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帰路


 足かけ十一日ほどの時間をかけて、きっちり第五階層までの踏破とひとまずの魔法の訓練が終わった。


 ちなみにあまりに身ぎれいすぎると逆に怪しまれると思い、スケルトンウォリアー狩りをしてからはリフレッシュや着替えはしていない。

 そのせいで、とんでもない匂いが染みついてしまっている。


「街に戻ったら嫌な顔されないといいな……」


 『騎士の聖骸』で長期間探索をすると、腐臭が長いこと落ちなくなる。

 そのせいで恋人や結婚相手とギクシャクしたり子供が近付くのを嫌がったりするため、このダンジョンは大切な人との絆を壊す場所としても有名らしいからね。


 あ、そういえば『自宅』ギフトのドア設置は、ダンジョンの各階層に行うことができる。

 どうやらダンジョンは階層ごとに別々の場所という判断がされるらしい。


 なので俺は一度家に入ってからドア設置を行う時に、どの階層からでも探索を始めることができるのだ。

 通常は一度潜ったら来た道を引き返すという行程が必要にらるけれど、俺にはその必要もないのである。


 ……考えるとこのギフトって、わりと気軽にどこで○ドアみたいな感じで使えるんだよな。 やっぱり『自宅』の有用性は、留まるところを知らない。


「……おえっ、何か考え事でもしとかないと匂いで頭がおかしくなりしそうだ」


 綺麗好きな日本人として、ゾンビの腐臭や腐肉の焼けた匂いはなかなかに許容しがたい。


 ここしばらくの間レイスのいる階層で刺激臭とは縁遠い生活をしていたこともあって、久方ぶりのパワフルな匂いに目にうっすらと涙が溜まる。

 さっさと街に戻ろうと、ウィンドサーチを使って可能な限り接敵を避けて最速で地上を目指すことにした。




 念のために『自宅』の力は使わずに、人力で第一階層まで戻っていく。

 あんまり身ぎれいすぎて怪しまれてもあれだしね。


 すると第二階層の途中あたりで完全に鼻が馬鹿になり、以後匂いを気にする必要はなくなった。

 正直大変ありがたい。


「ウボオォ……?」


 今回の帰路で、俺は秘かに一つの目標を立てていた。 

 それは――戦いを一度もせずに切り抜けること。


 ウィンドサーチを使い索敵をすれば、風の動きで動いている魔物であれば簡単に捉えることができる。


 けれど幅は広いといっても中は洞穴であり、どうしても敵との遭遇が避けられないこともある。


 そんな時に使えるのが……デデンッ!

 このシャドウダイブなんですねぇ(裏声)!


 影の中に潜るこの闇魔法を使えばあら簡単。


「ウボオォ……」


 完全に姿を消すことができるので、魔物も俺のことを捉えることができなくなるわけなんですねぇ!


 ……とまぁ、プロショッパーのような口調は疲れるからここで辞めておくとして。


 どうやら第五階層までに出てくるアンデッド達の知覚なら問題なくごまかせるようだ。

 どれくらい隠密性が高いのかは気になるところだ。

 匂いや魔力みたいなところから感づかれるなら、一気に使いどころが限定されちゃうし。




 そんなことを考えているうちに、地上に戻ってきた。

 久しぶりの地上だ。


 すうーっと大きく深呼吸をする。

 く、空気がマズくない……いや、当たり前なんだけど。

 でも当たり前のことに感謝できる自分でありたい。

 ちょっとハイになってわけがわからなくなりはじめている俺の視界に、来る時に見た小屋が移る。


 少し迷ったが、中に入ることにした。

 バリエッタさんはアドバイスもくれたし、挨拶はしておくべきだろう。


「すみませ~ん」


「なんじゃ、定期購読ならお断りじゃ……いや、前に来た坊主か!」


 誰だかわかったからか、勢いよく扉を開かれる。

 そこには驚いた顔をしてこっちを向くバリエッタさんの姿があった。


「一応第五階層まで踏破したので、連絡をと思いまして……」


「――なんじゃと!? ……それなら一度、中に入ってくれい」


「え、いやでも汚いですし……」


「こんなとこで暮らしてるんじゃ、腐臭にも慣れたもん……(くんくん)」


 鼻をひくつかせて首を傾げるバリエッタさん。

 長いこと潜っていたにしては匂いが……とぶつぶつ呟いている。


 これはヤバいかもしれない。

 彼が何かに勘付いてしまう前に、さっさと話を終わらせよう。


 ――そうだ、バリエッタさんは第六階層のことを知っている様子だった。

 それなら詳しい話を聞かせてもらってもいいかもしれない。

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