いざ!
再び『騎士の聖骸』にやってきてから、『自宅』のギフトを発動。
一度自宅に帰ってからドア設置を使い、第五階層へと転移する。
「えっとここは……よし、右に行ってから真っ直ぐと」
転移した場所から第六階層への階段へ向かうべく、歩を進めていく。
――『自宅』のドアの場所は、ドア設置の力を使った時点でリセットされる。
元来た場所以外のところから出ようとする場合には、やってくる場所は目的地としてしぼれる場所の中からランダム転移をする感じになる。
つまりダンジョン内にドアを設置して出た場合、やってくる場所は自分が指定した階層内のどこかになるということだ。
パーセプションを使うとMPがもったいないので、基本的には周囲の地形を見て、自分の場所を類推するようにしている。
階段の手前までやってきたら、一度深呼吸をして息を整える。
そして第六階層を一度見てから、第五階層へと顔を戻した。
「よし、最後の確認と行こう」
――実は俺には一つだけ、やろうと思ってはいたもののなかなか実行に移せていなかったことがある。
第六階層以降の探索には必要になるとわかっていたものの、なんやかんやと理由をつけて先延ばしにしてしまっていた。
ウィンドサーチを使い、単体で動いているスケルトンソルジャーを探す。
――見つけた。
ストレングス、フォーティファイ、アクセルにクイック。
今の俺が使える補助魔法を全て使い、接敵。
「グガァッ!!」
俺のことを発見したスケルトンソルジャーが、こちらに迫ってくる。
そんなスケルトンソルジャーに対し俺は迎撃することなく、くるりと後ろを向いた。
そして――ドア設置の力を発動させる。
そう、俺がやってこなかったのは――『自宅』ギフトの力の一つである、害意ある生き物を遠ざける機能の確認だ。
もちろんその機能があるということを、頭で理解してはいるのだ。
けれど実際に試す気には、なかなかなれなかった。
もしも敵が侵入してきたら……。
そんな風に思うと怖くなってしまい、なかなか一歩を踏み出すことができなかったのだ。
自宅は俺の城であり、同時に精神の拠り所でもあった。
日本で三ヶ月、異世界で一月半。
自宅だけは俺を拒むこと受け入れ続けてくれた。
けれどこれから先、この力を使うことが増えるだろう。
騎士団を壊滅させるような強力な魔物を相手にするのだから、逃げなければいけない時は絶対に訪れる。
咄嗟の時に自宅に逃げ込むことができるように、今のうちからしっかりと練習しておかなくちゃいけない。
ドアノブを握ってドアを開いた。
やってきた先は見慣れた玄関。
そのまま勢いよく靴を履いたまま廊下に上がる。
後ろを振り返る。
開かれたままのドアの先に広がっているのは、『騎士の聖骸』第五階層の光景。
こちらに近付いてくるスケルトンソルジャーの姿が見える。
自宅の中では魔法は使えない。
だから事前に、自分の身体にバフをかけておいた。
強くなった今の肉体を、更にバフで強化しているんだ。
もし入ってこられても、しっかり避けられる。
そうしたらダンジョンに戻って、魔法で滅多打ちにしてやればいい。
「……グガッ?」
けれどそんな風に考えていた俺の目の前で、スケルトンソルジャーの動きが止まる。
そしてきょろきょろとあたりを見渡した。
目の前にいるんだけど……完全に俺のことを見失ってるな。
「グガッ!」
スケルトンソルジャーはそのまま更に近付いてきた。
そしてこちら側へやってきて……ドアを通ることなく、そのまま消えていった。
……多分だけど、ドアから見えない部分に歩いていってしまったんだろう。
なるほど、自宅は敵意あるものからは認識することすらできない。
そして自宅のドアがあるはずの空間は、するりと通り抜けてしまうと。
これでとりあえず自宅に逃げ込めさえすればなんとかなるってことがわかった。
「ふぅ……」
気が抜けて、思わず廊下にへたりこんでしまう。
自分の手を胸に当てると、心臓がありえないほどにバクバクと動いていた。
これで確認は済んだ。
やってみれば、なんということはないじゃないか。
第六階層には、しっかりと地図もある。
いざという時は『自宅』に逃げ込めるのだ。
そのことを肝に銘じて、安全に、着実に探索を進めにいこう。
気持ちを落ち着けてから、自宅を出る。
と同時に、まだ俺を探していたらしいスケルトンソルジャーにライトニングボルトを発動。 見事命中させ、一撃で仕留めることができた。
「これは使えそうだな……」
自宅の中からドアの外の様子を確認し、無防備な相手に奇襲をしかける。
今までは逃げ込むことしか考えられてなかったけど……そんな風にアクティブに『自宅』の力を使うこともできそうだ。
心は先ほどまでの緊張が嘘だったかのように軽やかで。
俺はほどよい緊張感を持ったまま、今までに使ったMPを回復させるために一旦眠りについた。
そして起きてしっかりと準備をしてから、気負いすぎずに第六階層への階段を下っていくのだった――。