一撃
第七階層は暗さが一層増し、散らばっている石の輝度は先が見通せないほどに下がっている。
ウィンドサーチがないと、どこに敵が出てくるかまったく予測ができない暗さだろう。
索敵をすると、近くに七つの反応がある。
反応を感じ取ると同時、俺は駆けだしていた。
大量の敵を避ける――のではなく、迎え撃つために。
俺はバリエッタさんから聞かせてもらった説明を思い出していた。
『第七階層から出てくるのは、スケルトンの上位種達による混成部隊じゃ。第五階層ではボスをはっていたスケルトンソルジャーはここでは雑兵。その上位種であるスケルトンナイトに攻撃魔法を使いこなすスケルトンメイジ、闇魔法で仲間達を癒やすスケルトンプリーストなどの魔物が統制の取れた動きをしてくる。そしてそれを統べるのが――』
「不死の王、リッチってわけだ……」
今、俺は敵側の索敵に引っかからないよう、慎重に距離を取りながら相手を確認していた。
盾と剣を構えながらのしのしと歩いているのは、何度か戦ったスケルトンソルジャーだ。
第五階層とは違い少し錆びてこそいるものの、しっかりとした武器を身に付けている。
そしてそのスケルトンソルジャーの後ろで、全身甲冑を身につけているのが恐らくはスケルトンナイト。
身に付けているのは金属鎧で、動く度にガシャガシャと大きな音が鳴っている。
スリットから漏れ出す赤い光がなければ、重装の騎士だと勘違いしそうなほどに、その動きは洗練されている。
前衛である彼らから大きく下がったところには二体の魔物がいる。
骨でできている不気味な杖を持っているのがスケルトンメイジ、真っ黒な修道着のようなものを身に付けているのがスケルトンプリーストだろう。
そして前衛と後衛の間に立っているのは、周りに居るスケルトン達とは明らかに格の違う存在だ。
「……」
身に纏っているのは紫色のローブ。
手に持っているワンドにはこぶし大の宝玉が埋まっており、魔法を使っているからかよく見るとその身体はわずかに宙に浮いている。
全身から赤黒いオーラのようなものを放っており、見ているだけでじっとりと汗が滲んだ。
ギリギリまでレベルを上げておいてよかったと、今になって思う。
多分だが、あれのレベルは俺よりもかなり高い。
なので生命としての格の違いを感じるというか、倒せる倒せないとかいう以前の問題で、本能が逃げろとささやいてくるのだ。
(あれとやるのか……)
リッチの討伐難易度はBの中位ぐらい。
グリムリーパーがCの中でも上位の魔物であることを考えれば、そこまで強い魔物ではないはずだ。レベルが高そうなのは厄介だが……
今回の七体の群れの内訳はスケルトンソルジャー2、スケルトンナイト2、スケルトンメイジ1、スケルトンプリースト1、そしてリッチが1。
真っ先に倒すべきはリッチ。
そして次は後衛組の二体、それが終わったら前衛を処理していくというのが理想だろう。
念のためにウィンドサーチを使い、他の魔物達を確認する。
どうやら七体というはそこまで多い規模ではないようで、それほど遠くない距離に十体以上の魔物の群れもそこそこいた。
つまりこれくらいは簡単に蹴散らせるようにならなければ、まずいってことだ。
(とりあえず、出し惜しみはなしでいく)
俺はいつものように左手でドア設置の力を使い、右手で魔法発動の準備を終える。
「食らいやがれ――ジャッジメントレイ!」
俺が発動するのは、光魔法における最大火力を持つジャッジメントレイ。
光魔法はアンデッド特攻を持っている。恐らくリッチに与えられるダメージ量で言えば、同じLV10で覚えられるグングニルを上回っているはずだ。
コオォォ……という音がなったかと思うと、洞穴を真っ白に染め上げるほどの極大の光の柱が、リッチに突き立った。
「――うおっ、眩しっ!?」
俺の光魔法の練度と魔法攻撃力が以前より上がっているからだろう、その威力は以前と比べると明らかに高くなっていた。
光の柱はリッチの率いているアンデッド軍団を纏めて覆い尽くせるほどに巨大になっており、そして光は発動者である俺自身が眩しくて目を開けていられないほどに高くなっていたのだ。
視界が塗りつぶされている状態で攻撃を受けぬよう、絶対の盾であるアイギスを発動させてから光が収まるのを待つとそこには――粉々になった焦げた核と、ボロボロになった装備が落ちていた。
「……あれ?」
一撃、一撃だ。
最上位の魔法とはいえ、たったの一発でリッチ軍団を全滅させてしまった。
でもいつでも逃げられるよう覚悟したあの気迫は、紛れもなく本物だったはず。
……うーん。
これって、もしかしてなんだけど……
「俺ってめちゃくちゃ、強くなってる?」