狼煙
あれから更に訓練を続けること二ヶ月弱。
俊敏を鍛えながら俺なりの剣を探し続けた。
そして俺は一つの答えにたどり着く。
それはまだまだ未完成で、俺はただがむしゃらに突き進むしかなかった。
なんとか苦労して劣化版の聖骸の騎士を倒した時は嬉しかったな。
けど当然、まだまだそれでは終われない。
次は騎士相手に全力を出さずに勝てるようになり、そして俺はとうとう……バフや事前の準備なしで、劣化版聖骸の騎士を圧倒することができるようになった。
対決の日は、着実に近付いている。
俺は来るべき時のために、己の腕を磨き続けた。
そして――俺がこの世界にやって来てから半年が経ったその日。
運命の日がやってくる。
「マサル……すまなんだ!」
定期的な情報の入手のために向かった小屋で、俺はバリエッタさんから頭を下げられていた。
限界まで引き延ばしを繰り返したのだが、どうやら勇者が『騎士の聖骸』へ行く日取りが決まってしまったらしい。
「明後日より、勇者パーティーが『騎士の聖骸』に挑むことになりそうじゃ」
「明後日、ですか……」
とうとうこの時がやってきたか……という思いからか、思っていたよりずいぶんと低い声が出た。
勝てるだろうかという緊張と、これだけやったんだから勝てなくちゃおかしいという自信。
色んな感情がない交ぜになって、自分でもあまり気持ちの整理がつかない。
ダンジョンの活動を止め、和馬君達のダンジョン攻略を止めるためには、それよりも早くあの騎士を倒す必要があるということになる。
それならあいつに挑むのは――今日か明日になるわけだ。
再戦することを考えれば、今日のうちに挑みたい。
可能であれば、さっさと終わらせてしまいたいな。
「これが今のわしの限界じゃ……情けない、騎士バリエッタともあろうものがこの体たらくとは……」
バリエッタさんが肩を落としながらそう嘆く。
「いえいえ、勇者達のダンジョンアタックがここまで延期を繰り返したのはバリエッタさんのおかげじゃないですか」
――彼は先代の国王の時代に、王国騎士団で騎士団長を勤めていた。
そのため彼は各方面に非常に強いコネを持っている。
あまり詳しくは聞いていないけれど、聖教会と王国の間でまとまりかけていた交渉を何回もご破算にさせたりしていたらしい。
聖教会の聖騎士経由で話を混ぜ返したり、騎士団から王国へ上がる報告に手を加えてまだ育成が足りないと告げさせたり……それを聞けば、彼が方々に手を回してくれていたことがよくわかる。
バリエッタさんが育てていた後進世代は、今の世代の重鎮達になっている。
そんな彼らに対して強い影響力を持つことができているからこそできる、力業と言えた。
「そのおかげで俺も……準備を整えることができましたから」
俺の言葉を聞いたバリエッタさんが、顔を上げる。
そして驚きを隠せないといった表情で立ち上がった。
「お主……まさかっ!?」
「はい、倒します。あの――聖骸の騎士を」
そのための準備はしてきた。
今の俺なら倒せるはず……いや、違う。
倒すんだ、あいつを。
このダンジョンアタックの……そしてこの俺の半年間の、集大成として。
これでダメなら……未玖さんを引き連れて、自宅にでも籠もればいいさ。彼女が言うなら、その友達を何人か連れて来たっていい。
今の俺なら、どこへだって行けるし、どこでだってやっていける。
どうやらこの『騎士の聖骸』での経験は、俺という人間に強い自信をくれたらしい。
ふと、どうしてここまでダンジョン攻略に躍起になっているんだろうと我に返る自分がいた。
未玖さんを危険に遭わせないために頑張ってきた俺だけど。
もうゴリ押しで未玖さんを攫って、助け出しちゃうこともできるはずだ。
今の俺の力があれば、王国騎士団くらいなら問題なく倒せるだろうし。
……いや、流石にそれは問題があるか。
戦ってばかりいたせいか、最近はどうにも思考が物騒な方向に行ってしまいがちで困る。
とにかく俺は、あの騎士に勝って、一年一組の皆のダンジョンアタックをなんとしてでも阻止する。
その後のことを考えるのは、取らぬ狸の皮算用というやつだろう。
全てはあいつに勝ってから。
話はそれからだ。
バリエッタさんと別れ、ドア設置の力を使い第十一階層へと飛ぶ。
第十一階層のランダム転移は、必ず光の道に固定になる。
二度の戦いを、アップ代わりに済ませる。
今の俺なら魔法を一度も使わずとも、レブナントのパーティー達を完封する程度のことはわけもない。
そして俺は久しぶりに、あの黒い門の前にやってきていた。
「すー……はー……」
ゆっくりと深呼吸をしてから、精神を集中させる。
そしてバフを使い準備を整えてから、門を開く。
そこに広がっている光景は、初めてやって来た時と同じ。
けれどこっちは、あの時とはひと味もふた味も違う。
ゆっくりと動き出す棺の上蓋。
あの時はこの場の雰囲気に飲み込まれてしまっていたが……今の俺に、この隙を見逃す理由はない。
「ジャッジメントレイ!」
裁きの光が棺ごと聖骸の騎士へと降り注ぐ。
これが俺の、反撃の狼煙だ――。