聖魔反転
最奥である第十二階層は恐らく、聖骸の騎士を安置するための墓所である。
階層自体を墓にしてしまうとは、なんとも贅沢な話だ。
右を向いても左を向いても先が見えないほどの墓所は、俺の放つ魔法によってめちゃくちゃになっている。
けれど一体どういう仕組みか、棺とその周囲にある花束だけは、どれだけ強力な攻撃を食らってもびくともしていない。
色とりどりの花達に見守られながら、剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。
剣撃の応酬……と言えるほど優れたものじゃない。
俺は素振りの時に身体に染みこませた動きの通りに、騎士のレブナントや聖骸の騎士が振っていたように、剣を振り続ける。
「――シッ!」
「カカッ!」
聖骸の騎士の一撃を受け止めてから、そのままぬるりと剣を動かす。
突きを放つと、聖骸の騎士はそれを上半身を動かすことで避けてみせた。
剣は狙った核ではなく、間を阻む肋骨と肋骨の間にある空洞に突き立った。
スケルトン状態の騎士が、そのまま状態を逸らす。
そして自分の肋骨を使い、俺の剣を巻き取ろうとした。
なんだよその高度な技術はっ!
絶対にスケルトンじゃないと不可能な動きじゃないか!
俺はグリップに力をかけ、グリンと思い切り剣を引き抜く。
体勢が若干崩れ、騎士はそれを狙って前に出てきた。
距離を近づけさせるつもりはない。
剣技や体術での不利は、魔法で補わせてもらう!
「ミョルニル!」
俺の右側から一撃を放とうとする騎士へ、雷の槌が襲いかかる。
鈍器による一撃は、その衝撃を体内に飛ばすことができる。
核という明確な弱点を持つスケルトンにとっては、もらいどころが悪ければ致命傷にもなりかねない。
予想通り、騎士は防御に移った。
にやりと笑いながらつま先に力を込め、再び前へ。
槌の防御によってがら空きになった脇腹に一撃を叩き込む。
肋骨の骨が、また一つバキリと割れる。
騎士は槌に隠れて見えていないはずの俺の攻撃にも対応しており、その剣先は既にこちらを向いている。
ただ俺はそれには取り合わず、一歩下がりながらチャージしていた魔法を発動させる。
「ジャッジメントレイ」
聖骸の騎士は両手をクロスしながらその一撃を食らう。
その間に脇からミョルニルをぶちかましてやると、騎士が遠くに吹っ飛んでいった。
再度魔法発動準備を整える。
「ダブルジャッジメントレイ!」
メインは魔法による一撃。
相手に防御以外の姿勢を取らせないようにするため、そして隙あらば核を壊すためにサブとして剣を使う。
相手の攻撃を食らわないように着実にダメージを与えていくなら、これが一番俺に会っている。
とりあえず現状、素の膂力もスピードも俺の方が高い。
俺はギリギリ剣の間合いに入るという位置を維持するため、再び前に出る。
戦い方がスペックのゴリ押しっていうのがなんとも情けないが……背に腹は代えられない。
光の柱が消えると、先ほどより更にダメージを食らっている聖骸の騎士の姿がある。
視界が明瞭になってくると同時、聖骸の騎士がこちらに剣先を向けている様子が見えた。
魔力感知が、空気中に漂う魔力を感知する。
何かが……来るッ!
「ダークファンタズマ」
「ジョウント!」
時空魔法であるジョウントを使い緊急避難をする。
技が届かないであろう範囲に一瞬で転移しながら、聖骸の騎士の一撃を見ることができた。
そこに広がっているのは……真っ黒な闇だった。
先ほどまで居た俺と聖骸の騎士をすっぽり包むような闇が展開されている。
なんだこれ……ダークネスフォグの強化版か?
ただあの闇自体がとんでもない密度の魔力の塊だ。
恐らくあれ自体がなんらかの魔法的な効果を持って……って、まずっ!
今闇の霧の中で、騎士を自由にさせるわけには――
「ジャッジメントレイ!」
「聖魔反転」
即座に発動させたジャッジメントレイの発動と被さるように聞こえてきた声に思わず歯がみする。
闇が祓われるとその視界の先には――金髪碧眼をしたレブナントの姿があった。
「ラストヒール」
傷が癒えていく様子を、まざまざと見せつけられる。
ちくしょう……回復魔法を連打してくるボスはクソゲーって、相場が決まってるんだぞ。