感謝
『引きこもり』第一巻、本日発売!
イゼル二世の馬鹿さ加減を少し不安に思いながらも俺達は謁見の間を出て、与えられた客間で改めてこれからの話をすることにした。
「皆、お疲れ様。疲れてると思うけど、あと少しだけ頑張ってね」
俺の言葉を聞いた皆がこちらを見て、こくりと頷く。
その表情には王国を出る時にはあったような、こちらを侮ったり訝しんだりする様子はまったくなくなっている。
やってくる間に俺や未玖の魔法を目の当たりにしたり、帝国の兵士の俺達への恭しい態度を見たりして色々と思うところがあったんだろう。
「エミリア陛下の温情で、皆用の宿はもう用意してある。最初のうちはクラス全体で話したいこともあると思うから、とりあえずそこで話をしない? 帝国のお城の中じゃ、皆もリラックスできないだろうし」
「鹿角、お前……王城まで来てるのになんでそんなに余裕そうなんだ?」
「まあ、何回も来てるから。これでも皆を王国から出してあげたいと思って、色々頑張ったんだからね」
「お、おぉ、そうなのか……」
どうやらお調子者の恩田君が、皆を取り纏めて俺に話を聞く役割になったらしい。
まあ彼なら多少無礼なことをされても許せるキャラクターだし、案外適任なのかもしれない。
ひょっとすると王国でも、似たような役割だったのかもね。
いや、全然知らないけど。
帝城を抜け、陛下に用意してもらった宿へ。
グレードとしては上の下くらいの、悪くないといった感じの宿だ。
「個室にしてもらってるよ。皆分の部屋があるから、とりあえずまずは部屋を決めてくれるかな?」
「流石、皇帝陛下は太っ腹だぜ!」
ギリギリ不敬にならなそうな言葉を残し、恩田君率いる男子グループが我先にと部屋を取りに飛び出していく。
残っているのは女の子達のグループ。
ちなみに今回同行を決めてくれた女の子の数は合わせて四人だ。
その中でリーダー格らしい女の子がこちらにやってくる。
あれ、あんな子居たっけと一瞬不思議に思ったけど、その理由はすぐにわかった。
学校では常に髪を金に染めていたけど、異世界に着て色落ちしてるせいでなんか感じが違うように見えるんだ。
ギャルっぽいメイクをしていたはずだけど、今は清楚系な見た目にチェンジしている。
でも騙されるな、彼女は俺が苦手なギャル(死語)だ。
陽キャが現れた、陰キャにこうかはばつぐんだ!
えっと彼女、名前はなんていったっけ……
「真莉愛、工藤真莉愛」
「ああ、工藤さんね。もちろん覚えてたよ」
「嘘つけ、めっちゃ目泳いでるけど」
そうそう、工藤真莉愛さんだ。
見た目もかわいくて言動もハキハキしている姉御肌。
本当ならクラスカーストのトップになれるだけの逸材だったと思うけど、うちのクラスに和馬ハーレムがいたからね。
良くも悪くも普通の女の子という認識しかない。
「……鹿角、なんか余裕そうだね」
「まあ、色々と経験してきたからね。何か用? 急いで行かないと男子達に良い場所取られちゃうけど」
「別に、そうなったら後で適当言ってどかせればいいし」
「怖っ!?」
大仰に驚いた俺を見た真莉愛さんが、カラカラと笑う。
黒髪ロングの清楚系が豪快に笑っていると、なんだか視角がバグったような気分になってくる。
「一応、鹿角には言っておきたくてさ」
「何を?」
「……ありがとね。まあ今後のことなんかわかんないけどさ、鹿角と有栖川が気合い入れて連れてきたってことは王国よりマシなわけでしょ?」
「それはもちろん」
王国は信ずるに値しませんからね。
俺は死んでることになってるし未玖も暗殺されてることになってるし。
あのまま王国にいても、適当な理由をつけて使い潰されるのがオチなのは、御津川君を見ていれば火を見るより明らかだ。
「これからどうなるかわかんなくて、ヒスってた子とかも結構居たからさ」
「へぇ、そうだったんだ」
「ん、古手川とか聖川とかはそういうのを面倒見るタイプじゃないしね。うちが色々やんなきゃいけなくて、実は結構しんどかったんだ~」
「ああ、なるほど」
工藤さんは姉御肌を発揮させ、異世界でも色々と女の子達の面倒を見てきていたらしい。
彼女が少し疲れているように見えたのは、そのあたりにも理由があったのかもしれない。
「帝国でどうなるかはわかんないけどさ。とりあえずうちは間違いなく、王国に居た頃よりは楽になるから。だから……ありがと」
「うん、感謝されると頑張った甲斐があったなと思うよ」
なるほど、どうやら工藤さんは俺が思っていたより大分マメな子らしい。
細かい心配りが染みるね。いや、本当に。
これから帝国での暮らしがどうなるか不安も多いと思うけどさ。
それでも確実に、王国に居続けるよりかはマシなはずだよ。
皆が手に職をつけたりするまでは、俺も手を貸すしさ。
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