二重起動
今のところ俺は、魔法を同時に使うことができない。
魔法の二重起動は、兼ねてから練習しようとは思っていて、けれど手をつけていなかった技術の一つだった。
こうやって敢えて自分で危地を作ってみるまで、あまり必要を感じた場面もなかったしね。 二重起動するよりも強力な魔法をより短い時間で打てるようになることの方が必要性が高かったから。
……あ、ちなみに両手で撃っているレールガンは、厳密に言うと二重起動ではない。
あれは一度引いたラインを利用して、高速で二回レールガンを射出させているだけだからだ。
ウィンドサーチは一度発動したらしばらく残っているタイプの魔法なのであれも二重起動ではないし、アクセルやクイックといったバフ魔法も同様である。
(とりあえず目指すべきは、まずは右手と左手で別々の魔法を使うことかな)
ゆくゆくは時空魔法を使ってジャッジメントレイやグングニルを加速させたりもしてみたいけど、そのためにも一歩ずつ歩いていかなくちゃいけない。
魔法の発動行程は三つの段階に分かれている。
まず一番最初が、魔力を抽出して身体の外側へと押し出す作業(ちなみにMPが減るのはこの時になる。なので魔法が完成する前に邪魔されると、MPだけ減って魔法が発動しないなんてことも、このアリステラでは良く起こっているらしい)。
次に体外に出す瞬間に属性をつける作業。
そして最後に、属性変化をした魔力を変質させて魔法を生み出す作業だ。
スキルによる魔法の発動は、昔あった鮮烈な思い出を思い出す感じに似ている。
パッと思いついたりはしないんだけど、一度思い出すとなんで忘れてたんだろうと思っちゃったりするタイプのあれだ。
なので今では魔法は息を吐くようにできるんだけど……魔法の二重起動の試みは、今のところどうもうまくできない。
「ぐぬぬ、できない……」
というか一番最初、MPを外に出す作業の時点でつまづいていた。
俺は基本的に魔力は手のひらから押し出すようなイメージでやっている。
もしかするとこれが良くないのかもしれない。
身体の中にある魔力を、こう左右に押し出す感じで……両手を横に広げながらやってみるが、なかなか上手くいかない。
この世界において、魔法で一番大切なのはイメージらしい。
なので色々な創作物があった日本出身の俺は色々と優遇されてるはずなんだが……うーん。
魔法を二つ同時に使うイメージか。
考えるなら両手で別々の文章を書くような感覚に近いのか……?
「オオォォッ!」
「うるさいっ! ライトニングボルト!」
俺が魔法の練習をしているのに不躾にも寄ってきたソーサリーレイスをライトニングボルトで焼き焦がす。
その時についいつもの癖で、半身に構えてしまっていた。
ちょっと恥ずかしくなり姿勢を戻そうとしたところで……気付く。
「……待てよ?」
そうだよ、俺には……二つの魔力を同時に使うと言われて、イメージしやすいものがあるじゃないか!
そう――右手で魔法を使い、左手でいつでも自宅に戻れるようにしておく、俺がこの異世界で編み出したやり方が!
俺はもう一度半身になり、まず右手で魔力を、そして左手で『自宅』のギフトを使う……イメージをしながら左手に魔力を集める。
すると……
「……できた」
今まで苦労していたのがなんだったのかと思えるほどあっさりと、二つの魔力を同時に流し込むことができるようになっていた。
ここまで来れば後は簡単だ。
第二、第三の行程ができるようになるまでに、ほとんど時間はかからなかった。
こうして俺は一日も経たずに、魔法の二重行使ができるようになったのだった。
ただ、問題点が一つあって……
「すううっっ……」
目の前に現れた、二体のソーサリーレイス。
こちらに気付いていない彼らに奇襲をするため、意識を集中させる。
右手は普通に前に出し、左手は……ドアノブを握るくらいの高さに。
両方の発動準備を終えると同時、二つの手を同時に突き出す!
「ダブル――ライトニングボルト!」
「オオォ……」
「コホォ……」
走る電撃が、二体のソーサリーレイスを同時に屠ってみせた。
消えていくソーサリーレイスを見ながら、俺はぽつりと呟く。
「……ポーズが、ダサい……」
――魔法はイメージの問題というのは事実だった。
そして長いこといつでも自宅に逃げ込める両手スタイルでやってきた俺が魔法を二重に使いイメージは、完全にこの半身スタイルで定着してしまっており……。
この半身の姿勢で準備を行わないと、魔法の二重行使をすることができなかったのである。
一度下げた左手を再度前に出すというやり方は、動きとしても無駄が多いし……何よりポーズがダサいのだ。
なんで戦闘の最中に常に半身にならなくちゃいけないのだ。こんなの、誰かと冒険をしていたら完全に羞恥プレイじゃないか。
というわけで俺は一刻も早く普通に立ったまま二重起動を使うことができるように、ソーサリーレイス相手に魔法を使いまくるのだった――。




