いざ、帝国へ
『引きこもり』第一巻発売まで、あと1日!
「ここは……」
「王宮の、外か……?」
「それじゃあそのまま……ジョウント」
そのままジョウントを二度、三度と発動させる。
めったなことでは人の来ない高台の上に陣取ってから、そのまま街を出て視界の端にある城壁の外に。
衛兵達がこちらに気付くより早く再びジョウントを発動。
街の東門の側から出て行き、以前通ったのと同じルートで帝国へと向かう。
まずは街道でジョウントを使って一旦距離を稼ぐ。
このまま連打をすると俺のMPの方が切れるので、三回ほど連続して使って距離を稼いでから皆にも動いてもらうことにした。
「す、すげぇ、今のって空間魔法か?」
「うん、そうだよ」
「すげぇなぁ鹿角、俺もそこそこ頑張ってたつもりだけど、これを見せられると流石に凹むぜ」
「でも皆、体力あるね」
「ま、一応王国の騎士団に鍛えられたからな」
一応最後尾から全員の様子を確認しているんだけど、早足で駆けるクラスメイト達は全員
陸上部の長距離走ばりの速度で走ることができている。
指導のたまものか、走っている間もまったく体幹が動いてない。
ストライドだけで言えば、クラスで屈指の運動音痴だったはずの毒島亜里砂さんも俺よりよっぽど綺麗だ。
「なんかちょっと目が回ってるかも……」
「気持ちが悪くなったら言ってね。未玖に治してもらうから」
「わ、わかったわ。……ん、未玖……?」
未玖の一番の友達だったという岸川愛理が、ジッとこちらの方を見る。
俺と未玖の仲については隠すつもりもないので、とりあえず胸を張っておいた。
「未玖、もしかして……」
「うん、ブイッ!」
「きゃーっ、良かったじゃない!」
Vサインをする未玖を見てきゃーきゃーとはしゃぎ出す愛理さん。
彼女の周りに女の子のクラスメイト達も集まって、移動しながらもきゃぴきゃぴとはしゃいでいる。
ちなみにそれでも走るペースはまったく落ちていない。
これが女子のたくましさというやつなのだろうか……?
「おい鹿角、お前もしかして……」
「まあまあ、積もる話は帝国に行ってからでいいじゃない。今は無事に王国を出ることの方が専決でしょ」
「後で話してくれよ、約束だからなっ!」
野郎達の相手を適当にしながら街道を駆けていく。
東の街道はそのまま進んでも開拓村にしか続いていないので対向から人が来ないのがありがたいね。
しばらく歩いてもらったらMPが回復したので再びジョウントによる移動に切り替える。
それから数度ほど転移すると、街道を抜けた先にある草原エリアにやってくる。
俺が一番最初にアリステラに降り立ち加減もわからずグングニルをぶっ放したのも、今ではいい思い出……いや、やっぱりまだ普通に黒歴史だね。
事前にルートは決めてあるため、移動はまったく悩むことなくサクサクと進んでいく。
ジョウントを使い低地に転移してから、高地へ駆けていく。
そんなことを三度ほど繰り返すと、そのまま草原の真ん中あたりまで来ることができた。
このあたりまで来れば、もう安心だね。
ちょうど良い時間なので一度三時のおやつ休憩を挟んでから、そのまま草原を抜ける。
森まで行くと更に高低差がエグくなるので、今度はジョウントの連続使用でガンガン進んでいく。
そして俺達は日が暮れる前に無事に帝国との国境へ辿り着き、無事入国することに成功したのだった――。
帝国に入った俺達は、そのまま流れるように帝都エルモアグラードへとやってきた。
そのまま帝城ノヴァークに向かうと、事前に話を通してあったので以前にも増してスムーズに謁見の間へと通される。
なんやかんや話すことも多いし、エミリア陛下は話し相手に飢えている感じがあるので定期的に会ってはいるのだけど、こうやって謁見の間に来るのは実は初めて会ったあの時以来だ。
こちら側より数段上で玉座の上からこちらを見下ろすエミリア陛下からはいつものやり手なOL感は微塵も出ず、王として持つ覇気のようなものが全身からにじみ出ているように見える。
「よくぞ来てくれました、異界の勇者様方」
皆と一緒に頭を下げて平伏する。
かつて世界を救ったと言われている異界の勇者であっても、俺達はまだ何か特別な活躍をしたわけでも、王国で爵位をもらったりしているわけでもない。
なので当然ながら扱いは一般人に準じる形だ。
当然ながら俺も弁えているので、こういう場ではしっかりとした態度を取るよ?
「突然グルスト王国から連れられてきて困っていることだろう。ただ我が子を褒めるようで少しむずがゆいですが、帝国は王国に見劣りしない素晴らしい国です。まずは帝国という国をしっかりと見定めていただければと思います。当然帝国への滞在を強制するつもりもございませんので、不服な方はいつでも王国に戻っていただいて結構です」
事前の取り決め通り、エミリア陛下は異界の勇者に何かを無理強いさせることはない。
いくら成長チートを持っているとはいえ、戦いが苦手という人や死にたくないという人にまで戦いを強制させるつもりはないからだ。
異界の勇者は戦わずとも、ただいるだけで意味があると彼女は言っていた。
たとえば現代知識を使えば帝国にないはずの道具や料理、考え方など様々なものを生み出してくれるだろう。
エミリア陛下が面倒を見てくれるのは、そのあたりのプラス面も考慮してという話だった。
「「「はっ!」」」
慣れない様子で頭を下げるクラスメイト達を見ながら、俺はようやくホッと一息つくことができた。
たとえ自前の勇者が持って行かれたとしても、国力差を考え得れば帝国に手を出してくることもないだろう。
ない……よね?
流石にあの王様でも、そこまで短絡的ではないよね?
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