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押しつけ


 攻撃結果がどうなるかを気にせず、俺は剣を正眼に構えた。

 構えながら同時に行うのは――LV10魔法の二重起動だ。


 剣を振りながらのLV10魔法の行使。

 LV10の魔法の二重起動。

 この二つの技術を身に付けたからこそできる技だ。


 棺も蓋も、びくともしていない。

 三分の一ほど空いていた蓋は攻撃を食らっても止まることなく、そのままゆっくりとスライドを続けている。


 上蓋が外れるその瞬間、俺は剣を構えたまま魔法を発動させる。


「ダブルジャッジメントレイ!」


 蓋が地面に落ちどすりという音が鳴るのと同時、二つの光が同時に天より降り注ぎ棺の内側に迸った。



 ――聖骸の騎士と戦うことがあったらまず最初にやろうと思っていたことがある。

 それはこの上蓋が開いてから出てくるまでの間に、可能な限りダメージを蓄積させること。


 俺は子供の頃から、ヒーローものの変身シーンに攻撃しちゃえばいいのにと思うタイプだった。

 登場シーンだろうがなんだろうが、攻撃はできるうちにしといた方がいい。


 まともなやり方でやってもこちらの方がキツいのはわかってるんだ。

 勝つために手段は選んでいられない。


 だがあの聖骸の騎士が、この程度で死ぬわけがない。

 レブナントバージョンしかない劣化版ですらあれだけ殺され続けたんだ。

 何十発何百発と攻撃を入れないと倒れないことくらい、わかっているさ。


 棺の中から、スケルトンが飛び出してくる。

 以前は縁に手を掴みゆっくりと動いていたが、今回はこれ以上のダメージを負うのを避けるためか飛び上がってそのまま地面に着地した。


(ダメージは……よし、一応ついてる。これでノーダメだったらへこむどころの話じゃないからな……)


 姿を現した聖骸の騎士は、腕と足の辺りの骨に明らかなヒビが入っていた。

 よくみると肋骨のあたりにも、左右で非対称な部分がある。

 どうやら一本骨を砕くことくらいはできたらしい。

 まあそうじゃなくちゃ困る。なんせ俺の最大火力の魔法なんだからな。


「……」


 スケルトン形態を維持したままの聖骸の騎士が、うつろな眼窩でこちらをジッと見つめている。

 騎士は何も言わず、剣を天高く掲げようとする。


 シミュレーションルームで何度も見たからわかる。

 あれは回復魔法を発動させる時のモーションだ。


「――させるかよっ!」


 回復をしようとした時には、俺は既に聖骸の騎士との距離を詰めていた。

 そして魔法を発動されないように、更に接近を続ける。


 アクセルとクイックを使い、そこに更に身体強化のバフを乗せた俺は一瞬のうちに騎士に肉薄した。


 レブナントの侍が使っていた剣を取り出し、居合いを放つ。

 剣閃が走り、白銀がひらめいた。

 傾いた刀がダンジョンの光を反射して、白い筋が伸びていく。

 狙うは当然、聖骸の騎士の胸の奥に見えている核だ。


「……」


 騎士は何も言わぬまま、発動させようとした魔法を中断し俺の迎撃に移った。


 この世界では魔法は、発動までに集中を乱せば発動しない。

 つまりは技キャンセルやスタンによる行動キャンセルが、わりとゲームに近いような形で起こせるのだ。


「――しいっ!!」


 交差する斬撃。途中から迎撃に移ったあちらと最初から用意して放った抜刀術による一撃では、当然俺の方が威力は高い。

 バキッと音を鳴らし、胸の辺りの骨を一本持っていくことができた。


(よし、今の俺の剣は――こいつに届くッ!)


 シミュレーションルームで何十回も戦ったからこそ、俺にはわかったことがある。

 それはこの聖骸の騎士を相手にするためには、距離を取ってはいけないということだ。


 何せ聖骸の騎士は、あらゆる魔法とスキルを使いこなす。

 攻撃魔法、防御魔法、回復魔法は全て使えるようだし、グランドクロスを始めとした得体の知れない技もまだまだ持っているに違いない。


 恐らくパッシブでいくつもスキルも発動させているはずだ。


 俺が怖いのは、距離を取って回復魔法で傷を癒やしながらグランドクロスを連打されるというパターンだ。


 あの聖骸の騎士のMPがいくつなのかはわからないが、まず間違いなく俺より低いということはないだろう。

 そうなれば時間が経てば経つほど追い込まれていき、最後にはジリ貧になってしまう。


 故に俺が選ぶのは前進。


 現在俺が聖骸の騎士相手に絶対に勝っていると言えるのは、敏捷のステータスと魔法のみ。 この二つを最大限に活かすためには――とにかくスペックで勝負するしかないからだ。


「おおおおおおおおおおっっ!!」


 至近距離で押し続け、とにかく相手を削る。

 こちらは剣を振りながら相手にも剣を強要し、その間に魔法でダメージを蓄積させていくしかない。


「チッ、もう駄目になったか――ダブルジャッジメントレイ」


 得物のグレードはあちらの方が上。

 二重に裁きの光を放つと今度は一撃を避けられた。

 だが片方が命中し、未だスケルトン状態の騎士はその身体を小さく震わせた。


 カタカタと顎の鳴らしていても容赦はせず、なまくらになった刀を思い切り投擲。

 相手が防御に移り、潰れた刀を一刀両断にした。

 その隙を見て、アイテムボックスから新たな直剣を二本取り出す。


「レールガン」


 二つのうち一本をレールガンを使い電磁加速。

 その後ろを駆け、一本目の一撃を弾いた瞬間に攻撃を仕掛ける。


 聖骸の騎士がこちらに攻撃をしようと意識を向けたのがわかる。

 瞬間防御をしながら即座に離脱。


 方向は後ろにではなく横。スライドした勢いをつけて再度の一撃。

 相手の前進に合わせてこちらは後退し、再び一撃。


 こいつとまともにつばぜり合いをする気はない。

 なにせこっちは、剣術スキルがカンストしても劣化版に負けるくらいの腕しかないからね!

 あくまでもこちらの得意を押しつけて、勝利をもぎとらせてもらう!

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