風野郎
第十階層でLV上げに勤しむことしばし。
エルダーリッチを狩ることにも完全に慣れてきて、今では前より安全に狩りを行うこともできるようになっていた。
更に言うと、エルダーリッチ同士の距離が多少近くてもそのまま戦闘で倒しきることまでできるようになっている。
ここまでの変化が起こったのは、やはりLV10の魔法の発動速度の向上のおかげだろう。
命がけの戦闘は百の訓練にも勝る的な話は聞いたことがあるが、少なくともこのアリステラにおいてそれは事実らしかった。
いつ新たなエルダーリッチが来るかわからない状況で一刻も早く魔法を使おうと、俺は魔法発動までの時間を短縮することに文字通りに心血を注ぎ続けた。
その甲斐あって今では魔力抽出までは一瞬で行えるようになったし、そこから先の属性付与と魔法の構築もスピードが格段に上がっていた。
すると今まで五秒ほどかかっていたLV10の魔法を発動するのに必要な時間は、現在では三秒を切るほどに短縮ができるようになっていたのだ。
この短縮が、かなりデカい。
三秒を切って連発ができると、相手に迎撃をする暇を与えることなく倒すことができるため、一方的な戦闘が可能になるからだ。
戦闘音に気付いたエルダーリッチは一気に速度を上げてこちらにやってくるようになるのだが、今の状態なら間隔がある程度近くても二発魔法を打ち込んでまず最初の一体を倒し、そしてそのまま近付いてきたエルダーリッチにも二発魔法を打ち込んで倒してしまう、といった連続討伐も可能になっている。
ただこれをやるのは今の状態でもかなりギリギリなので、集中力が残っている時にだけやるようにしている。
今後のことを考えると自分をキツい状況に追い込んだ方がいいのは間違いないため、集中力が高い水準で保てているうちは、なるべくこの連続戦闘を行うようにしていた。
エルダーリッチが相当に強力な魔物だからか、倒せば倒すだけLVが上がっていく。
戦闘時間や回数はそこまで多くはないはずだけど、効率的にはあのヌルゾンビ狩り以上である。
まぁ流石に、最近では上がるまでの間隔も長くはなってきたけど。
まだ上がることは上がるから、ギリギリまで続けるつもりだ。
しかし、エルダーリッチ戦はとにかくMPを使う。
ランダム転移や索敵を挟んでいるし、何よりLV10の魔法を連発しなくちゃ倒せないからね。
できればLV10以外の魔法で倒せるところまで行きたいところなんだけど……これだと魔力回復があってもすぐガス欠になっちゃうし。
ちなみに今の俺のステータスは、こんな感じ。
鹿角勝
LV 182
HP 1930/1930
MP 1212/2555
攻撃 394
防御 407
魔法攻撃力 636
魔法抵抗力 609
俊敏 398
ギフト
『自宅』LV4
スキル
光魔法LV10(MAX)
闇魔法LV6
火魔法LV7
風魔法LV10(MAX)
水魔法LV9
土魔法LV4
雷魔法LV10(MAX)
氷魔法LV6
時空魔法LV10(MAX)
魔力回復LV10(MAX)
LVはそろそろ200に到達しようとしている。
ここ最近ではエルダーリッチ達を見ても最初に感じていたような恐れは感じなくなっていた。
恐らく彼らと同じくらいのレベル帯まで来ることができているんだと思う。
現時点でも、恐らく二体のエルダーリッチを同時に相手取ることも風野郎を倒すこともできると思う。
けどそれをするのは、完全にLVの上昇が止まってからにするつもりだった。
何せそれが終われば待っているのは、第十一階層だ。
第十階層までは出てくる魔物がわかっていたけれど、ここからは完全に未知の世界。
どんな階層なのかもわからなければ、出てくる魔物もわかっていない。
なので俺は万全に万全を期して挑もうと思っている。
その一環として、鈍化してきているLV上げと並行して増築を行っていくことにした。
当然選ぶのはトレーニングルームの強化……ではなく、シミュレーションルームの増築だ。
この『騎士の聖骸』がどこまで続いているかはわからないが、今後出てくる魔物は恐らくエルダーリッチより強い奴らのはず。
となるとしばらくの間は、LV上げに困るようなことはないだろう。
それならゆっくりとステータスを上げるより、戦闘技術を磨いた方がいいという判断である。
それに戦闘技術を磨いて、使うMPを少なくしてエルダーリッチを倒すことができるようになれば、その分だけ戦える時間も長くなることだし。
それに今のとにかくLV10魔法ぶっぱのやり方は、恐らくどこかで限界が来るはずだ。
今までおざなりにしていた戦闘技能をなんとかする良い機会だと思うことにした。
そして今日、ようやくMPが溜まりきる。
俺は戦闘を終えてLVをまた2つほど上げてから一度自宅に戻り、ワクワクしながらMPの充填を行うことにした。
すると……ガコガコッ!
以前聞いた時より大きめの音が聞こえてくる。
聞こえてきた場所は、やはり俺の自室だった。
部屋の中へ入ってみると……あった。
トレーニングルームのドアの隣に、真っ白なドアが鎮座している。
ゆっくりと中を開く。
そこには――純白の空間が広がっていた。
『トレーニングする相手を選んでください』
突如として現れる光の板。
そこには俺が今まで戦ってきた魔物が、ずらりと勢揃いしていた。
スクロールしていきながら、俺は迷わず一体の魔物を選んだ。
するとそこに現れたのは――。
「カカッ!」
こちらを嘲笑うように歯を打ち合わせる――風野郎こと風のエルダーリッチだった。