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強化


 聖骸の騎士を倒すための特訓を始め十日が経過すると、ようやくMPの充填が終わりトレーニングルームを強化することができた。


 ステータス向上は急務なので、増築による強化が終わってからすぐに試してみた。

 その確認の結果は、おおむね俺の予想通り。


 意外だったのは、想像以上にエリアがデカくなっていたことくらいだな。

 強化をしたことで、全体的にエリアの広さが倍以上になっていた。


 その理由は簡単で、トレーニング用の器具が増えたからだ。

 そして見慣れぬ器具が大量に増え、また今まで使っていた器具の隣にはその2Pカラーみたいな器具が出現していた。


 強化によってMPやHPといった、今まで上げられなかったものも上げられるようになった。

 今のところ攻撃と俊敏以外は上げるつもりがないから、使うにしてももう少し後になるだろうけど。


 ちなみに新たに出現した器具は、同じ三時間のトレーニングでステータスを2上げられるようになった。


 2Pカラーの似たマシンは、キツさが上がり今まで1上がっていたステータスを2上げることができるようだ。


 これが出た以上、古いマシンを使う理由がないんだけど……機械自体がバージョンアップするのではなく新たなものが横にできた理由は、よくわからない。


 とりあえず俺は、新たに現れたパンチングマシンにランニングマシンをくっつけたような奇妙なマシンを使い、攻撃と俊敏を1ずつ上げることにした。


 そんなことを更に繰り返すこと二十日ほど。

 トレーニングを始めて一月ほどが経過すると、俺は明確に手応えを感じることができるようになっていた――。





「――シッ!」


 騎士のレブナントの振り下ろしに対し、カウンター気味に一撃を放つ。

 相手の剣を紙一重のところで避けながら、振り下ろした剣を引き上げる際の、無防備になった一瞬に攻撃を割り込んだ。


 トドメをさそうとした瞬間、ウィンドサーチが気配を察知する。

 後ろからやってくる攻撃を回避し大きく横に飛ぶと、先ほどまで俺がいた場所に土の槌が振るわれているのが見える。


 腕に一撃をもらったレブナントは体勢を整えると、剣を振り続けた。


 魔力によって強化でもなされているのか、深いところまで到達したはずの切り傷を負わせても、その動きにはほとんど変化がない。


 人体の限界を超えた一撃が、人の技術によって振るわれる。

 その恐ろしさはたしかに筆舌に尽くしがたい。


 上下左右から降り注ぐ連撃が迫ってくる。

 きらりと剣が閃き、一輪の花が生まれていた。

 人殺しの技術は極限まで研ぎ澄まされることで、美しさすら纏うことになる。


「……すうううっっ」


 俺は大きく息を吸い、そしてわずかに吐き出す。

 自分の呼気に合わせ、一つまた一つと剣を振る。


 相手が人外の膂力を使うのと同様、こちらもまた人の理から外れた力を持っている。

 俺は一撃一撃に対して攻撃を合わせ、騎士のレブナントの攻撃を完封してみせた。

 そのまま返す刀で、首筋に一撃。


 クリティカルに決まった一撃が首をあっけなく飛ばしてみせた。

 そのまま前方にダッシュ。


 こちらに向けて魔法の準備を整えている魔導師のレブナントに対し、敢えて魔法は使わずに前進していく。


 聖骸の騎士のように魔法を斬り伏せることはできないが、相手の魔法に合わせて避けることくらいなら今の俺にもできる。


 レブナントの足下から無数の棘が飛び出してくる。

 その軌道から外れるためににわざと大回りで移動しながら、間合いを計る。


 駆けながら、彼我の距離を把握。

 決断は一瞬――跳ぶ。


 一閃。

 ローブごと両断されたレブナントが苦悶の声を上げる。

 隣にいるプリーストのレブナントもまとめて倒すと、くるりと振り返る。


 そこにはこちらに向けて必殺の一撃を放とうとしている、侍のレブナントが居た。


 放たれるは超高速の居合い。

 俺は敢えて真っ向から受け止めるため、先ほどまで使っていた剣をしまい改めて刀を取り出す。


 鞘を左手で掴み、腰を提げて柄を逆の手で握る。


 あちらは十分な溜めがあり、こちらは即座の発動。

 抜刀術は魔力を使用しながらチャージを行うことで、一撃の威力を向上させることができる。


 抜刀の瞬間は一瞬。

 侍が剣を抜き、白い衝撃波となった飛ぶ斬撃を放つ。


 俺はあちらと比べれば不十分な状態で、それでも鞘から剣を抜く。

 互いの飛斬がぶつかり合う。


 ――決着は、一瞬だった。


 俺の一撃はそのまま相手の一撃を弾き飛ばし、わずかに勢いを弱めたまま侍へ襲いかかる。


 残心をしていた侍はその一撃をモロにくらい、胴体から二つに切り分けられた。


「ふうぅ……」


 残心を解き、額の汗をハンカチで拭う。

 ここは第十一階層の闘技場。

 今していたのはシミュレーションではない、現実の戦いだ。


 身体に、白い光や紫雷はまとっていない。


 ――そう、俺は今魔法によるバフを使っていないのだ。


 使っているのは素の身体能力と、身体強化のスキルだけ。

 苦心しながら剣術を学ぶこと一ヶ月。

 俺は魔法を使わずに、ようやくレブナントのパーティー相手に完勝できるようになった。


 俺は自宅へ入り、そのままシミュレーションルームへと入る。

 目の前に現れるのは――レブナント状態の聖骸の騎士だ。


「よろしくお願いします」


 俺は軽く頭を下げてから、戦闘体勢に入る。


 今回はバフも全てかけた状態で、魔法も解禁しての戦闘だ。


 一合、二合、三合。しっかりと打ち合うことができている。

 相手の動きがわかる、相手の剣術の術理が見て取れる。


 気付けば劣勢になっているのは変わらないが、それ以外の全てが最初の頃とは大きく違っている。

 自分が次の段階――劣化版聖骸の騎士との戦闘に移れるくらいに、成長できている。


 まだまだ先は長い。

 けれど着実に前に進んでいる実感があるからか、まったくキツいとは思わなかった。


 そして俺はグングニルを当てようやく有効打を決められたぞと内心でガッツポーズをした瞬間に、その隙を突かれ無事敗北するのだった……くそぅ。まだまだ先は長いなぁ。

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