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聖域


 何事も休息というのは大切だ。

 なので俺は今日を、久しぶりの休息に当てることにした。


 休むと決めてからの行動は速い。


 汚れている服をリフレッシュで綺麗にしてから、戦闘で負けてMPが全損していないことににんまりし、ラフなパジャマに着替える。


 ポテチとコーラ、アイスクリームという太っちょ三種の神器を手に、自分の部屋へと向かう。


 ドアを開ければそこには本来なかったはずのドアが二つ見えている。


 最初は違和感だらけだったが、普通に助かっている今ではさほど気にはならなくなった。


 今後も増築をし続けたら、俺の部屋がドアで埋め尽くされることになるんだろうか……部屋の中にドアが敷き詰められている様子を想像しながら、ぐでーっとベッドの上に横になる。


 肘を立てながら、『大容量LLサイズ!』と表に書かれているポテチの袋を手に取った。


 内容量は150グラム……たしかに大容量だ。

 改めて考えると、軽くお茶碗に盛ったご飯くらいの重さがあるんだな。


 そこに記されているカロリー表示には見て見ぬフリをしながら、部屋の中が汚れるのも気にせず、ポテチの袋を開く。


 頬張ってからバリバリとかみ砕くと、粉末状のコンソメが舌の上を転がり口の中に幸せが広がった。

 芋を揚げているだけなのに、どうしてこんなに美味しいんだろう。


 ポテチを開発した人はその功績をもっと評価されるべきだと思う。銅像とかいっぱい立ててほしい、そしたらポテチをお供えしに行くから。


 味はコンソメが最強、異論は認める。

 ただしのり塩、てめぇはダメだ。

 歯につかえてうっとうしいからね。


 しょっぱいモノを食べ過ぎると、妙に甘い物が欲しくなる。

 1.5リットルコーラを開けると、何か破裂でもしたみたいな大きな音が鳴る。


 ブラストファイアボールの爆発音よりは小さいか、と異世界に染まった思考でワイルドに口をつけて飲む。


 ゴク、ゴク、ゴク。

 口の中の塩分がコーラ特有の謎の清涼感によって完全に洗い流され、その上から砂糖と甘味料の甘みで塗りつぶされる。


「ぷっはー……」


 コーラに満足した時には、既にポテチは影も形もなくなっており。

 その残滓を追いかけるように、俺は再びポテチを手に取った。


 ちなみに俺は、ゼロカロリーコーラNG(過激派)だ。

 人工甘味料の甘さがあんまり得意じゃないんだよね……。


 甘いしょっぱいを交互に繰り返し永久機関(大嘘)を歓声させて人心地ついたら、ベッドの上にごろんと横になる。


 俺のベッドはダブルサイズなので、ポテチとコーラに一部を明け渡してもまだゆったりスペースがある。


「……おやつとご飯以外、することがないかもしれない」


 たしかにポテチとコーラの組み合わせはギルティな美味しさがあるのだが、これでお腹を満たすだけだと、ただのおやつタイムだ。


 長いこと、ずっと気を張ってたからな……。

 いざ休もうとなったら、何をすればいいのかわからない。


 とりあえず横に寝転んだまま、スマホを手に取った。

 もちろん電波は入っていないため、検索なんかはできない。


 中に入っているアプリを開き、電子書籍を読むことにした。

 電子書籍といっても、普通に漫画だけど。


 スマホで漫画を読むのも最初は戸惑ったけど、今では慣れたものだ。

 部屋のスペースを圧迫しないし、片手で読めるから便利だよねぇ。


 俺が手をつけることにしたのは、長いこと放置していた少年漫画。

 お互いが叙述を行っていくことによって相手を打ち負かす叙述バトル漫画、『叙述対戦』を読む。


 読んでいくと、ちょこちょこと手が止まる。

 叙述対戦は叙述に凝っているため、こういうことが結構な頻度で起こる。


 この漫画、面白いんだけど読むのにカロリー使うんだよねぇ……カロリー取り過ぎた今はちょうどいいんだけどさ。

 

「ちょっとこの叙述複雑すぎないかな?」


 叙述トリックをするまではいいんだけど、伏線を細かく張りすぎているせいで何がなんだかわからなくなっている……実は戦っているのが主人公じゃなくてそのお兄ちゃんだったっていうどんでん返しはたしかにびっくりしたけど、その叙述トリックのせいでストーリーが歪んでしまっていてあまり魅力を感じない。


 そして主人公は敵方の叙述に対し、「これが俺の叙述だ!」といってただ真っ直ぐなハートフルストーリーを描き出し、見事に敵を撃破してみせた。

 うんうん、やっぱり少年漫画はこれくらい明快な方が好みだ。


「ふうぅ……疲れた」

 

 長いことベッドの上に横になって漫画を読んでいたせいで、身体がバキバキだ。

 これ以上お腹に入れると夜ご飯が入らなそうなのでポテチとコーラを脇に置く。

 すると視界にカレンダーが目に入った。


「……もう二月近く経ってるのか」


 俺がこのアリステラに来てから、既にそれほどの時が流れているのだ。

 といっても半分以上は自宅に引きこもっていたので、あまり実感はないんだけどさ。


「今の俺って……客観的に見てどれくらい強いんだろうか?」


 自宅から出た時は、まだLV10魔法が使えるだけのザコだった。


 肉体LVは5とかだったし、多分衛兵とかにも勝てないくらいのステータスしかなかったと思う。


 でも今は……どうだろうか。

 俺のLVは既に180を超えており、エルダーリッチをタイマンで倒せるくらいの実力を持っている。


 今思うと俺はちょっと……いやかなり、ダンジョン攻略以外のことに無頓着が過ぎる。


 一応定期的にチェックはしていたから、まだ一年一組の皆が来ているなんてことはないと思うんだけど……強くなること以外の全てをおざなりにしすぎていたかもしれない。


 俺は王国やこの世界の一般常識を、あまりにも知らなすぎる。

 このままじゃあこのダンジョンを攻略してから、路頭に迷うことになるだろう。


 しばらく『騎士の聖骸』からも出てないし……もしかするとメリッサさんをまた心配させてしまっているかもしれない。


 バリエッタさんのところに行って話をしたら、久しぶりに王都を散策しようかな。


 俺が初めて会った異世界人であるバンズさんに、何かお礼をするのもいいかもしれない。


 未来の大冒険者……にはまだ慣れていないけれど。

 とりあえず恩を返す方法も、考えておかなくちゃいけないな。

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