挑戦
下りながら、魔法を使っていく。
まず発動させるのはバフのストレングス・フォーティファイ・アクセル・クイックの四点セットだ。
これら全てが消費MPが5なので、合わせて20ほどを消費。
そして少しでも効果時間を長くできるよう、階段に下りる手前でウィンドサーチを発動。
こちらの消費MPは10。
合わせて30ほどの消費にはなる。
効果時間はそれぞれ一時間ほどなので、万全の状態で探索をするには常にこれらを使っておく必要がある。
MPはどんどん増えてはいるけれど、そこまで余裕がある状態ではないのだ。
なるべく早く魔力回復のスキルとMPを上げておきたいところだ。
ウィンドサーチを使うけれど、近くに敵影はなし。
かなり遠くに一体いるけど、今は無視していいだろう。
第六階層は、今までよりも更に墓地感の強くなっているエリアだった。
洞穴の中の光が青白くなっており、お化け屋敷にでも迷い込んでしまったようだ。
歩いているとちらほらと石で作られた剣や鏡のような謎の装飾品が点在するようになっており、めちゃくちゃ不気味だ。
それを見て俺が思い出すのは、歴史の授業でやった古墳から出てきた出土品だった。
(もしかすると『騎士の聖骸』って、本当に騎士を祀るための墓だったのかも)
スマホに撮っておいた地図を確認する。
この第六階層と続く第七階層、第八階層では、この石の道具達が目印になる。
動くことがないこれらを起点にすれば自分の場所を確かめやすい。
迷ってもそこまで時間がかからずに現在位置を確認できるだろう。
ドア設置の力を使うと、階層のどこかにランダム転移する形になる。
なので第六・第七・第八階層の仕様は俺的には大助かりだ。
左手はいつでも『自宅』を発動させることができるように後ろに下げ、右手は魔法を使うことができるように前に出しておく。
するとウィンドサーチに新たな反応が。
洞穴を進んでいった先、三叉路の真ん中の道を進んでいった先に魔物の反応を感知する。
ウィンドサーチだと相手がいることはわかっても、その強さまではわからない。
ここからは魔物が突然に強くなると聞いている。
大丈夫だろうかと不安が鎌首をもたげた。
けれど勇気を出して、俺は飛び出していく。
戦わなくちゃ――戦わなくちゃ、勝ち取れないんだ。
アイテムボックスを使い、指先にコインを乗せる。
色々と試してみたけど、レールガンで飛ばすのはやはりコインが一番使い勝手が良い。
かなり軽いし、親指で弾けば打ち出す方向にはかなり自由が利くからだ。
あと俺ノーコンだから、石とかボールを投げると見当違いの方向に行くことが多々あってね……。
某ライトノベルのヒロインも、恐らく試行錯誤の末にこの形に落ち着いたんだと思う。
「キエエエエエェッッ!!」
俺の前に現れたのは、死神のような見た目をした魔物だ。
ドクロの顔に、紫色のローブ。そして真っ黒な死神の鎌。
こいつはグリムリーパーという魔物だ。
その特徴は――即死という状態異常攻撃を放ってくる点にある。
グリムリーパーが持っているあの鎌は、物理ではなく精神に攻撃を行うことのできる魔力でできた鎌だ。
あれを食らうと、魔法抵抗力の低い者は一撃で死んでしまう。
また即死をレジストできる者であっても、鎌の一撃は精神への攻撃らしく、何度も食らえば回復魔法を使わないとまともに戦えないような精神状態になってしまうという。
かつてはそのせいで騎士団にも大きな被害が出たとバリエッタさんが言っていた。
俺の魔法抵抗力的に多分死ぬことはないとは思うけど……精神攻撃の威力を自分の身体で試すつもりはない。
遠距離戦で削りきらせてもらう。
「キョエェッ!」
知覚能力が高いのか、グリムリーパーがこちらに気付いて声を上げる。
それと同時、俺は指先に留めていたコインを打ち出す。
「レールガン」
俺とグリムリーパーを繋ぐ雷のラインが生まれ、その間を雷による加速されたコインが走ってゆく。
雷による加圧と加熱によって、原型を留めていない状態に変形したコインは、無事グリムリーパーの胴体を貫通する……が、仕留めきれない。
「やっぱり一撃じゃ無理か……」
アイテムボックスを発動。
両手の曲げた人差し指の上にコインを召喚し、即座に再度レールガンを放つ準備を始める。
「キョオオオッッ!!」
グリムリーパーがこちらへ飛んでくる。
――は、速っ!?
けどこれなら……俺の魔法が届く方が先だッ!
一度作ったラインは、完全に放電してしまうまでの数分の間は残っている。
なので最初の一回より少ないMPと起動時間で連続発動が可能なのだ。
「レールガン!!」
パチュンと音を置き去りにしたコインが加速しながら融解しながら再度雷をラインを駆けていく。
二度目の一撃が顔のドクロを砕き、三発目が再度胴体を貫く。
「アァ……」
そしてそこでようやく、グリムリーパーの動きが止まる。
最後に掠れた声を発すると、その場から煙のように消えていった。
グリムリーパーは第四階層のレイスと同様、死んでも何も落とさない。
鎌やローブも全て魔法でできているもののため、痕跡は一つも残っていなかった。
ウィンドサーチで敵を確認。
戦闘音に引き寄せられてやってくる個体はなし。
……よし、一応第六階層の魔物は倒せそうだな。
「はあっ、はあっ……」
戦闘が終わったことを身体がようやく理解して、荒い息がこぼれる。
なんだよあれ……速すぎだろ。
結構な距離があったはずなのに、ドクロの顔がよく見える距離まで近付かれたぞ。
気持ちを落ち着けるため、ステータスを確認する。
――驚いたことに、たった一回の戦闘でLVが2も上がっていた。
多分だけど、この狩り場の適正LVは今の俺より遙かに高いんだろう。
高LVの魔法の暴力で突破できてるだけで、実際にレールガンを三発当てなくちゃ倒せないんだもんな。
「ふぅ……よし、もう一回行くか」
明らかに今の俺より格上だけど……決して倒せない相手じゃない。
今は第七階層への階段を見つけるより、グリムリーパーを倒してLV上げをするべきだろう。
俺はとりあえずMPがいけるギリギリのラインまで戦ってから、自宅に戻る。
そして……上がりに上がった自分のステータスを見て、にんまりするのだった。