激突
「ホーリーエンチャント」
なんらかの魔法かスキルを使い、全身から白い光を噴き出させた聖骸の騎士が俺の剣を食らって吹き飛んでいく。
噴き出す血を見ながら、俺は剣を突き出した。
騎士の鎧の色は、まだ赤いまま。
多少防御力が上がろうが、紙装甲には違いない。
防御力が低いなら、むしろボーナスタイムだ。
けれどさすがスピード兼アタックタイプ。
高速化した機動で俺の突きの技後硬直を捉える、的確なカウンターを放ってくる。
だが残念、俺の機動力は更にその上を行く。
「ジョウント」
騎士の剣は空を斬る。
そしてその伸びた腕の筋を叩くように、突如として真横に現れた俺の剣が突き立った。
流石に腕を断つのは不可能だったが、それでも鎧は壊せた。
内側にある腕から血を噴き出していくが、痛覚が完全にないからかダメージをものともせず傷ついた右腕を使いこちらに逆撃を放ってくる。
引くようにした斬撃、自分の身体ごと巻き込むことをいとわぬその一撃を見た俺は……
「ジョウント」
更にジョウントを使い、反対側に移動した。
振り絞って放たれた袈裟斬りがたしかに命中し、聖骸の騎士の身体を強かに打ち付ける。
――瞬間移動の魔法であるジョウントを使った、超高機動戦闘。
それこそが俺の隠し球の一つ目だ。
我流で剣を突き詰めていくと、限界はすぐに訪れた。
一切のバフを使わずに何度戦っても、純粋な剣技だけでは劣化版の聖骸の騎士の足下にも及ばなかったからだ。
苦心の末に編み出したのが、本来の剣術に瞬間移動を組み合わせることで生み出した、俺なりの剣術だ。
瞬間移動を可能とする時空魔法のジョウントは、跳躍する距離によって異なる。
距離に比例して消費するMPも増加していくわけだが……これは逆に言えば、非常に近い距離であればそこまでMPを消費せずとも瞬間移動が可能となるわけだ。
相手の攻撃を瞬間移動で避け、自分の攻撃が当たる位置へと瞬間移動を行い剣を叩きつける。
勢いをつけたり相手の視界の範囲外に移動したりするのにはコツがいるが、そこら辺は既に習得済み。
この剣を使いこなせるようになってからは、一方的にやられることはなくなった。
「波打」
俺の姿が消えた瞬間を見計らって、振り返りながら騎士が範囲攻撃を放つ。
たしかに自分の死角に俺が移動するってわかってるなら、そうやれば対応できる……と思うよな。
「ジョウント」
俺は再度転移を使用することで、数秒前に居た、最初に一撃を放ったところに再転移。
相手の範囲攻撃をかわしながら、剣を振り下ろした。
死角からの一撃を狙って放たれるカウンターは……再転移をすれば避けられるんだよ!
縦横無尽に駆け回り、瞬間移動を繰り返しながら剣を振るう。
鎧が弾け、俺から散る血と騎士から弾ける血が混ざり合って跳ね合う。
剣の煌めきと魔法の輝きが混じり合い、激しい光がお互いの身体を包み込む。
互いの隙間を縫うように別の光が襲いかかり合い、交差する影は一つの生き物のように怪しくうごめいている。
何度も振るううちになまくらになっていく剣。
取り替え、入れ替え、隙を消すように魔法を放つ。
どうやら騎士の方は、魔法と剣の同時使用はできないらしい。
なので俺は相手が回復魔法を使おうとしたなら、そこに合わせて一撃を入れる。
剣撃と魔法を組み合わせれば、相手に集中させる隙を与えないことは簡単だった。
当然ながら俺の方も完全に無傷とは言わない。
攻撃を食らった瞬間に放たれた一撃の中には恐ろしいほどの鋭さで俺に襲いかかってくるものもあったし、ジョウントで移動するのが遅れたせいでもらった攻撃の数は両手では利かない。
既に全身のありとあらゆるところに傷ができている。
本当にヤバいところはしっかりと治療しているが、流石に血を失いすぎたからかたまにフラッとくることがある。
何よりヤバいのは、MPの減り具合だ。
常にバフを複数重ね掛けしながら剣を振るのと同時に魔法を使い、己の剣技だけでどうしようもなくなったらジョウントで瞬間移動をして体勢を切り替える。
こんなことをしていれば、魔力回復のスキルがあっても焼け石に水なのは当然のことかもしれない。
(このままじゃ埒があかないな……)
魔法の連続行使による疲れの蓄積もある。
頭の働きは既に当初と比べれば鈍くなっている。
いくら鍛え上げているとはいえ、付け焼き刃の身体ではそう長くは保たなそうだ。
騎士の負う傷は俺なんかよりはるかに多く、そして深い。
けれどそれでもまだこちらに食らいつきながら、剣を振り続けていた。
ちなみに今は、着用している鎧の色は白に戻っている。
だがどうやら向こうも俺と同じだったらしい。
聖骸の騎士は全体攻撃にも思えるほどの一撃を放ち距離を取ると、そのまま正眼に剣を構えてみせた。
距離を取ったからこそ、その姿が見える。
今や鎧は各所がボロボロに砕け散り、元の美しさは影も形もない。
生気を宿さぬレブナントにもかかわらず、その瞳に燃える炎は勝負は諦めている者のそれではなかあった。
回復魔法を使うなら即座にキャンセルさせてやろうと思っていたが……どうやらそんな感じでもなさそうだ。
感じるのは、爆発的な魔力の高まり。
MPが3000を優に超えてるおかげか、以前のように魔力が感じ取れないなんてことはなかった。
剣でも魔法でも……とりあえず食らいつけてはいるらしい。
「聖魔混沌」
白いオーラで包まれた聖骸の騎士の肉体を、黒い魔力が覆い出す。
一見すると目くらましのようだが、更に高まっていく魔力を見ればそんな考えは消し飛んだ。
最大最強の一撃を放とうとしている――そう感じ取った俺は、即座に最後の切り札を切ることを決意する。
強力な一撃を放とうと、注ぎ込みきれなかった魔力の残滓がこの空間に広がっていく。
それは音を伴い、圧力を伴い、衝撃を伴い、墓所の中を拡散し、発散していった。
「シュウゥ……」
黒と白、相反する二つの魔力が混じり合っていく。
靄が消えた時そこには、身体の右半分をスケルトンに、左半分をレブナントにしている騎士の姿があった。
わずかに姿勢を下げながら、目を瞑り精神を集中させているその様子を見ながら、俺もまた魔法発動の用意を調えていく。
そして……騎士の左目が、カッと見開かれる。
飛び上がる聖骸の騎士。
空中に滞留する十字の斬撃は光と闇をその身に纏い、圧迫感すら伴いながら発動の時を待ちわびている。
向こうの全身全霊に答えるように、俺もまた己が使える最強の魔法を放つ。
「グランドクロス・ケイオス!」
「八鍵雷光!」
そして互いの最大の攻撃が――激突した。




