トレーニングルームの力
トレーニングルーム=ジム。
なるほど、それなら自宅の中にジムができててもおかしくないな!
……自分で言っていて、頭が痛くなってきた。
なんで俺の部屋にジム直通のドアができるんだよ。
増築っていうから、なんか家の脇とかにそれっぽい訓練施設ができるとばかり思ってたけど……まさかジム直通ドアが増築されるとは。
ドアで繋げちゃえば何をしてもいいわけじゃないと思うんだけど……まぁ『自宅』のギフトにそんなことを言っても今更か。
MP10000も使うからどんな大がかりなものができるんだろうと思ってたけど、現実は俺の想像のその先をいっている。
「とりあえず、トレーニングルームの中を確認していくか……」
恐る恐るドアを抜け、中へ入っていく。
中の広さは、二十畳くらいだろうか。
俺はジムって実際に通ったことはないけど……多分世間一般の人間が想像できる感じのジムマシンが沢山設置されている。
有酸素運動のできるクロストレーナーやクロスバイク、ランニングマシーン。
腕力を鍛えられるベンチプレスから腹筋を鍛えるやつまで、あんまり名前を聞いたことのない器具も多数並んでいる。
中でも俺の目にとまったのは、懸垂ができる鉄棒みたいなやつだった。
――俺は一年に一度開催される男の祭り、サ○ケは毎年見ている。
この鉄棒を見ていると、トレーニング時に上半身裸で懸垂してる男の姿が頭に浮かんだ。
あれ、なんか漢って感じがしてカッコ良いんだよな。
……待てよ。
今の超人化した俺の身体能力なら、懸垂も問題なくできるんじゃないか?
物は試しと、鉄棒に手をかける。
『トレーニングスタート』
両手で鉄棒を握り込むと同時、そんなアナウンスが流れてくる。
そして頭上に突然、光のホログラム映像が現れた。
『攻撃向上 残り時間3:00:00』
残り時間が現れ、それが2:59:59と減っていく。
これって……三時間懸垂をやれってことだよな?
トレーニングルームはステータス向上のための施設だ。
つまりこれをやれば攻撃力が上がるってことか?
「フッ! ……筋力的にも問題なさそうだしっ……とりあえず……やってみるかっ!」
二度、三度、四度と懸垂を繰り返す。
腕にはかなりの負荷がかかっているはずだが、不思議と痛みは感じない。
攻撃が上がり腕力が向上してることで、とりあえず懸垂は問題なくできるみたいだ。
でもこれ三時間は……鬼畜の所業だろ。
検証のためにも一度はやってみるけど……あ、手のひらがちょっと痺れてきた。
やっぱりダメかも……。
三時間後。
俺は一人、トレーニングルームで仰向けになって転がっていた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
全身が汗が噴き出してくる。
汗で地面がびしゃびしゃになるが、そんなことを気にする余裕もなかった。
指先の感覚はとっくのとうになくなっていて、腕は痛いを通り越して熱い。
いくらステータスが上がってるからとは言え、三時間ぶっ続けでの懸垂は無理があったようだ。
「んぐ、んぐっ……ぷはあっ! 生き返るっ!」
アイテムボックスから冷たい水を取り出し、一気に飲む。
余った分は頭の上から振りかける。
火照った身体を、水が良い塩梅に冷やしてくれた。
「疲れた……筋トレってこんなにキツいのか……」
魔法を使って魔物と戦うよりキツいかもしれない。
今になって腕が痛み始めてきた。
それに懸垂って思ったより全身運動だ。なんか腹筋の辺りもちょっと痛いっていうか重たくなった気がする。
この痛みって、回復魔法で治せるんだろうか。
とりあえずハイヒールを使ってみると、ちょっとだけ痛みがマシになる。
そのままオールヒールを使おうとして、ふと思った。
「回復魔法で筋肉痛が起こらないようにしたら、筋トレの成果がなくなったり……しないよな?」
筋肉痛が起きるのは、筋繊維の断裂から。
なので筋肉痛は回復魔法で治さない方がいい……なんてパターンもあるかもしれない。
この三時間の成果がなくなるのが怖かったので、とりあえず回復魔法は使わずにそのままにしておくことにした。
ステータスを確認してみる……するとたしかに、攻撃が1上がっていた。
「三時間のトレーニングで上昇する数値は1か……コスパ的には、ちょっとどうなんだろう?」
三時間で1というのは、あんまり効率は良くない。
このジムマシンや器具なんかが全部ワンセット三時間なら、疲れ的に、ぶっ続けで何個も筋トレをするのも難しいと思うし。
……これならLVアップをしていった方がいい。
(今はまだ……な)
けれど俺には、将来的にこのトレーニングルームをしっかり使うようになるという確信があった。
そしてそれがそう遠くない未来であることも。
――まず間違いなく、LVは無限に上がるものではない。
LV上げができない状態で、今の俺では倒せないような敵が現れた時。
その時に俺は詰んでいた――今までなら。
けれど今の俺には、このトレーニングルームの力がある。
もしそんな状況に陥った時、これは現状を打破する鬼札になってくるはずだ。
それに、危険がなくステータスを上げられるっていうのは十分に魅力的だと思うし。
ヌルゾンビが消えるのを待ってる時とか手持ち無沙汰になることもあるし、持て余した時間で足りていないステータスを伸ばせるのはありがたい。
「せっかくだし、もう一個くらいやっていくか」
しっかりと休憩を取り終えて立ち上がった俺は、ランニングマシーンの電源を入れる。
自分で速度調整はできず、俺が出せるギリギリの速度で三時間全力疾走を続けさせられることになった。
さっきより疲れて立ち上がる元気もなくなった俺は、横になりながらステータスを見て、自身の俊敏を1上がっているのを確認して笑うのだった――。