闘技場
更に歩くこと数分ほど、俺の前には見上げるほどに大きな門の姿があった。
今までとはずいぶんと趣向が違う。
ここに来るまでは一本道だったし、この先に進めってことだよな。
とりあえずいつでも自宅に戻れる心づもりだけはしてから、門に触れた。
すると突如として、門が収縮していく。
俺一人だけが入れるサイズに小さくなった観音開きの門が、そのままひとりでに開いていく。
そこに広がっていたのは――
「これは……?」
門の先に広がっていたのは、円形状の会場だった。
教科書に載っているのしか見たことはないが、古代ローマにあったというコロシアムに似ている。
真ん中に円形のステージのようなものがあり、それをぐるりと囲むように一段高い観客席があった。
そのステージの上に俺は立っている。
見ると向こう側には、先ほど通ったのと同じような光の門が見えていた。
そして俺と門の間に立ち塞がるようにいるのは、四体の魔物……多分だけど、倒して先に進めってことだと思う。
(というかあれは……魔物、だよな?)
その四体の魔物は、明らかに今までのアンデッド達とは違っていた。
肌は妙に青みがかってこそいるものの、それ以外の特徴はなんら人間と変わらない。
ゾンビのように目が飛び出したり身体が腐っていることもなく、おまけにしっかりと装備を身に付けている。
完全武装をした騎士然とした男、軽装の男、その後ろにいるとんがりハットの女に後ろに控えている回復役らしき女で合わせて四体だ。
冒険者ギルドで読み込んだ魔物図鑑を必死に思い出し、中に似たような魔物が検索をかけていく。
(恐らくだけど……レブナント、かな)
高位アンデッドの一つ、レブナント。
人間の死体が濃密な魔力に包まれる等、特定の条件を満たすことで誕生するというゾンビの上位互換のような魔物だ。
リッチと並んでアンデッドの中では強力とされている魔物のうちの一体なのだが、冒険者ギルドはこの魔物に対して討伐推奨のランクをつけていない。
その理由は……基本的にどの魔物も強力な魔法使いであるリッチに対し、レブナントはその戦闘能力はアンデッド化した人間によってかなりのブレがあるから。
レブナントは生前の知識を受け継いでいる魔物だ。
ただの人間が条件だけ揃ってレブナント化した場合は問題がないらしいが、強力な人間がレブナントになってしまえばその戦闘能力は隔絶したものになるらしい。
既に臨戦態勢を整えているレブナント達を見た俺は、目の前に居る魔物達を見て大体の推測をつける。
(一体一体が……大体エルダーリッチと同じくらいかな?)
ここ最近、魔物を見過ぎているせいか相手を見るとなんとなく相手の強さのようなものがわかるようになってきた。
といってもヤバいかそうでもなさそうかっていうかなり大雑把な感じなんだけどね。
三体のエルダーリッチはわりと余裕を持って倒すことができたから、一応戦闘能力的には問題ないんだろうけど……レブナントは生前の知識を持っているというのが厄介だ。
どう考えても彼らは、生前は一つのパーティーとして戦っていたのだろう。
連携を取られて戦うとなると……形勢は一気にこちらに不利に傾くはずだ。
「「「……っ!」」」
四体のレブナント達は声を発することもなく、そのまま動き出す。
それがそのまま、戦闘開始の合図になった。
いきなり始まった戦いを、俺はいわゆる捨て回にすることに決める。
今回は情報収集に徹しながら、レブナントの戦い方をしっかりと観察する。
その上で倒すことができそうなら、倒すくらいの心持ちで行く。
二重起動で発動させるのはミョルニルとアイギス。
ちなみに門を開ける前に既にアクセルとクイックは使用済みだ。
バフ効果が乗ったまま戦闘に入れることを考えると……もしかすると魔法を装填してから中に入ることもできるのか?
次回はそれを試してみることにしよう。
「――っ!!」
俺の横に突如として現れた盾と槌を見ても軽戦士の男は立ち止まることなく、こちらへ向かってくる。
その速度は、バフを乗せている俺と同等かそれ以上。
「コオォ……」
大きく息を吸い込みながら、男が切り込んでくる。
獲物は二本の短剣。
右に赤みがかった短剣を、左には青みがかった短剣を持っている。
両の手に持っているということは、双剣使いなのだろうか。
まず襲いかかってくるのは右手の短剣の一撃。
切りつけるような一撃を、当たらぬよう大ぶりに避けていく。
すると続いて左手の一撃が、それを避けるとそのまま右手の一撃が。
避け続けるが、避ける度にその進行上にまた新たな一撃が待ち構えている。
威力ではなく、手数を意識した一撃。
普通の人間であればブレスの間に隙ができるが、相手はレブナント。
息を荒げることもなく、ただただ機械的に培ってきた技術で剣を振ってくる。
素人の俺では、スピード任せに大きく避けるのが精一杯だ。
男は剣を振るうちに動きをこちらに合わせるようになり、剣が身体を擦るようになった。
一撃の威力は、想像していたよりも重い。
恐らく使っている短剣に、何らかの魔法が込められているのだろう。
気付けば横を向かせられていた俺の側面の死角を縫うように、騎士の男が剣を滑り込ませてくる。
「アイギス!」
使用しているウィンドサーチを使い接近を感知していた俺はその一撃を盾で受け止める。
そして同時にミョルニルを使い軽戦士を吹っ飛ばし、そのままもう一撃を騎士に叩き込んだ。
驚くべきことに軽戦士の方はインパクトの瞬間に後ろに飛ぶことで衝撃の大部分を無効化させ、騎士の方は左手に持っている盾で一撃を受け止めてみせる。
「――っ!!」
その後ろには、魔法の準備を終えている魔法使いと、既に魔法を起動させていた回復役が控えている。
突如としてレブナント達の身体が黒いオーラに包まれ、同時にこちらに風魔法が飛んでくる。
ミョルニルで魔法をたたき落としながら、既に空いていた手で準備していた魔法を発動。
「チェインライトニング!」
後衛二体に魔法が当たる。
その身体がわずかにぴくつき、発動準備を整えている魔法が霧散したのがわかった。
(……なるほど、レブナントにはスタンと麻痺が効くのか!)
基本的にアンデッドには雷魔法の状態異常が効きづらいのだが、どうやらレブナントはその例外らしい。
明らかに麻痺した様子の後衛を見ていると、腹部に衝撃。
見れば軽戦士の男が懐から取り出したらしい投げナイフが腹に刺さっていた。
「……やっぱりそう簡単にはいかないか」
雷魔法のゴリ押しでなんとかできるかと思ったが、ここまで来てそんなに甘いはずもなかった。
既にショックから立ち直っている後衛の様子を横目で見ながらも、騎士と軽戦士相手に攻防を続けていく。
どうやら第十一階層の戦闘も今までと同様、一筋縄ではいかないらしい――。




