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『収納袋』



「ではFランク冒険者になられたマサル様に、改めて説明をさせていただきますね」


 受付嬢のメリッサさんは笑うとえくぼができてかわいらしい、愛嬌のある丸顔の女性だ。


 たぬき顔をした美人さんで、誰からも嫌われることなんかないんじゃないだろうかってくらい、独特なほんわかオーラを放っている。


 ちなみにギルドに登録するには、登録料が銀貨一枚かかった。

 当然ながら俺は文無しなので焦ったが、どうやら後払いでも問題はないらしい。

 地味に、人生で初めての借金だ。


 あ、あと登録名は本名のマサル・カヅノでいくことにした。


 後々のことを考えると偽名を使った方が良かったかもしれないけど……つい試験の時の癖で自分の名前を書いてしまったのだ。


「しかし姓をお持ちとは……もしかして極東のお貴族様の生まれだったりしますか?」


「あはは、まさか」


 さっきから会う人会う人ヨーロッパ的な彫りの深い顔立ちの人ばかりだったので内心ではビクビクしていたんだけど、どうやらこの世界では黒髪黒目はさほど珍しくはないらしい。

 なんでも極東にあるエイジャという国の出身者は、皆黒髪黒目らしい。


「では、まず冒険者ランクの仕組みについてですが――」


 無事冒険者になることができたのでメリッサさんから冒険者になるにあたって必要な説明を受ける。




 その内容は、ざっくり言うとこんな感じだ。


 まず冒険者というのは、F~Sまでランクによって分けられている。

 そしてランクは純粋な強さというより、依頼の達成率や知識の専門性などを加味したギルドへの貢献度によって決められるものらしい。


 なので極めて危険度の高い森で採集依頼を確実にこなせる、回避に特化したAランク冒険者というのもいれば、それとは対照的に戦闘能力は高いけれど、問題を起こしているせいでDランクからまったく上がれない腕利きなんかもいるようだ。


 当然ながら説明の内容はランク以外にも多岐に渡っていた。


 冒険者は基本は負け損であり、基本的に冒険者同士の諍いにギルドは介入をしないこと。

 依頼を達成できなかった場合は報酬額と同額の支払いをペナルティとして命じられること。


 また何度も依頼を失敗してしまうとランクを落とされたり、最悪の場合はギルドから除名になってしまう可能性もあるということ。


 要は身の丈に合った冒険者ライフをということです、と締めてからメリッサさんがなぜかドヤ顔で胸を張る。


 ご立派なお胸がぶるんと揺れ、後ろにいる冒険者が生唾を飲み込む音が聞こえてきた。


「マサル様、パーティーを組む時はランクに惑わされないように気をつけてくださいね」


「はい、わざわざありがとうございます」


 どうやらメリッサさんもバンズさん同様俺を田舎出身の冒険者志望と考えているようで、彼女の視線はなんだかとても優しかった。


 別に俺のことをからかっているわけでもなく純粋に心配してくれているようで、なんだか少しこそばゆいような感じだ。


「あ、そういえば道中魔物を狩ってきたんですけど、買い取りをお願いしてもいいですか?」


「はい、問題ありません……が、冒険者は命が大事。いくら魔法が使えると言っても、あっけなく死ぬこともあります。さっきも言いましたが、今の自分のランクに見合った活動を行うよう心がけてください。ギルドにある資料室で、魔物図鑑は一般開放していますから」


「は、はい……ご忠告、痛み入ります」


「えっとそれで……魔物の素材は一体、どこに?」


「あ、ここに」


 俺は時空魔法LV3で習得できるアイテムボックスを使い、収納していた魔物を取り出す。


 いきなり死体をここにぶちまけるのが非常識なことくらいはわかるので、倒した時と変わらぬ血まみれのオークの頭部を、スッと耳が出るくらいだけ出してみせた。


「これなんですけど、どこに出せばいいんでしょう?」


「……お、驚きました。まさか『収納袋』まで持っているとは。稀少属性を複数使え、高価な魔道具まで……もしかしてマサル様の正体って……いやいや大丈夫です。私には全てお見通しですからね!」


 メリッサさんは何やら妄想を膨らませているようで、ふふふと怪しく笑い出し始めた。


 全てを見通されたりすると非常に困るのだが……まあ楽しそうだから、好きに推測してもらえばいっか。


 でも魔道具か……ライトニングを見せた時とは違って、時空魔法が使えると驚かれたりはしないんだな。


 もしかすると時空魔法って、光魔法や雷魔法よりもレアだったり?

 いや、あるいはその『収納袋』ってやつが、かなりメジャーになってるってことなのかな。


 とりあえず色々と把握するまでは、『収納袋』を持ってるってことにしておいた方が無難そうだ。


 メリッサさんに場所を教えてもらい、ギルドに併設されている解体場へ。


「おう、それならそこに並べてくれや!」


 そこにいるいかにも職人といった感じで頭にタオルを巻いているおっちゃんのガタイの良さにちょっとだけビビりながら、スペースの端に立つ。


 俺は学習できる男なので、さっきとは違い持っているリュックをさも『収納袋』のようにみせかけながら道中倒してきた魔物を置いていくことにした。


 肉も買い取れるので高く売れるらしいオークを一匹、二匹、三匹と並べていく。

 雷魔法や火魔法で倒しているので、ところどころ焦げているのはご愛敬というやつだ。


「おいおい兄ちゃん、あんたの『収納袋』とんでもねぇな!」


「オークの死体を丸々五匹!? こんなの、Aランク冒険者のもんくらいしか見たことないぞ!」


 とりあえず倒したオークを五匹全部出したんだけど、なんだか解体班は大騒ぎしていた。

 どうやらゴブリンの方は出さなくて正解だったみたいだ……。


 俺の『収納袋』はオーク五匹分と自分に言い聞かせてから、緑色の札をもらう。

 明日以降これを受付に渡せば、その場で手間賃を差し引かれた素材の売却費用がもらえるようだ。


 実際の討伐以外は向こうに丸投げできるらしい。

 その分個人で売り捌いていくより値段は落ちるらしいけど、別に問題はない。


 そもそも俺がグリスニアにやってきた目的は別に飯を食っていくためではなく、俺と同様に勇者召喚された一年一組のクラスメイト達の安否を確認することだ。


 何も知らなかったとはいえ、ギルドの中では少々目立ちすぎてしまった。

 視線が痛いし勧誘攻勢も怖いので、とりあえず外に出よう。


 勇者についての情報を集めるのは、グリスニアでの聞き込みでもできるだろうから。


 はぁ、別に戦ったわけでもないのに、なんだかどっと疲れた気分だ。

 早く自宅でゆっくり休みたいよ……。

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