魔族の少女
(へぇ……あれが魔族か……)
俺と同年代くらいに見える銀髪の女の子と、その子より一回りほど大きく見える軍服を身に纏った紫髪の女の子がいた。
カラフルな髪色が多いこの世界では、銀髪の子も普通にいるので、ぱっと見は本当にただの人族にしか見えない。
紫髪の方は角なんかがあって、さすがにビジュアルで一目でわかるけど。
前に戦ったメイド魔族もそうだったけど、魔族って基本的な見た目はあんまり人と変わらないんだね。
というかむしろ、美形揃いな気がする。サンプル数少ないけど。
何かを話しているようだったので、気になって少しだけ距離を詰める。
ただ気配で気付かれてしまっては元も子もないので、なるべく距離を保っておくことにした。
LVが上がるとそれに伴って身体能力なんかも向上するため、自分でヤバいと思うよりもかなり手前のあたりで、彼女達の声を聞き取ることができるようになった。
「本当に大丈夫なんでしょうか、リーリカ様。やはり二人だけで乗り込むというのはいささか無謀だったのでは……」
「そうは言っても今の私達には、他に選択肢はありませんでしたから……書状も丁寧でしたし、この国の国王は信頼できる人物のようです。ですからある程度事情を話してでも、協力を取り付けたいところですね」
いやぁ、俺は信じられる人物とは思えないけどなぁ。
後ろでジッとしている二人も俺と同じような感想を抱いたのか、暗闇の中でコクコクと頭を縦に振っていた。
「昨晩泊まった宿はお世辞にもグレードがいいようには思えなかったのですが……」
「……私達の正体がバレないように、という彼らなりの配慮なのでしょう」
「それにしてももうちょっと良い宿でも良かったと思います! あんなボロ宿にリーリカ様を泊まらせるなんて!」
「そう怒らないでください、プリオラ」
ふむ、銀髪の女の子がリーリカで軍服の長髪の女性がプリオラか……話を聞いている感じリーリカさんの方が立場が上なのかな?
どうやら彼女達には、人と手を組んででも成し遂げたい目的があるようだ。
まあそういうものがなくっちゃわざわざ二人で人間の国なんかに入ってこようとは思わないよね。
にしてもあのバカ国王、多分魔族だからって宿代ケチりやがったな……相変わらずなんてみみっちい男なんだ。
「国王陛下の、おなーりー!」
少し気の抜けた感じの声と共に、後ろの方に控えていた楽団らしき人達の方から楽器の音が聞こえてくる。
いや、そこに金かけてるのにどこをケチってるのさ。国賓扱いなんだろうから、宿代にしっかりお金掛けてあげなさいよ……。
そして荘厳な音楽と共に、一人の男性がやってきた。
……へえ、あれがイゼル二世か。
その見た目は、ファンタジーゲームに慣れている俺からすると正にそのままゲームの世界から飛び出してきたかのようだった。
見た目は五十代前半くらいだろうか。
敷かれている絨毯に負けぬほど綺麗に赤く染め上げられてるマント。
その下に着ているもこもこっとした感じのシャツに、頭にはゴテゴテと宝石やら金やらがちりばめられている王冠。
どっしりとした革張りの金ぴか椅子に腰を下ろせばあら不思議、見てくれだけなら立派な王様にしか見えない。
ううむ……周りの装飾物がしっかりしているからか、どうにも風格がある王のように見えてしまうぞ。
イゼル二世の後ろからは、ススッと数人の人影がやってくる。
護衛の一人と思しき男は、黒い全身甲冑を着たいかにも強そうな見た目をしている。
魔力感知を使ってみると……うん、弱くはないけどそこまで強くもないな。
剣術特化だとしてもLV10まで上げてるから俺でも十分対応できるし、そこまで苦労はしなくて済みそうだ。
イゼル二世は王様なので普通は平伏しないと処されてしまうのだが、魔族の二人は膝をついて軽く礼をすると、そのまま頭を下げた。
その様子を見てイゼル二世がむっとした顔をし、それを一瞬で取り繕ってみせる。
おそろしく早い表情変化……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「イゼル二世である」
「リーリカ・ツゥ・バロンと申します」
「プリオラ・ツゥ・ルサラだ」
へぇ、魔族にもしっかりと姓名があるんだ。
それに彼女達が着ている服って、よくよく見てみるとイゼル二世が着ているものとさほど遜色ないクオリティに見える。
ひょっとして人間側が知らないだけで、あっちもかなり高度な文明を持ってたりするんじゃないかな?
「此度の会合の機会を設けていただいたこと、誠に感謝致します」
「何、魔王領の魔族との戦いが終わるのなら安いものだ」
警戒しているからか、イゼル二世はずいぶんと距離を離した状態で相対している。
だが話をしているうちに魔族の美人さにやられたのか、場所を移すと言い始めた。
たしかにこの謁見の間は、話し合いをするには少々圧が強すぎる。
王様がいる玉座なんかリーリカさん達がいるところより明らかに高いし、あれじゃあ対等には話せないだろう。
とりあえずついていこうとすると、プリオラさんが「ん……?」と不思議そうな顔をしながらこちらに振り返った
「どうかしましたか、プリオラ?」
「いえ、今何か妙な気配を感じたような……」
……あ、危ない。
彼女の感知能力、御津川君クラスだよ。
魔力感知を使ってみると、この場に居る人間達とは頭一つ抜けている魔力量だった。
すごいな彼女、『騎士の聖骸』のレブナントクラスの魔力持ちだ。
しかもよく観察してみると、リーリカさんの魔力量はそれよりも上。
身のこなしから考えるにそこまで戦いに慣れているわけではなさそうだけど……鍛えたらものすごいことになりそうな逸材だ。
きちんと姓も持ってたことも考えると、魔族の中でも立場のある人達ではあるんだけど……こんな人達が沢山居て、人類側って勝てるのかな?
人間側で俺が強いなって思ったのって、正直御津川君くらいなんだけど。
王様達の進む足取りに迷いはない。
どうやら会った時に一発かましたらそのまま別室に向かう予定だったらしい。
彼らが入っていったのは、王城の一室だった。
(賓客用の応接室ですね。父上が入るのは少し珍しいかもしれません)
(なるほどね)
他の人達に気取られないよう軽く距離を取ってから、影の中に潜んでいるアリシアに話を聞かせてもらう。
近付いていき魔力感知を使うと……うん、反応がいくつもあるな。
しかもそのうちのいくつか見知った反応だ。
バレないようにそうっと影を通って部屋の中を窺ってみると、そこには和馬ハーレムの姿があった。そしてなぜかその中に至って自然な感じで金髪の美女の姿があった。
あれは多分、というか間違いなく第一王女のミーシャだろう。
すごく自然な感じでハーレムの一員になっている。
傍から見ているだけだと完璧な美人さんに見えてくるから不思議だ。
ひょっとすると和馬君も、あの美貌にコロッとやられたのかもしれない。
……あっ、『勇者』の和馬君や『賢者』の御剣さんに関してはバレるかもしれない。
なるべく部屋の中に入りすぎないように距離を取らなくちゃ。
少し悩んだ結果、彼らと魔族の二人のちょうど間の辺りの机の下あたりに陣取ることにした。
この位置ならどちらかが動き出しても、いざとなれば俺がどうとでもできる。
後は影に隠れながら成り行きを見守らせてもらうことにしよう。




