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疲れ


 光魔法はかなり汎用性が高い。

 攻撃、防御、回復にバフ……あらゆる局面で必要となる魔法が揃っている。


 攻撃魔法が少なめなのが欠点かもしれないが、その弱点も他の属性が使えれば十分補える。


 それに魔法剣なんかもあるから、近接戦もできそうだし……やっぱり近付かれたら終わりっていうのを避けるためにも、近接戦闘の練習もしなくちゃいけないよな。


 バリエッタさんに頼んだら、剣術を教えてくれたりしないだろうか。


 回復魔法は一応他の属性にもあるんだが、種類が少ない。

 どれだけ一属性を極めても、光魔法でいうところのヒールとハイヒールくらいまでしか使えるようにはならないのだ。


 まあ、火力不足に関しては別の属性の攻撃魔法でなんとかするしかない。

 それなら使うのは、技の出が早く威力も高い雷魔法を使うのが一番いいだろう。


 今俺の使える魔法の中で一番威力が高いのは、雷魔法だ。


 元々の威力が高いのは間違いないんだが、高威力が出ている理由はそれだけではない。


 というのも、どうもこのスキルのLVという概念は、ただ覚える魔法が増えるというだけではないようなのだ。

 多分だがLVは魔法の発動までの速度と威力にも関係している。


 俺がそう確信したのは土魔法LV1で覚える地面から土の槍を出すアースランスと、雷魔法LV1で覚えるライトニングの二つの違いがあまりにも大きすぎたからである。


 アースランスはゾンビを倒せるかも怪しい威力しか出ないのに、使用までに三秒くらいの溜めが必要になる。


 対してライトニングはどうかというと、発動までが流れるようにスムーズで、技の出まではバインドより更に短い。更に威力はゾンビを簡単に倒しその身体を焦がすことも余裕なほどに高いと来ている。


 同じくLVが10でMAXになっているものに時空魔法があるが、こちらはどちらかというとものを入れるアイテムボックスや、別地点に瞬間移動することができるジョウントといったトリッキーな魔法が多く、純粋な攻撃魔法はほとんど存在しない。


 そのおかげで時空魔法だけは昨日草原で全部試してみることができているのは、不幸中の幸いと言ってもいいかもしれない。


 っと、思考がずいぶんとあっちにこっちにいっちゃったな。


 なんにせよ、しばらくは光魔法と雷魔法をメインにして戦っていくことにしよう。

 雷魔法でも少しだけ匂いは出るが……そこは背に腹は代えられないってことで。






 アリステラはゲームのような世界ではあるが、まぎれもなく現実だ。

 なので基本的に、臆病すぎるくらいでちょうどいいと思っている。

 ダンジョンの中での俺のさくせんは常に、『いのちだいじに』でいくつもりだ。


「よし、とりあえず今日はここまでにするか」


 再び第三階層へと繋がる階段へと戻ってきたところで、今日の探索を終えることにした。


 色々と魔法を使って練習をしたことで、MPも結構がっつりと減っているし、何より心身共に疲労が濃くなってきた。


 『自宅』のギフトを発動させ、MPを使って我が家へと戻る。

 

「ふぅ~……疲れた……(くんくん)」


 自分の身体の匂いを嗅いでみる。


 先ほどまでは常に腐臭の中にあったから気付かなかったけれど、自宅の中に入ってみると自分の身体がどれだけ臭いのかがすぐにわかった。


 きっと空気清浄機の前に立てば、ものすごい勢いで匂いメーターが真っ赤に変わり、空気が清浄されていくことだろう。


「とりあえずっと……」


 俺はまず自分の服を全て脱ぎ、自分の身体に消臭スプレーをかける。

 最低限匂いを取ったら、次に自分が着ていた服にリフレッシュを使って元の状態に戻していった。

 そして綺麗にした靴下を履いて、そのまま風呂場へ。

 タオルでごしごしと念入りに身体を洗って、染みついた匂いを落としていく。





 ――俺と『騎士の聖骸』は、非常に相性がいい。


 まずこのダンジョンにはほとんど人が寄りつかないため、俺は『自宅』のギフトの力を人の目を気にせずに使うことができる。

 いちいち人目を気にしたりカモフラージュで宿を取ったりしなくて分、誇張抜きでグリスニアより過ごしやすいかもしれない。


 また、ダンジョンには自己修復機能というものが備わっている。

 ダンジョンにある死骸や装備はいつの間にか消えてしまい、またダンジョンの破壊の痕は数時間もすると消えてしまう。

 俺がどれだけ威力の高い魔法を使っても、環境破壊を気にする必要がない。


 そして冒険者達がこのダンジョンを毛嫌いする理由の一つである身体に死臭や腐臭が染みついてしまうという欠点も、『自宅』のギフトを使えば多いに軽減させることができる。


 リフレッシュを使って物品を以前と同様の状態に戻し、しっかりとシャワーを使って身体を清める。

 それでも匂いが落ちなければうちにある香水を振りかければ、匂いの上書きもできるはずだ。


 おまけに疲れたら戻ってきてしまえば、寝ている最中や注意力が散漫になっている時に魔物の奇襲を受けるような事態も避けることができる。


 『自宅』のギフト様々だ。

 自宅にはもう、足下を向けて寝られない。

 寝るのが自宅じゃんというツッコミは、言いっこなしである。


「ふぅ……」


 幸いそこまで匂いがしみついていなかったらしく、シャワーを浴びてから身体を洗えば匂いは完全に消えていた。


 ドライヤーで髪を乾かしてから自室に戻り、ベッドに飛び込む。

 時刻を確認すると午後二時前。

 探索していた時間は六時間にも満たないはずだが……信じられないくらい疲れた。


 魔物がやってくるかもしれないという緊張感が、こんなに精神をすり減らすとは。

 俺が普通の冒険者だったら、間違いなく数日もしないうちに音をあげてしまうだろう。


「眠い……」


 今すぐに寝入ってしまいたい気持ちを抑えることができず、俺はそのまま枕とマットレスに身体を預けてしまう。


 反省と方針決めをするのは明日でいいだろう。

 俺は布団を掛け、そのまま流れるように床に就くのだった――。

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