも良かったようだ。


「こうして話ができるということは、ダンジョンのボスというのには皆意思があるのでしょうか?」


「それはだね……あれ?」


 頷きながら人差し指を立て、俺に教える体勢に入っていた騎士がピタリと動きを止める。


「うーん……思い出せないな」


 魚の小骨が喉に突っかかったような顔をしてから、不思議そうに首を捻っていた。

 本来なら知っていることがなぜか思い出せない……そんな違和感を感じているようだ。


「それならダンジョンとは一体、なんなのですか?」


「ダンジョンの存在意義……? ダメだ、それも覚えていない」


 ギフトのことや剣のことなんかも色々と聞いてみたが、何もわからないということがわかっただけだった。

 どうやらかなり記憶の欠落があるらしく、情報源としては全然使えそうにない。


「……まあとりあえず、僕はこれで行くよ。ありがとう冒険者君、君のおかげで僕らは――ようやくあちら側へ行ける」


 騎士の身体が、ふわりと浮き上がっていく。

 そして高度を上げていくと……どこからかやってきた他の幽霊達と合流し始める。


 その姿にはどこか見覚えがある。

 彼らは第十一階層で幾度となく戦ったレブナント達に良く似ていた。


 騎士は仲間を引き連れ快晴の空へ向かっていき……そのまますうっと消えていってしまった。


「……なんだったんだ、一体」


 きっとここがあの騎士の墓だったのは間違いないけど……古代文明の墓だから、なんかすごかったんだろうくらいに考えていた方が、精神衛生上良さそうだ。


「まあとりあえず……成仏してください」


 俺は軽く手を合わせ、死後の世界での無事を祈っておくことにした。

 とりあえずここにある花の中で気に入ったものをいくつか摘んでから、一度地上に戻ることにする。


 ダンジョンを攻略したことをバリエッタさんに伝えようとすると……違和感があった。


 普段は警備なんて誰一人いないはずの『騎士の聖骸』の入り口に、明らかに騎士のような男達が二人で立っていたのだ。


(なんでここに騎士が……?)


 シャドウダイブを使い影移動をして脱出してから小屋に向かうと……小屋は無残に破壊されていた。


 中へ入ると、完全にもぬけの殻になっている。

 注意深く見て回った結果、明らかな戦闘痕がある。

 一体ここで、何があったんだ……?


(バリエッタさんが戦わなくちゃいけなかった理由って……もしかしなくても、勇者召喚絡みなはず)


 引退した隠居騎士である彼を襲う理由なんて、それくらいしか考えられない。


 ダンジョンアタックは本来なら明日か明後日に行われるはず……勇者達とバリエッタさんが会わないようにした?

 可能性としてはありえる……かもしれない。


 もしかして俺がダンジョンを攻略してしまったせいで、何かが起こった?

 騎士があそこにいる理由は?


 ダメだ……ここにいるだけだと、何もわからない。

 けれど確実に、何かが起こっている。


 最悪の場合を想定しよう。

 この場合もっともマズいのは……


(既にダンジョンアタックが始まってるパターンだ)


 今から数時間もすれば魔物は消える……って話だったけど、それは逆を言えば数時間は魔物が出現してしまうということでもある。


 もしその間に彼らが第六階層へと入ってしまったら……そう考えるといても立っても居られなくなった。


 即座に『自宅』の力を使い、ドア設置で第六階層へ。

 予想が外れてくれていることを祈りながら、ウィンドサーチを使って感知を行い、動いている反応にかたっぱしから向かっていく。


 グリムリーパー程度、今の俺の相手ではない。

 倒している暇も惜しいと思い、シカトしてぐるりと階層を一周するがどうやらグリムリーパー以外の姿はない。


 それならと第五階層へ上ろうとしたところで……足が止まる。

 本来なら魔物が現れないはずの階層間の階段に魔力反応があった。


 シャドウダイブを使って隠れながら確認すると……いた。

 そこには和馬君率いるハーレムパーティーと、彼らから離れたところにいる御津川君の姿があった。


 実に半年ぶりの、クラスメイトとの邂逅だ――。

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