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シミュレーションルーム


 シミュレーションルームの概要は、ドアを開き機能を使用した瞬間に頭の中に入ってきた。

 この部屋は事前の説明の通り、戦闘技術を磨くための部屋だ。


 部屋の中で、俺は今までに遭遇した魔物を選び、その幻影を呼び出すことができる。

 幻影と言っても、本物とほとんど同じ能力を持つ幻影だ。

 名前のまま、魔物と戦うシミュレーションをするための部屋ってことだな。


 神様と対話をした時の場所を思い出させる真っ白とした空間は、かなりの広さがある。


 白いタイルが大量に敷き詰められているようにマス目で区切られているけれど、少なくとも俺の家くらいの広さはある気がする。


 なんでもこの部屋は、壊れてもMPで修復することができるようだ。

 どれだけ激しい戦闘をしても問題ないのはありがたい。


 エルダーリッチは、属性別に今まで遭遇した五種類全てを呼び出すことができた。

 当然ながら俺が選んだのは、因縁の風野郎である。


「一回……お前とガチでやってみたいと思ってたんだよなッ!」


 こちらに迫ってくる風野郎を見つめながら、俺はアクセルとクイックをかける。


 そして魔法をかけている間、向こうと距離を詰めすぎないように距離を取らせてもらう。


 とにかく俺に接近しようとしていた今までの行動と風魔法の性質から察するに、風のエルダーリッチの得意な距離は中距離だと見越しての判断だ。


 俺も使っているからわかるが、風魔法は発動地点から距離が一定以上離れると魔法の減衰が大きく減衰する。

 その分とにかく見えづらく避けづらいというメリットがあるのだが、遠距離戦はそこまで得意ではない。

 あれだけ距離を詰めようとしてくる動きから考えると、恐らくそう大きく予想は外れていないと思う。


 あちらに対し、こちらは距離がさほど関係のない雷魔法、であれば得意を押しつけるために距離を取るべきだと判断。

 距離を取りながら、雷魔法発動の用意を調える。


 即座に使える魔法の中で高威力なライトニングボルトを選択。

 二重起動で回復魔法を使うための準備を整える。


「ライトニングボルトッ!」


 稲妻がジグザクとした軌道を描きながら大気を走り、エルダーリッチへと向かっていく。


 LVを上げまくりとうとう600を超えた魔法攻撃力で放たれる雷魔法は、既に俺が当初使っていたものとはまったくの別物に変化していた。


 バリバリと大気を裂きながら、大木の木の幹を思わせる雷の線が走る。


 高速で飛翔する稲光を見ながら、俺は次弾のレールガンを発動させる準備をしてエルダーリッチの様子を観察する。


 このシミュレーションルームでのエルダーリッチの動きは、俺の予想からは外れていた。

 風野郎は距離を取ろうとする俺に対して動くことなく、ただ杖を上に掲げるだけだったのだ。


 思えば俺は今まで、エルダーリッチに一度も魔法を使わせることなく勝利している。


 あいつがどんな魔法を使うのかは、一度だって見たことがないのだ。

 以前自宅に逃げ込む際に見た時のように、杖に嵌められた緑色の宝玉が濁り出す。


 緑色の宝玉の中に混じる黒がその色味を変えていく。

 そしてぎゅるぎゅると跳ね回り、気付けば宝玉は緑色と黒が半々程度の割合になっていた。


「――ガッ!」


 風野郎とライトニングボルトを受けても動作を止めることなく、杖をこちらに向けた。

 どうやら未だ、相手にしっかりとダメージを通せるほどの威力は出せないらしい。


 宝玉が輝き出し、怪しい光を放ちだした。

 ――何か、来るっ!


 ……俺にわかったのは、そこまでだった。


「……な……え……?」


 ずるり……と何かがズレるような音。

 同時、自分の視界に異変が起きる。

 目が回る――なんてレベルじゃない。


 目に映るもの全てが、ぐるぐると回転し始めたのだ。

 唐突な変化に三半規管がやられ、気持ちが悪くなる。

 ぐらぐらと揺れる世界の中で必死になって目を凝らした俺の視線の先にあったのは――首から上がなくなっている自分の身体だった。


 あ……俺やられたのか。

 それがわかると同時、すうっと意識が遠くなる。

 ぼうっとしているうちに、気付けば部屋全体が強い輝きを放っており――。














「マジかよ……エルダーリッチって、こんな強かったのか……」


 シミュレーションが終わった俺は、がっくりと地面に倒れ込む。

 俺の身体には傷一つついていない。


 ――シミュレーションルームで行えるのは、当然ながら戦闘のシミュレーションだ。

 なので戦闘でどれだけやられたとしても、実際に怪我をすることはない。


「ふわぁ……あ、これダメだ。このままだとここで寝ちゃう」


 なんとかして立ち上がり、ふらふらとした足取りで入ってきたドアへと歩いていく。


 ――このシミュレーションには、負けた際のペナルティがある。


 どうやらシミュレーションルームでは出てくる俺の肉体は魔力によって作られているらしく……戦闘で負けるとMPが空になるのだ。


 ステータスを見てみると、戦う前は1000以上あったはずの俺のMPは残り1にまで減っている。


 MPで作られた肉体による戦闘……色々可能性は感じさせるけど……今はそんなことより、身体がとにかくだるい。


 何も考えることができなくなっていた俺はなんとかして部屋の外へ出て、汚れているのも構わずにベッドに倒れ込み、眠りをむさぼるのだった……。

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