勝敗
今回俺が聖骸の騎士との戦いに備え用意していた隠し球は二つ。
瞬間移動による超速移動に続く二つ目の球は……今の俺が放つことのできる、最大威力の魔法だ。
それは時空魔法とLV10魔法を組み合わせた必殺の一撃。
なんと発動のために八つもの魔法を使う、準備も使用するMPも桁違いの魔法だ。
発動のために使う時空魔法は二種類。
一つ目は時空魔法がLV9になってから覚える、ディレイという魔法だ。
これは簡単に言えば、発動する寸前の魔法攻撃にかけることで、発動までの時間を遅延させることのできる魔法である。
遅延ができる秒数は最大で十秒。
延ばす秒数が伸びれば伸びるほどに使用するMPも増えていく。
まず二重起動でジャッジメントレイを発動させてから、その二つに対して同時にディレイを発動。
ここで必要になってくるのがもう一つの時空魔法であるアクセラレートである。
これは魔法を加速させることのできる魔法だ。
アクセラレートを発動させて魔法加速の用意を整えたら、そこに二重起動を行った二つのグングニルを発動させる。
そして先ほど用意していたディレイが解除するタイミングに合わせて、加速させたグングニルを打ち込むのである。
ジャッジメントレイの二重起動に、更に威力を上げた二重起動のグングニルをぶつける。
するとどうなるかというと……加速した雷槍が先行するジャッジメントレイを巻き込むようにして突き進み、裁きの光を纏いながらそのサイズを大きくさせる。
そしてどういう理屈か、電磁加速がかかった状態にもかかわらず更に加速するのだ。
こうして生み出されるのが融合魔法である極大雷光だ(魔法が混ざり合っているので、シンプルに融合魔法と名付けることにした)。
そして、俺の魔法まだここでは終わらない。
光と混ざり合った雷の槍、この二つを更に一つに重ね合わせる。
すると槍の形状が変わり、先に突いている刃が大きくなり矛の形状に変わる。
そうして生み出された極大の雷矛こそが、二重の魔法を四度掛け合わせて発動される俺の必殺技――融合魔法、八鍵雷光である。
俺の一撃に対して相手が放ってきたのは、闇の魔力と光の魔力が混じり合った混沌の一撃、グランドクロス・ケイオス。
「おおおおおおおおおおおおお!!!」
「ガアアアアアアッッ!!」
雷を迸らせる矛と混沌の十字が、激しく勢いを立ててぶつけ合う。
撒き散らされる衝撃波が地面をめくり上げ、天井からはパラパラと土が落ちてくる。
余波を食らうだけで身体が持って行かれそうになるほどの一撃だ。
これが相手の出せる全力の一撃……LV10魔法をただ二重起動するだけでは、間違いなく打ち負けてしまっていただろう。
互いの全力がぶつかり合う。
一秒か、一分か、それとも五分か。
永遠にも思われた拮抗が終わりを告げる。
軍配は――俺の方に上がった。
白と黒の混ざり合った十字が押し込まれていき……そして霧散する。
雷矛はその周囲に電気を弾けさせながら、加速を続け聖骸の騎士へと襲いかかってゆく。
ただそれでも油断はしない。
残存MPを確認。
まだ余裕はある。
矛が胸に突き立ち後ろに吹っ飛んでいく騎士を見ても油断することなく、追撃の手は緩めない。
「ダブルグングニル、からの――極大雷光!」
魔法だけに集中でき、時間にも余裕がある今ならば、しっかりと融合魔法を放つだけの余裕がある。
俺は再び二つのグングニルを融合させ、雷矛を放つ。
既に仰向けに倒れていた聖骸の騎士にしっかりと命中させ、地面に縫い付けるように突き立てた。
LVが上がり強化された俺の聴覚に、パキリと何かが割れるような音が聞こえてくる。
そして……
「見事だ……」
聖骸の騎士はこちらを見ながら、そう呟き……そのまま二度と、動くことはなかった――。