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諦めない少女と○○ 2


【side 有栖川未玖】


 階段を下りてダイニングへと向かうと、既にクラスメイトの皆が勢揃いしている。

 ――今日もいない、たった一人の男の子を除いて。


「「「いただきます」」」


 食事は基本は男女別だが、夜ご飯だけは皆で時間を合わせて一緒に摂るようにしている。

 これは渋る聖川君や御津川君、私が強引に押し通した案だった。


 ――人は誰しも、強いわけじゃない。


 このグルスト王国に順応してミーシャを娶ろうとしている聖川君や、この世紀末な世界観の方が合ってると嬉々として魔物を狩りに行く御津川君のような存在は、全体から見れば少数派なのだ。


 私達は本来ならまだ親の庇護下にあったはずの十六~七歳の少年少女でしかない。


 おまけに獅子川高校はかなりエリート寄りの進学校(おまけに私立)だったから、今まであまり苦労をしたこともない箱入りの子達も多いのだ。


 彼ら、彼女達を絶望させないためには、希望の光が必要だ。

 そしてその役目には、本人のカリスマ性のある聖川君が相応しい。


 彼は王女と仲良いおかげで情報通でもあるし、この国の重鎮達にも顔が利く。

 王国びいきなところはあるけれど、彼を好きな女の子達のスクールカーストが高いこともあり、クラスは聖川君を中心にして回っている。


 彼が頑張っていなければ、現状に絶望して生きるのを諦めた人達が出ていたかもしれない。


 どうしてその優しさを勝君に少しでも向けることができないのかは、本当に理解に苦しむけれど。


「有栖川さん、僕の顔に何かついてるかな?」


「……ううん、疲れててぼうっとしただけ」


 そう言って嫌みのない笑顔を向けてくる聖川君に、私も嫌みのない笑顔を返す。


 二人とも浮かべているのは愛想笑いだけど、それを見た義理の妹の藍那さんが明らかに顔をしかめているのが見える。


 私はこれ以上彼女の機嫌を損ねてしまわないように、隣にいる岸川愛理ちゃんと話をすることにした。


「未玖、今日は何かあった?」


「ううん、別に普段と変わらないよ。光魔法を使って、魔力が切れたら回復するまで休んでからまた光魔法を使って……」


「大丈夫、大変じゃない?」


「もう慣れたから、全然平気だよ」


 ――現在、一年一組はいくつかのグループに分かれていた。

 このグルスト王国での過ごし方や姿勢の違いから、自然に分かれていったという方が正確かもしれない。


 まず一番多いのは、とりあえず王国から言われたことに従っている生徒達だ。


 今のところ王様から私達にやるように命じられているのは、騎士達による訓練と宮廷魔導師達による座学だけ。


 一年一組には真面目な人が多いため、皆言われたことはきちんとこなす。

 そのおかげでほとんどの人がなんらかの魔法やスキルを身に付けることができていた。


 もっとも王家の私有地から出たことがない人も多いから、どこまで実戦で使えるかはわからないんだけど……。


「有栖川さん、聖女の仕事はずいぶん大変そうだね」


「勇者の聖川君と比べればまだまだだよ。私は別に前線に出たりするわけじゃないしね」


「むうっ、和馬君また未玖と話してる! ちゃんとエレナの話も聞いて!」


「ごめんごめん。大丈夫だよ、ちゃんと聞いてるって」


 次に多いのが、王国に積極的に協力しようとしている人達だ。


 このグループは、中で更にいくつかのタイプに分かれている。

 魔王討伐を本気でやろうとしている聖川君のような人もいれば、聖川君がやるからそれについていくという藍那さんや御剣さんのような女の子達もいる。


 彼女達にカッコいいところを見せたいからと言う男子達もいれば、王国から便宜を図ってもらうために前のめりになっている人もいる。


 そして……最初に話を聞いた時は正気かと思ったけど、元の世界に帰れないという寂しさがそうさせるのか、既に王国の人間(メイドや騎士達)と関係性を持っている人も今では何人もいる。

 当然ながら彼らも、王国に対しては非常に好意的だ。


 王の私有地にいる人間なんか、誰と付き合ってもハニートラップみたいなものだと思うんだけど……本人達がそれでいいなら、何も言うまい。


 なんというかこのグループは……口には出せないけど、この世の縮図みたいだなと個人的には思っている。


 けれど最近は徐々にこの派閥に鞍替えする人達も増えてきており、皆なかなか異世界に染まってきているのがわかる。


 そして最後は、私や御津川君の所属している、合わせて五人にもならない少数精鋭のグループである。

 もっともグループというより、個々人が自身の思惑のために動いているという表現が正しいかもしれない。


 私は勝君を見つけ、癒やすため。

 御津川君は最強に至るため。

 その他の子達にも、強烈な目的意識があって、それに向かって突き進んでいる。


 なので人数は少ないけれど皆能力が高く、気付けば一つのグループとして認められているまでになっていた。


「そういえばミーシャから聞いたんだけど、そろそろ晶が帰ってくるらしい。また魔族を一人討伐したって」


 ちなみにこの夕食に、御津川君の姿が現れることは滅多にない。

 クラスメイトの中で唯一、彼だけは王国中を飛び回っているからだ。


 ――彼が持つギフトは、その名を『覇王』という。


 本人から聞いたところによると、戦闘に関してあらゆるスキルを獲得することが可能となり、戦闘に身体が最適化されていく、武力に特化したギフトなのだという。


 けれどギフトに王という字がついているのが、他ならぬ国王によって問題視された。


 イゼル二世は御津川君が自分に代わり成り上がって王になろうとするのではないかと恐れ、彼を魔族が出るという前線に飛ばし始めたのだ。


 他のクラスメイトの中には、実戦経験がゼロの人も少なくないっていうのに……自分が危険を感じたらその瞬間に動き出すとは、まったく呆れてしまう。


 ちなみに御津川君は今のところそんな王の思惑を全てはね除け、どれだけ最前線に飛ばされてもけろっとした顔で帰ってきている。


「御津川にはずいぶん先を行かれてしまっているな……『剣聖』のギフトを持っている私としては、これ以上の遅れは取りたくないんだが……」


 『剣聖』の古手川さんが悔しそうな顔をしながら、上品に食事を食べている。


 聖川君のことが好きな女の子達の中には他にも『賢者』や『弓聖』のような強力なギフトを持っている人もいるけれど、今のところ彼女達はあまり実戦に出ていなかった。


 他でもない聖川君が、皆を守るからと彼女達を危険な目に遭わせたがらないからである。


 古手川さんは聖川君に大切に思われるのは嬉しいけれど、戦えないこと自体には不満なようで、複雑そうな顔をしている。


「そういえば今度、陛下からクラスの皆に話があるらしい」


「一体なんの話なんですか?」


「わからない……けど晶も含めてクラス全員に話がしたいってことだったから、大切な話なのは間違いないと思う」


 クラス全員。

 その言葉に怒りで肌が粟立ちそうになるのをグッとこらえる。


 その言葉を聞いた後は、あまり食事の味がわからないまま食事を終えた。

 そして次の日、私達はイゼル二世からとある指示を受ける。


 その内容とは――王都にある地下ダンジョン、『騎士の聖骸』の攻略指令だった。

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