それぞれ
すみません、予約投稿の内容を数話先行させてしまい最新話を載せてしまっておりました、こちらが本来の内容になります!
軽く休憩を取ってから、皆でこれからについての話し合いをすることになった。
なので未玖と一緒に、宿の一階にあるテーブルの並んだラウンジへ向かう。
「未玖は疲れてない?」
「うん、トレーニングして身体を鍛えてるからね。あれくらいの移動なら余裕だよ」
現在俊敏を重点的に鍛えているおかげで、未玖の俊敏のステータスは150を超えている。 たしかに思い返してみると、俺を除けば一番余裕がありそうだったのは彼女だ。
トレーニングルームの力は偉大、はっきりわかんだね。
ラウンジに向かうと、既に何人かのクラスメイトの姿が見えている。
「王国の暮らしも、そう悪いもんでもなかった気がするけどなぁ」
「バカ言わないで、御津川君へのあたりのキツさを見たでしょ? あれがグルスト王家の本性なのよ」
「うんうん、俺もそう思うよ」
「わあっ、鹿角君!? 脅かさないでよ!?」
会話に混ざると、ものすごい勢いで驚かれてしまった。
脅かしたつもりはまったくないんだけどなぁ。
待っていると全員が集まったので、早速話をする。
この後俺はエミリア陛下のところに、未玖はアリシア王女殿下のところに行かなくちゃいけないので予定が入ってるから、さっさと済ませてしまおう。
ちなみにグルスト王国に魔族がやってきたら色々と動く必要があるだろうけど、どうやらまだ一週間ほど時間的な余裕はある。
なのでそれまでの間で、皆のことを集中的に見ていくつもりだ。
忙しくなったら、あんまり目をかけている余裕もなくなるだろうしね。
「えー、というわけで。それじゃあ皆も集まったということで、これからについての話をしていこうと思うよ。質問があったらまとめて受け付けるから、まずは俺と未玖の話を聞いてね。それじゃあ、どうぞ」
俺が手を動かすと、隣にいる未玖がスッと背筋を伸ばした。
「えっと、それじゃあ皆の待遇や処遇についての話をするね。まず最初に言っておくと、帝国では王国の時とは違って、皆に戦いを強制することはありません。当座の生活費、具体的には一年間何もしなくても生きていけるくらいの額は支給されます」
「ただ帝国の皇帝陛下はある意味では厳しい人だから、無限に援助をしてくれるわけじゃない。だから皆にはどんな手段でもいいから、手に職をつけて自分で生計を立ててもらうつもりだ」
「えっ、働かなくちゃいけないの?」
「王国では定期訓練だけ受けてれば、それで良かったのに……」
そりゃあ王国はいざという時には死に物狂いで戦ってもらう必要があったから、色々と機嫌取りもしてくれたんだろう。
でも帝国ではそうじゃない。
何せエミリア陛下は異界の勇者のことを、そもそも戦力としてまともにカウントしていないからね。まあ力を見せて交渉した俺は例外なんだけど。
エミリア陛下は基本的に仁君としての優しさのある人だが、優しいっていうのは全てを許容することじゃない。
親御さんが子供をただ甘やかすだけが優しさじゃないし、上司にとって部下のミスの全てを許すことは優しさではない。人はそれを甘えという。
彼女は優しいが、その分厳しいことも言う人だ。
その考え方は俺も嫌いじゃない。
もちろん異世界に連れてこさせられたのはほとんどの人にとって不幸なことではある。
でもだからといって不幸を嘆いて何もせず養われて生きていくだけじゃ、家畜と変わらない。
支援をしてくれてることからもわかるけど、何も別に今すぐに立ち上がれってことじゃない。
だからある程度時間が経ったら自分の力でこの世界で地に足着けて頑張れっていうことだ。
未玖さんがそんな言葉を見事にオブラートに包んで美しい声音で表現してくれる。
俺が言うとどうしてもぶっきらぼうで手厳しい言葉になっちゃうからね。
こういう時に細やかな配慮ができるのって素晴らしいよね、俺には真似できそうにない。
ただやっぱりもっと楽して暮らしていけると思ったのか、数人ほど不満そうな顔をしている人達がいた。
たしかにもう少し詳しい説明はしておきたかったんだけど、あんまり時間的な余裕がなかったからなぁ。
それに帝国に来たらバラ色、お金に困らずハーレム生活……なんてことはないくらいは流石に想像できてたはずだし。
俺からしたら戦いの駒として使われる王国より、戦わなくてもいいからこっちで生きてけって言ってくれる帝国の方がよっぽどいいと思うんだけどな。
けれど意外なことに、俺のことを援護してくれる人達もいた。
「うーん、まあいいんじゃね。別に何もせず引きこもって適当に身体動かして死ぬくらいなら、しっかり労働して生きた方がいいだろ」
「別にそれが嫌なら、今から王国に戻ればいいんじゃない? 待遇が落ちたりしたら聖川に言えば、今までと何不自由ない暮らしできるでしょ」
男子と女子それぞれのリーダーである恩田君と工藤さんがそう言ってくれたおかげで、俺達への反感みたいなものはなくなった。
「たしかにまだ高校生だった皆からすると、働くってことがイメージしづらいというのもわかってるつもり。だから一応仕事なんかも、バイトみたいな感じでフルで入らなくて良い場所を斡旋できたりもするから」
「そうそう、まずは社会見学と思って働いてみるのがいいと思うよ。王城の中と外の世界って、完全に別物だから」
聖女として各地を回ったり、色々と大変な思いをしてきた未玖の話を聞いてそれを否定できる人はいない。
彼女も純粋にお金を稼ぐために働いたことはないだろうけど、色々と大変な思いをしてきたみたいだからね。
とりあえず働いてみようという結論が出たところで夕食の時間になった。
ちなみに宿代は三食の食事付きでこちらも一年分、帝国から予算が下りている。
それを聞いた皆のテンションは一気に上がっていた。
働かないで食うご飯はスペシャルに美味しいからね、さもありなん。
「ん、鹿角達は一緒に食べないの?」
「このまま帝城に戻って陛下と話をしなくちゃいけないからさ。俺達のことは気にしないで好きにやっててくれ」
「鹿角、お前ってやつは……皆、鹿角がこんだけ頑張ってくれてるのに俺達はこのままじゃダメだ! 明日からの鋭気を養うためにも……飲もうぜ! 乾杯!」
ということではしゃいで酒盛りを始めたクラスメイト達を尻目に、俺達はそのまま宿を後にした。
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