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長い長い二十分


 ドアノブに手をかけると、手のひらにじんわりと汗がにじむ。

 弱音を吐きそうになる自分を、必死になって押さえ込んだ。


(俺がエルダーリッチを相手にできるようにならなくちゃいけないんだ。この……俺が)


 あれが今までとまったく違うことは一目見てわかった。

 もしあんな魔物と戦うことになれば……いくら和馬君や御津川君だろうと、無事では済まないだろう。

 それに……


『勝君は、どんな女の子が好きなの?』


 脳内に前に未玖さんがウチに来た時の光景が蘇る。


 俺がこのダンジョンさえ攻略してしまえば、とりあえず彼女を危険に晒す自体は避けられる。


 それはあくまでも事態の先延ばしかもしれないけれど……ギフトを授かり成長チートまである皆なら、その間に強くなることができるはずだ。


 にしても王様も王様だ、こんな化け物がいるダンジョンに勇者を投入しようとするなんて。

 バリエッタさんから話は上がってるだろうに。


 王様のことを考えてむかついていたり、未玖さんのことを思い出したりしているうちに、身体の緊張は良い具合に解けていた。


(そういえば俺って、あの質問になんて答えたんだっけ……?)


 思い出すことができず少しだけもやもやしながら、俺はドアを開き、再び『騎士の聖骸』第十階層へと戻ってきたのだった……。










 まず最初にバフをかけていく。

 ストレングス・フォーティファイ・クイック・アクセル。

 主目的は勝利ではなく調査だ。

 やばそうなら即帰宅するくらいの勢いでいい。


 次にウィンドサーチを……おっとっと、危ない。

 ついいつもの癖で使いそうになった。


 今回はウィンドサーチは使わない。

 これであのエルダーリッチ自身に索敵能力があるのか、それとも俺のウィンドサーチに対して逆探知のようなをしてるのかがはっきりするはずだ。


 ドアノブの握ったまま、ジッと待ち続ける。

 周囲を確認する。

 こないだは急な戦闘で詳しく見ることができなかったが、第十階層は再び洞穴に戻っている。


 けれど壁やを天井に覆っているのは土ではなく、つるつるとした白い石だ。

 そして地面は同じ材質の白い石を使い、舗装されていた。


 人の手が入っている……というレベルではない。

 明らかに人間の手で、きちんと整備されなければ作れないほどに整っている。


 使われている石も、第八階層で使われていたものよりも上等なのだろう。

 第八階層のように若干ピンクがかっているものではなく、正に穢れなき純白のものが使われていた。


 そして石自体が薄く発光していて、どこか神聖な感じすら漂わせている。


  総じて薄暗いのでどこか不気味な感じがあるが、しっかりとした明かりさえあれば、ここがアンデッドの出てくるダンジョンだとは思えないほどの神々しさだったことだろう。


 もしかすると既に、最奥にあると噂されている騎士の聖骸にかなり近付いているということなのかもしれない。


「……」


 もちろんダンジョンの内部を観察するだけでなく、全方位に注意を飛ばしている。


 足音は聞こえないか、魔法が発動して物音が鳴っていないか。

 耳を澄ませ、この階層の全ての音を拾い上げるつもりで集中している。


「……」


 ウィンドサーチを使わずに、自分の五感だけで索敵をするのは初めてだ。

 あの物陰からエルダーリッチが出てくるのではないか。

 反対側の通りから今にも空飛ぶエルダーリッチがやってくるのではないか。


 薄暗い考えが、脳裏をよぎる。

 こんなものを長時間続けられるやつの気が知れない。

 自分でも感じ取れるほど、ゴリゴリと神経がすり減っていくのがわかる。


 一瞬にも永遠にも思える時間が過ぎていく。

 明らかに自分が集中力が切れたと思ったタイミングで、時計を見る。


 既に二十分もの時間が経っていた。

 そして未だ、エルダーリッチは影も形も見えない。


 ……ここまで試せば大丈夫だろう。


 俺はドアから手を離し、そして……


「ふうぅぅ……」


 肩の力を抜きながら、大きく息を吐いた。


 気付けば緊張で、喉がカラカラになっている。

 魔法瓶の水筒に入れてある緑茶で潤しながらも、あたりを警戒するのは忘れない。


(これでわかった。まず間違いなく、あの風のエルダーリッチがやっていたのは逆探知。つまりこちらが不用意にウィンドサーチを使わない限り、あんな風に即座に感知されて強制戦闘に入ることはない)


 いきなり襲われないということがわかっただけでも、大きな収穫だ。

 これでいちいちびくついたりしながら探索をしなくて済む。


 一度ドアから自宅に戻り、ちょっと休憩をしてから再度ダンジョンへ。


 俺はさっきまでよりリラックスして、ほどよい緊張感を保ったまま、エルダーリッチを探すべく歩き出すのだった――。

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