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諦めない少女と○○ 5


【side 有栖川未玖】


 その見た目は、全身に豪奢なローブを羽織っており、大きな宝玉を埋め込んだ杖を持っているスケルトンだ。


 魔物図鑑で勉強した、リッチという魔物によく似ている。


 生前魔法使いであった人間が死ぬことで、稀にリッチというアンデッドとして蘇ることがある。

 そんな魔物の情報を思い出す。


 聞いた話では、第七階層で出現するとされていた魔物だ。

 魔法を使いこなすアンデッドであるために非常に強力ではあるが、騎士が小隊単位で当たれば倒せない相手ではないという。

 

 けれど……私の中の第六感が、目の前の魔物はそんな生やさしい生き物ではないと告げていた。

 こちらにやってくるリッチの力は、そんなものではない。


 今このサンクチュアリを解いてしまえば、一瞬で私の存在ごと消し飛ばされてしまう。


 そう断言できるだけの威圧感と、思わず喉の奥に酸っぱいものがこみ上げてくるほどの濃密な死の気配。


 リッチの上位種――エルダーリッチの落ちくぼんだ眼窩が、結界を隔てて向かい合う私を捉えた。


「オオォォォ……」


 エルダーリッチは結界に近付こうとして……そのまま距離を取った。

 どうやらこれほど強力な魔物であっても、サンクチュアリは効果を発揮してくれるらしい。


 そう安心したのもつかの間、エルダーリッチは想定外の行動に出た。

 エルダーリッチはつかず離れずの距離を維持したまま、ジッと同じ場所に留まり始めたのだ。


 ……間違いない、あのエルダーリッチは私を狙っている。


 サンクチュアリの持続時間は30分。

 消費するMPは35。

 そして私の魔力回復LV5による回復と自然回復を合わせれば、MPの回復速度は1分につき1。

 サンクチュアリを張り続けなければいけないため、私のMPはじりじりと減っていくことになる。


 私は背負っているリュックを開き、今あるものを確認する。

 魔力ポーションがいくつかと食料が何食分か。

 焼け石に水だが、ないよりはマシだ。


「サンクチュアリ!」


 MPの回復をペースメーカーにして、魔法を発動させていく。

 緊張からまったく空腹を感じないけれど、無理矢理に食事を喉の奥に詰める。

 それを魔力ポーションを使って流し込んで、目の前にいるエルダーリッチを見つめる。


 自然と、呼吸が荒くなる。

 にじり寄ってくる死の感覚に、全身が冷たくなっていく。


 頑張って耐えても、助けはやってこないかもしれない。

 でも……やるしかない。


 私は決して、諦めたりしない。

 たとえそれで助かる確率が、ほとんどゼロであろうと……私は絶対に希望は捨てない。

 だって、私は……


「――勝君に、会うんだ」















 サンクチュアリを途切れぬよう使い続けながら、意識を途切れさせることなく張り詰め続ける。


 極度の緊張で、時間の経過が曖昧になっていく。


 耳鳴りと音と心臓の鼓動の区別がつかなくなり、胸の奥がギリギリと痛んだ。


 少しずつ少しずつ、残酷なまでにゆっくりとMPが減っていく。


 現在のMPは既に20。

 次に使えるサンクチュアリが、最後の一回だ。


「サンクチュアリ!」


 最後の結界を張り終える。

 私の残りMPが一桁になり、抗いがたいほどの眠気に襲われる。

  

 つまりこのサンクチュアリが消えた時が……私の命が終わる時だ。


「サンクチュアリが消えても、せめて一分一秒でも長く生き延びてやる」


 私は虚勢を張りながら、必死になって平気なフリをした。


 ――人は誰しも、強いわけじゃない。


 実は私は……そんなに強い人間じゃない。

 勝君に会いたいというその一心でここまで頑張ってきたけれど……どうやら願い叶わず、ここで私の人生は終わってしまうようだ。


 サンクチュアリが、光の粒子になって消えていく。

 光に包まれる私の頬に、一筋の涙が流れる。


 涙は涸れたと思っていたけれど、どうやらそうではなかったらしい。


「勝君……」


 エルダーリッチがこちらに向けて杖をかざす。

 逃げようとするが、既に極度の緊張と疲れからか、身体はこわばりって動いてくれなかった。


「オオオォォォ……ッ!!」


 エルダーリッチの致死の魔法がこちらに照準を向ける。

 その気配が膨れ上がり、エルダーリッチが生者を殺せる喜びにカタカタと笑う。


「勝君……ごめんね……」


 私はゆっくりと目を閉じた。

 だって、せめて死ぬ時くらいは……大好きな人の姿を、思い浮かべていたかったから。


























「――大丈夫だよ、未玖さん」


 そこにやってくるのは、聞き慣れていて、しかし長いこと聞いていなかった男の子の声。


 声変わりをしているのに少しだけ高くて、そしてもう二度と聞けると思っていなかった声。


 あまりの驚きに、気付けば私は目をしばたたかせていた。


 目尻から溜まっていた雫がこぼれ落ち、視界が涙でにじんだ。


 そして私の目の前には――もう二度と見れないか

もしれないと思っていた、勝君の姿があった。


「オオオオオオオオオッッ!!」


「――勝君、逃げてッ!」


 エルダーリッチの魔法が、勝君と私を纏めてなぎ払おうと放たれる。

 思わず声を上げる私を見た勝君が、くるりと振り返る。

 そして彼は、ゆっくりとはにかんだ。


「大丈夫――ジャッジメントレイ」


 勝君が指先を上に向け、それをエルダーリッチへと振り下ろす。


 すると、見たこともないほどに目映く白い輝きが現れた。

 突如として現れたのは――聖なる力を濃縮させたかのような、光の柱。


 光魔法をLV8まで鍛え、王国で右に出る者のいない光魔法の使い手の私だからこそわかる。

 勝君の圧倒的なまでの実力に。

 今の私ですら及ばない領域……LV9……あるいは、伝説とされているLv10にすら……。


 真剣な表情で前を向いた勝君の頼りになる背中を見ていると、私が先ほどまで抱いていた不安は一瞬で消えていた。


「オオオオオオオッッ!!」


 光の柱に貫かれたエルダーリッチが苦悶の声を上げる。

 そしてさっきまでのやりとりが嘘であったかと思えるほどにあっさりと、塵になって消えていった。


「……ね、大丈夫だったでしょ?」


 再びこちらを向く勝君を見て――私はもう、我慢ができなかった。


「……勝くんっ!!」


 抱きしめる。

 強く強く、もう二度と離さないように勝君のことを抱きしめる。


 もう二度と会えないと思っていた人。

 半ば諦めながら、それでも会いたいと願い続けていた人。

 私の……世界で一番、大好きな人。


「ちょ、ちょっと未玖さん!?」


 勝君が戸惑っていて少し申し訳ない気持ちになるけれど、私は抱擁を止めなかった。

 思いがあふれ出して、止まらなかったのだ。


 こうして私は、半年ぶりに勝君と再会することができた。


 私は自分がしでかしたことに気付き、恥ずかしさから顔を真っ赤にしてしまうんだけど……それはもう少しだけ後のお話。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


第一章はこれにて完結です!


「第一章面白かった! 続きの執筆もよろしく!」


「第二章が、続きが早く読みたい!」


「勝たちの活躍をもっと見たい!」


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