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ステイ


「お初にお目にかかります、僕はこの国の勇者代表を務めさせてもらっているカズマ・ヒジリカワと申します」


 にっこりとした完璧な笑みを浮かべる和馬君。彼はひょっとしたら魔族の二人すら自分のハーレム要因に加えようとしているのではなかろうか。

 和馬君のハーレム街道は留まるところを知らないのかもしれない。


「勇者様ですか……これはこれは」


 プリオラさんが笑みを返す。

 そして和馬君の後ろではミーシャが、プリオラさんの後ろではリーリカさんが似たような笑みを浮かべていた。

 けれどどうしてだろう、俺には彼女達のうちの誰一人として笑っているようには見えなかった。


「本題に入る前に軽くティーブレイクといきましょう」


 イゼル二世がパンパンと手を叩くと、部屋の中にメイドさん達がぞろぞろと入ってくる。

 顔で選んだんじゃないかというくらいに綺麗どころばかりなのは、多分イゼル二世の趣味だと思う。


 彼女達が紅茶を入れ、お茶請けが配られる。

 ……『ジンさんのパティスリー』を見慣れているからか、なんだか少し物足りないような気がするな。


「リーリカ様、私が毒味を」


「いえ、大丈夫です。真の友好は信じ合うことから始まりますから」


 リーリカさんは前に出ようとするプリオラさんを止め、そのままカップに口をつけた。

 ……すごい肝が据わっているな。


(……いや、そうじゃない)


 影という形で下から様子をのぞき見ることができる俺には、彼女の足が小さく震えているのが見えた。


 考えてみれば当然のことだと思う。

 彼女達はいきなり見ず知らずの、種族も違う者達の根城までやってきているのだ。

 四方を敵だらけの状態で、恐怖を覚えないはずがない。


 けれどリーリカさんは湧き上がってくる恐怖心を抑え、それでも気丈に振る舞っているのだ。

 今の行動の一つだけを見ても、彼女の本気度がわかった。

 俺個人としては彼女のことを、イゼル二世などと比べてもよほど信頼できる人間だと思うことができた。

 けれど、現実は残酷だった。


「ぐ……がふっ……」


「リーリカ様ッ!?」


 紅茶に口をつけたリーリカさんの身体が震え始めたかと思うと、彼女は口に含んでいた紅茶を吐き出してしまった。

 その中にはわずかながら朱が混じっている。


 プリオラさんは警戒しながらも口に含もうとしていた紅茶をそのまま吐き捨てて、イゼル二世を睨み付けた。


 そして一連の様子を見て紅茶を口に含んでいたイゼル二世と彼の隣にいたミーシャは……その顔に、にやにやとした笑みを浮かべていた。


 こ、こいつら……会談相手に毒盛りやがった!?

 正気!?

 いや、正気じゃないのは元からわかっていたけどさ!


 俺の後ろの影の中で、アリシアがハッと息を飲むのがわかった。

 そりゃあ父さん達のこんな様子を見れば、驚きもするよね。


「ぐ……貴様らッ! 一体どういうつもりだっ!?」


「どういうつもりも何も……」


「そんなの、この状況を見れば一目瞭然でしょう」


 ミーシャが後ろに下がり目配せをする。

 すると彼女と入れ替わるように、和馬君率いる和馬ハーレムの皆が前に出た。


「ミーシャ、この子らは……」


「彼女達は魔王の手下、ここで殺さなければ必ず後に我らの敵となりますわ……勇者様」


「あ、ああ、わかった」


 『勇者』の和馬君、『弓聖』の藍那さん、『剣聖』の古手川さん、『賢者』の御剣さんが前に出る。

 そしてそれに合わせて、黒い鎧を身に纏っている黒騎士も彼らの隣に並んだ。

 和馬君達も前より確実に強くなってはいるし、あの黒騎士も決して弱くはない。


 だがそれでも、間違いなくリーリカさんとプリオラさんの方が強い。

 けれどそれは、あくまでも平常時ならの話。

 会談に用意したお茶に毒を盛るとかいうあまりにもな鬼畜行為によってリーリカさん達は明らかに弱っている。

 この状態で戦えば五分……否、わずかに和馬君達有利になったはずだ。


(勝……)


(うん、もちろん)


 後ろから未玖に袖を引かれたので、こくりと頷く。

 もちろんこのままこの会談場を血みどろに変えるつもりはない。


 イゼル二世とミーシャがまともに取り合うつもりがないっていうんなら……俺達がこの場所を、会談場に変えることにしよう。


「はーい皆、ちょっとストップ、一旦ステイ!」


「なっ、お前は……鹿角!?」


「お前、よくものこのこと顔を出したな!」


 ジャキンと剣を構えていた和馬君と古手川さんの切っ先がこちらを向く。

 やあ二人とも、前に俺が帝国に皆を連れてった時以来だね。


「まさか……また邪魔をしに来たのですか?」


「うーん……その質問には、ちょっと判断に迷うところがあるね」


 グルストの思惑を邪魔しに来たというのは間違いないけれど、魔族との会談を壊すつもりは毛頭ないのだ。

 このままだとバトル展開一直線になってしまってきたので、ちょっとテコ入れをしに来ただけである。


「カズマ様、こやつは……」


「ああ、鹿角勝……晶達を連れていった張本人だ」


「者共、あの謀反人を捕らえろ!」


「「「はっ!」」」


 イゼル二世の言葉に、黒騎士が率いている王国の騎士達が一斉にこちらにやってくる。

 とりあえず倒すつもりはないから、はいスタンショックっと。


「「「ぐわああああっっ!?」」」


「レールガン」


「ぐっ……お逃げください、陛下……」


 コインを使い背後に回ろうとしていた黒騎士の胸をぶち抜くと、会場はシンと静かになった。

 皆の視線が一斉にこちらと、地面に倒れ込んでいる黒騎士の方に向く。


「ま、まさかベーエンドルフさんがこんなにあっさり……」


 和馬ハーレム的には、彼が瞬殺されてしまってめちゃくちゃにショックを受けているらしい。

 たしかに考えてみると、魔族の二人を除いたら彼が一番魔力が多かった気がする。

 ひょっとすると王国だと名のある騎士とかだったのかもしれない。

 なんか名前もかっちょいいしね。


「さて、じゃあまずはっと……リーリカさん、二人に光魔法をかけてもいいでしょうか?」


「……お願い、します……」


 毒にやられて明らかに調子が悪そうなリーリカさんに了承を取ったので、しっかりと魔法を発動させる。


 王国がこの会談に対魔族用に持ち込んできた毒であることを考えると、キュアだと治るかちょっと怪しい。

 二人とも体力も削れてるみたいだし、ここは少し気合いを入れてこっちを使っておこうか。

「ラストヒール」


 範囲詠唱スキルによって効果範囲を拡げ、一度の魔法で二人を一気に治す。

 俺にかかればベホイ○全てがベホ○ラーになる。

 ベホマラ○スライムもびっくりな全体回復能力だ。


「なっ、これは……」


 ……あれ、普通に治った。

 正直なところ俺は彼女達は単一の光魔法では治せないと思っていた。

 てっきり闇に生きる者は通常の光魔法を受け付けず『聖魔反転』を使った闇墜ち光魔法でしか治せないとばかり思っていたから、正直意外だ。


 ひょっとすると魔族って、俺達が思っているよりずっと人間に近い種族なのかもしれない。

 しかし、だとすると……あの闇属性回復魔法って、一体誰を治すためのものなんだろうね?


「貴様……いや、あなたは、一体……」


「通りすがりの引きこもりです」


 ビシッと顔の横に立ててみるが、会場はシーンと静まりかえってしまった。

 ……格好つけようとして失敗することほど恥ずかしいものはない。

 俺は自分で言ったことをなかったことにして、早いところ話を進めてしまうことにした。


「えっと、それじゃあ俺の目的を言いますね。自分としては、グルスト王国の人達とは魔族の二人ときちんと話し合いをしてほしいんですが」


 身体を捻って横を向けば、そこには想定外の連続で完全に頭がショートしてしまっているイゼル二世と、怒りからか顔を真っ赤にしているミーシャの姿があった。


「なっ……何が目的だ、貴様ッ!?」


「えっと、だからきちんと話し合いを……」


「力尽くで私達に言うことを聞かせようってことね! このゲス!」


「いや、だから話し合いをね……?」


 イゼル二世とミーシャに話を聞いてもらおうとしたのだが、彼らはまったく聞く耳を持ってくれない。

 そりゃいきなり力に訴えかけた俺も悪いかもしれないけどさ、しょうがないでしょ。

 あのまま戦ってたら両方に被害が出て話し合いどころじゃなかっただろうし。


 二人が無理ならということで、俺は次に和馬君達の方を向いた。

 彼らはあのなんとかとか言う黒騎士がやられたショックからは立ち直っていた。


 ただ臨戦態勢を取ったままではあるけれど、そもそも俺に戦う気がないことがわかっているからか、こちらに向ける視線はそれほど厳しいものではないように見える。


 ……まあ隣にいる古手川さんはめちゃくちゃ鋭い目でこっちを見てるし、後ろにいる御剣さんはビビって半泣きになってはいるけれど。


「和馬君、一つ聞きたいんだけどさ」


「……なんだ?」


「和馬君は話し合いをしようとしてきた相手に毒を盛って倒して、それでいいってホントに思ってる?」


「そ、それは……」


「彼女達がちゃんと誠意を見せたんだからさ、人族側だって歩み寄らなくちゃいけないんじゃない?」


 話し合いをするのはあくまでもイゼル二世とリーリカさん達なので、和馬君にそこまでの権限はないと思う。

 けれど彼はそれでも勇者の代表だし、第一王女ミーシャの婚約者でもある。


 せめて彼くらいはまともな考え方をしないと、グルスト王国が本当に今代で終わっちゃうよ。


「ぐ……だが彼女達は魔族だ、魔王の尖兵だ!」


「でも話をしようと、この場まで来てくれたじゃない。それに彼女達の衣服や立ち振る舞いには貴賓がある。彼女達にもしっかりとした知性があって、勇気を奮い立たせて理性的にこちらと対話できるかもしれないと思ってやってきてくれたんだよ。その気持ちを無下にして毒を盛って殺すとか鬼畜過ぎるよ。勇者っていうかもう魔王の所業だよ」


「ぐぅ……」


 心のどこかで悪いとは思っていたからか、ぐぅの音を出しながら和馬君が押し黙る。

 その様子を前にネットで見た論破王の動画を思い出してしまった。


 ……間違えた。

 こういう時は上手く相手を諭しながら、きちんとコミュニケーションを取った方がいいに決まってるのに……論破してどうするんだよ、俺!

 やっぱり引きこもりにそういう細かいのは無理だ!


(えっと、相変わらずイゼル二世に対話の余地はなさそうな感じ……で、ミーシャは親の敵のようにこっちを睨んでると)


 自分の頼みの綱を瞬殺され勇者も論破され、イゼル二世はそのまま何も言わずに顔を真っ赤にしていた。

 真っ青にしていないのは、まさか俺が彼に手を出すとは思っていないからだろうか。


 うーん、でも頼みの綱の王様があれじゃあまともな交渉は期待できそうにないぞ……どうしようか、というタイミングで、俺の足下の影がパッと光った。事前に用意していた未玖の合図だ。


 皆の視線を浴びながら逃げるように影の中に潜ってみると、どうやらアリシアが言いたいことがあるらしい。

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