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ギフト


 俺はそのままバリエッタさんから、現在の王国事情――というか、一年一組の皆についての情報を教えてもらうことにした。


「何一つ話は進んでおらんらしい」


 その言葉を聞いて、ホッと安堵の息がこぼれる。

 『騎士の聖骸』を勇者達に攻略させよう。


 一応話として本決まりはしているものの、事態の進展はまったくないようだ。


 現王であるイゼル二世は即断即決というのがあまりできないらしい。

 どうやら彼は、勇者を手元から離すのが不安なようだ。

 聖教の人間から色々と言われても、踏ん切りがついていないらしい。


「あまり景気が良くないグルスト王国でそれでも不満の声がまったく上がっていないのは、勇者の存在に拠る部分が大きい。かつて召喚された勇者は何度も国難を払い、世界に安寧をもたらしたという。故に勇者さえいれば大丈夫という絶対の安心感が、王国で暮らす民達の間には広がっているわけじゃ」


 このグルスト王国では、有史以来何度か勇者召喚が成されたことがある。

 そしてその度に勇者は国難を救ってきたのだという。


『それでも勇者なら……勇者ならなんとかしてくれる!』


 呼び出されたる俺から思うとなんて他力本願な……と思わないでもないが、どうやらそれが現在の王国民の総意のようだ。


 どうやら話を聞いている感じ、王がそんな風に民の思考を誘導しているような節もある。


「だから勇者が死んでしまうと困るというわけですね」


「ああ、『騎士の聖骸』のダンジョンアタックを言い出したのはあいつなのに、いざやるとなるとビビって動けん。まっこと、肝っ玉の小さい男よ」


 バリエッタさんもとうとうあいつ呼びである。

 けれどその気持ちもよくわかる。


 今までの実績から絶対の安心感を与えてくれる勇者だが、実際今の勇者はそこまで強いわけではない。

 普通に騎士と模擬戦をしても勝てる人もあまりいないらしいし。


 そんな戦力としては未だ微妙な勇者達があっけなくやられてしまったりすると今後の統治に支障が出るということで、王としてはなんとか勇者を殺すことなく『騎士の聖骸』の攻略に挑みたいらしい。


 今はそのために戦場に出したりすることはせず、騎士達に鍛錬をつけさせているらしい。


 前線に出して負けたりしたら困るということで、実戦もほとんどやっていないようだ。

 実戦せずに第六階層なんて攻略できるわけないと思うんだけど……。


(どうしよう、話を聞けば聞くほどこの国の王のクソさが露わになっていく……優柔不断だし、一年一組の皆を死地に放り込もうとしてるし……)


 ――そう、間違いなく第六階層は彼らにとって死地だ。

 クラス全員で挑めば、確実に死人か廃人が出るだろう。


 だってLV10の魔法が使える俺でさえ、何発か攻撃をもらったんだよ?


 第六階層のグリムリーパーに挑んだら、死ぬ気の鍛錬をしてめちゃくちゃに鍛え上げてでもいない限り、かなりの苦戦を強いられることになるはずだ。


 まあキュアが使える魔法使いがいると楽になるとは思うけど……魔法抵抗力が一定値以下だとあの鎌で即死するし、グリムリーパーは結構速い。


 結構グリムリーパーでLV上げをした俺と同じくらいのスピードだ。

 前衛タイプの人が挑んで鎌でバッサリされれば、それで即オダブツだろう。


「でもいずれは挑むことになるわけですよね?」


「ああ、恐らくじゃが勇者の中には何人か光るものを持つ者達がいると聞く。彼らを集中的に鍛え、なんとかする形に落ち着くじゃろう」


 それを言われて俺が思い出すのは、神様と対面した時に見たあのノートPCだ。


 たしか『勇者』、『覇王』、『賢者』、『聖女』あたりのいかにも強力そうなギフトは既に誰かが持ってて、選択不可になってたんだよね。


 となると多分だけど、和馬君周りのスクールカースト最上位勢がダンジョンアタックに挑むことになるだろう。


 でもいくら彼らとはいえ……果たしてグリムリーパーやリッチ率いるアンデッド軍団を倒せるものなんだろうか?


 勇者にはギフトがあるし、ステータスチートもあるけど……ぶっちゃけ序盤はそこまで強くない、と思う。

 俺らに与えられてるのはどちらかというといわゆる成長チートに近い。

 だから沢山レベルを上げて、後になってこないとその真価は発揮されないタイプだと思う。 そもそも俺らは、即戦力として使えるような戦力ではないのだ。


 俺の場合は『自宅』のギフトで魔法LVを上げることができたから、そのまま肉体LVを上げることができて、ここまでステータスを育て上げることができた。


 これは俺が奇跡的に『自宅』のギフトを手に入れたからこそ実現できた、例外中の例外だ。

 普通はまず間違いなく、こんなことにはならない。


 『火魔法使い』のギフトを持ってても強力な魔法がすぐ使えれば話は違うと思うけど、LV8以上の魔法が使えると魔導師としてビビられるこの世界観では、多分魔法LVを上げるのは通常のやり方では至難の技のはずだ。


「勇者って、ぶっちゃけどれくらい強いんですか?」


「ふむ……わしなら片手でひねれるくらいかのぅ。ただ中でもアキラだけはものが違ったな」


 元から和馬君とステゴロで戦えるくらいの戦闘能力がある御津川君だけは、この物騒な異世界に見事に適応し最前線で戦いまくっているらしい。


 『温室育ちさせるんじゃなかったの? 話が違くない?』と思ったけど、どうやら御津川君が持っているスキルが『覇王』であることが問題だったらしく……。


 御津川君に王位を簒奪されるかもしれないとビビったイゼル二世が容赦なく最前線に送りまくり、そして御津川君はその全てで生還してどんどんと強くなっているらしい。


 さ、さすが『覇王』……そしてそれに対してギフトだけでビビるイゼル二世……。

 バリエッタさん同様、俺は国王のことをあいつ呼びすることに決めた。



 話を聞いていると、御津川君がなんとかすることもできそうでちょっと安心した。

 もちろん俺は俺でしっかりと攻略に勤しむけど、保険があると思うだけで少し気分が軽くなるからね。


「そしたら自分、そろそろ『騎士の聖骸』に戻ろうと思います」


「うむ、第八階層の魔物はマサルとは相性が悪いじゃろうが、頑張ってくれ」


「はい、第七階層でギリギリまでレベルを上げて用心してから挑もうと思います」


「うむ、時間稼ぎはわしに任せて、ゆっくりと頑張ってくれい」


 俺はバリエッタさんの家を後にし、再び第七階層へと戻ることにした。

 バリエッタさんの言っていたことは事実。

 第八階層で恐らく俺は苦戦することになるだろう。


 なにせ第八階層の魔物には――魔法が効かないのだから。

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