最後まで
俺の目の前に現れるのは、何人の攻撃も通すこと能わぬ絶対の盾。
どうやら魔法攻撃力の値はこのような防御系の魔法にも参照されるらしく、この守護の盾は最初の頃と比べても更にその耐久度を上げている。
なんせ、自分で放ったグングニルを受け止めることができるくらいだから、その堅さは折り紙付き。
俺目掛けて襲いかかる炎の蛇と水の竜を、宙に浮いているアイギスは見事に受け止めてみせる。
盾の周囲を覆う光のオーラが魔法をしっかりと防いでくれるため、痛みや衝撃がこちらにやってくることもない。
「シッ!」
俺はMPを使い、アイギスを動かして傾斜をつけることで攻撃を受け流した。
そして攻撃を横に流しながら、更に前進を続ける。
以前からそれほど使用頻度が高くなかったことからもわかると思うけど、アイギスは正直あまり使い勝手のいい魔法ではなかった。
今ではアイギスも、ある程度自由に動かすことができるようになった。
実は、ミョルニルを自在に動かせることによる副産物だったりする。
ミョルニルが動かせるのだから魔法でできた他のものだって動かせるだろうと思い明確なイメージを持ってやってみたら、今までは出る場所が固定だった防御魔法が基本的に全て自在に動かすことができるようになったのだ。
アイギスを前に押し出しながらただただ相手の攻撃を受け止めてくれる。
散らされて小さくなった火の粉が降りかかるが、魔法抵抗力が上がった今の俺ではこの程度ではダメージを食らうことはない。
近付いていくと、アイギスが消える。
フッと眼前に現れたエルダーリッチ達は、既に次の魔法の装填を終えていた。
グングニルのチャージ時間はまだ少しある。それにここからだと、確実に魔法を当てられるかは微妙なライン。
空いている左手で即時に魔法を発動させながら、もう少しだけ前に出ることにした。
「チェインライトニング!」
チェインライトニングが火のエルダーリッチの杖に命中し、そのまま分裂して水のエルダーリッチの杖に命中する。
それによって魔法集中が妨げられ、彼らが発動させようとしていた魔法が霧散した。
これもまたイメージの産物だが、チェインライトニングが分裂する方向も指定することができるようになった。
俺はスキルLVを上げればそれで終わりだとばかり思っていたけれど、とんでもない。
どうやら魔法の技術は、奥が深いらしい。
近付いて相手の核が必中の距離に見えた時点で、俺は右手を突き出し、発動準備を終えていた魔法を解放する。
「グングニル!」
俺の放った雷の槍が、左手に位置していた火のエルダーリッチへと飛んでいく。
そこまで運動能力の高くない火のエルダーリッチの核を正確に射貫き、一撃で仕留めてみせた。
(本当ならダブルグングニルでまとめて倒せたら格好いいんだけど……)
と思いながら再び二重発動準備に入る。
LV10魔法の二重起動は未だ使えていない。
LV10とLV9ならいけるから、あと少しだとは思うんだけど。
着実に一体ずつ倒していくのが、今の俺の限界だ。
右手でグングニル、左手でミョルニル。
なんやかんやでこれが一番手に馴染む。
先に発動するのは当然ミョルニル。
俺が雷の槌を出すのと、水のエルダーリッチが体勢を立て直し魔法を発動させるタイミングが重なった。
「ガガッ!」
「ミョルニル!」
エルダーリッチが生み出した水流目掛けて、ミョルニルを振る。
バチバチと音を鳴らしながら、ミョルニルが纏っていた雷が水流とぶつかり合う。
こんな風に、ミョルニルは自身で纏っている雷を飛ばすこともできる。
なので中距離ぐらいまでなら対応できるので、結構応用力も高い。
魔法の威力はあちらが若干上だったらしく、完全に相殺させることができなかった水流がこちらにやってくるが、その勢いはほとんどない。
目視してから避けて、もう一度同じことを繰り返す。
するとそろそろ、グングニルの効果時間が近付いてきた。
再度接近、三発目のミョルニルを振る。
エルダーリッチの杖に振り下ろすと、攻撃が大して高くないらしいエルダーリッチはあっさりと杖を手放した。
それでも杖なしで魔法を使うべく魔力を練り始めるが……もう遅い。
「グングニル!」
再度放たれた魔法が水のエルダーリッチのしっかりと射貫く。
グングニル自体が前より速く、そしてデカくなっていることもあって、至近距離なら外さずに一発で仕留めることができる。
これは核を直接狙えるグングニルだからできる芸当だ。
本当ならジャッジメントレイをレーザー照射みたいな感じで手元から打ち出せたらと思うんだけど、その試みは未だ成功していない。
LV10魔法だけは、他の魔法と違いどうも融通が利きづらいんだよな。
「ふぅ……」
一息ついてからグッと左で握りこぶしを作り、振り上げる。
そして苦笑しながら、それを振り下ろした。
「見えてるよ――ジャッジメントレイ」
「ガガッ!?」
顕現した光の柱は、俺の右側に突き立っている。
その中央にいるのは、未だ息の根の止められていなかった風のエルダーリッチだった。
狡猾なあいつは死んだふりをしながら側面に回り込み、俺が油断したところで致命の一撃を放とうとしていたのである。
まったく、油断のならない風野郎だ。
「ググ……」
二度もLV10魔法を食らえば流石に生き残ることはできず、風野郎はコトリと杖を残して消し炭になった。
「よし、複数体相手でも問題なくいけたな……」
最初に来た時はどうなることかとヒヤヒヤしたが。
『自宅』の力もあったおかげで、なんとか無事第十階層も攻略完了することができた。
次は十一階層。
ここから先は何も情報の残されていない、完全の未知の世界だ――。