アクセル
雷魔法を使うと匂いが出るからライトアローレインで倒していきたいが……その気持ちをグッとこらえ、チェインライトニングとライトニングを使って第三階層を進んでいく。
使えば使うほど、自分の身体が魔法の使用に慣れていくのがわかった。
最初はチェインライトニングを使える状態まで持っていくのに三秒くらい時間がかかっていたけれど、今では一秒くらいで発動までこぎ着けることができるようになっていた。
道中、他の雷魔法も積極的に使っていく。
使い勝手でいくと、LV7で覚えるレールガンの魔法が格段に便利そうだった。
これは簡単に言えば劣化版グングニルだ。
まず最初に雷のラインを引き、そのラインに重なるように物体を飛ばすと、雷によって加速しながら飛ばすことができるのだ。
威力では劣るが小回りが利き、MP消費もそれほど高くない。
試しに銅貨をレールガンで射出してみたら、岩くらいなら簡単に貫通してしまった。
ただ威力が出過ぎたせいで壁の深くまで行ってしまい取れなくなったのは誤算だった……今後銅貨一枚に泣くようなことがないことを祈ろう。
指弾のように指で弾いたりせずとも、投擲でも発動はできるようなので、アイテムボックスに入れておいた石なんかを投げて使う形がメインになるかもしれない。
俊敏にバフをかけるアクセル――攻撃魔法や回復魔法と区別をつけやすくするため、便宜上補助魔法と呼ぼうと思う――を使ってみると、身体に周りにバチバチと紫電が飛び、動きがものすごく速くなった。
異世界に来て基礎能力値が上がり、レベルアップでそれが促進されたおかげで、俺の身体能力は既にアスリート並だ。
けどアクセルを使った状態で動くと、なんというか……もう完全に人間を辞めた速度が出ている。
ただ早すぎるせいで、ちょっと動くだけで景色が一気に変わり、ものすごい目が回る。
症状は前にバスで林間学校に行った時の車酔いに似ている。
何度か使って慣れていかないと、とても戦闘で使えそうにない。
周りに飛んでいる雷も、スーパーサイ○人みたいで、なんか格好いい。
髪の毛が逆立ったりもしないし、絶妙に気分が上がってくるぞ。
バフの重ね掛けはできるのかと思い再度アクセルを使ってみると……特に変化なし。
アクセルの魔法自体は発動したんだが、俺にかけても不発に終わった。
何回も掛け合わせて倍々で超高速化できれば、距離を取り続けて魔法で一方的に殲滅とかできるかと思ったんだが……そう上手くはいかないか。
「光の補助魔法とならいけたり……おおっ! いけるじゃないか!」
ダメ元で光の補助魔法であるクイックを発動させてみると、なんとアクセルと併用が可能だった。
同じ補助魔法でも、アクセルとクイックは結構違う。
光の補助魔法であるクイックの場合、動きは滑らかに早くなる。
動きが速くなっているということが自分でもわかるし、それに伴って自分の知覚能力なんかも上がっている実感がある。
多分だけど、脳みその処理速度なんかも上げているんだと思う。
対しアクセルの方はというと、とにかく身体の動きが速くなる。
効果もクイックより強いんだが、どうやら効果があるのは純粋な身体能力に関してのみ働いているらしい。
意識の方が、身体の動きに完全に追いついていないのだ。
「でもこれなら……ギリギリなんとかならないこともない、かなっ?」
アクセルだけだと身体に振り回されていたが、そこにクイックを重ねがけすれば感覚もいくらかマシになった。
す、すごい。
自分の残像が見えそうなくらいの速度だ。
なんだか最高にハイってやつに……
「うぷ……」
喉の奥に酸っぱいものがこみ上げてくる。
補助魔法の二重掛けでテンションが上がりすぎていて、俺の身体の許容量を超えてしまったらしい。
こみ上げてくるものを必死にこらえながら、立ち止まって呼吸を整える。
魔法瓶の水筒に入った冷たい水を飲むと、いくらか落ち着いてきた。
「ギャンッ!」
すると間が悪く、猛烈な吐き気に襲われているところで向こう側にいるゾンビドッグに気付かれてしまった。
幸い距離はある。
本調子からはほど遠い……せっかくだしここで、正常じゃない状態で魔法を発動させたらどうなるか、試してみることにしよう。
「うぷ……ラ、ライトニングッ!」
一、二、三……。
何度も使うことで練度が上がり、ほぼノータイムで発動することができていたはずのライトニングが、三秒もの時間をかけてようやく発動する。
「ギャンッ!」
幸い威力は変わらないようで、一撃でゾンビドッグを倒すことができた。
……けどやっぱり、魔法発動までにかなり時間がかかったな。
これで魔法の発動には体調が関わってくるのは確定だな。
しっかりと体調を整え直してから先へ進むと、一時間もかからないうちに第四階層への階段が見えてきた。
とりあえず第五階層まではサクサク進めそうで一安心だ。
まあすぐに進むかどうかは、第四階層の魔物次第なんだけどさ。