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再会と別れ

『引きこもり』第一巻発売まであと2日!


 さて、和馬君達の謁見当日。


 俺は未玖と最後の打ち合わせをすることにした。

 といってもどうなるか想像がつかないところもあるし、結構な部分をアドリブの一発勝負でなんとかするしかないんだけどさ。


「とりあえず未玖が説得して、俺が連れて行くって感じだね」


「うん、時間がどれくらいあるかわからないけどどれだけ素早くやれるかが勝負だと思う」


 俺個人としては帝国に行った方が良いとは思うけれど、その考えを無理強いするつもりはない。

 帝国のことを知らない人だって多いだろうし、こっちに暮らしの基盤ができてる人だっているだろうしさ。


 だからまあ、半分くらい連れて行くことができれば上々って感じじゃないだろうか。

 一番面倒なのは、行くだの行かないだので煮え切らない態度を取られることだ。

 なのでスパッと未玖に言ってもらって、行くか行かないかすぐに決断を迫らせてもらう。


「よし、それじゃあ行こうか」


「うんっ」


 下手をすれば怪我人や死人が出るかもしれない結構な作戦だと思うんだけど、未玖はまったく気負う様子もなくいつも通りの自然体だ。

 俺の方がよっぽど緊張している気がする。


 さて、それじゃあいっちょ、頑張りますか。





 設置したドアを使い王城の中に入り、そのままシャドウダイブを使って移動。

 事前にアリシアから教わったルートを辿って進んでいけば、その先にある大広間のようなところに、一年一組の皆の姿があった。


 半年以上時間が経っているからもっと異世界に染まってるかなって思ったんだけど、その場にいるクラスメイトはそのほとんどが制服を着ていた。

 俺達って身分的には学生だし、フォーマルな場だから制服を着たって感じなのかな。


 謁見を終えて少し疲れた様子の皆を見ながら、なんとなく懐かしい気持ちになってくる。

 俺と未玖を除いた二十九人が、部屋の中にいる。

 つまり影に潜んでいる俺達も含めると、この場に一年一組の全員が揃っているのだ。


 アリステラという異世界に来て、まあ紆余曲折こそあったものの、誰一人欠けることなくこうして生きていくことができている……そう考えるとなんだか少し感慨深くなってくる。


 っと、感傷に浸るのは後でいいか。

 まずは邪魔な人達を排除しておかなくちゃね。


「なっ!?」


「ぐっ!?」


「く、曲者……(がくっ)」


 俺が発動させたのは、雷魔法のスタンショック。


 攻撃力がかなり低いかわりに相手を麻痺させることのできる、魔法版峰打ちのような魔法だ。威力が低すぎるから戦いで使う機会がほとんどなかったんだけど、こういう時には便利だね。

 かなり出力を絞って使ったので、兵士達も誰一人死んでいる様子はない。


「な、なんだ!?」


「敵襲!?」


「いや、違ぇよ。安心しろ、こいつに俺達を害そうとする意志はねぇよ」


「晶、何か知ってるのか!?」


 騒ぎ出すクラスメイト達を見てから、影の中で未玖と頷き合う。

 あまり不意打ちをされることに慣れてないのか、皆かなり浮き足立ってる。


 さて、ここからは時間との勝負だ。

 俺はウィンドサーチを発動し誰かが来ればすぐわかるように準備を終えてから、未玖と一緒に影の外へと飛び出した。


「皆、久しぶりだね」


「お前は……鹿角!?」


「嘘っ、未玖っ!?」


 お調子者の恩田君や、未玖と仲がいい岸川さんなんかがこっちに近寄ってこようとするが、僕は手を前に出してそれを制する。


「再会を祝ってる時間はあんまりないんだ、だから皆、まず有栖川さんの話を聞いてほしい」


「皆、私は王国に殺されかけたわ! 鹿角くんがいなければまず間違いなく死んでたと思う……」


 そういって未玖さんは王国が自分にした非道を述べ、そのまま俺との逃亡生活について語る。『自宅』のおかげで衣食住に困らなかったことを除けば、概ね嘘も言っていない。


「私は王国が信じられないの。勝手に召喚したくせに私を暗殺しようとしたり、ギフトに王ってついてるからって最前線に送りつけて御津川君のことを殺そうとするこの王国のことが」


「まあ、俺は別に困ってねぇけどな」


 ちょっと御津川君、せっかく未玖が演説をぶってるんだから茶々入れないでくれないかな。

 ていうかそれで困ってない御津川君が異常なだけで、イゼル二世は大分ヤバいことしてるからね?


「だから私は帝国に亡命したの。皇帝であるエミリア陛下とも話をつけて、皆が亡命しても生活の保障をしてもらうための約束も取り付けてきたわ。もちろん、今みたいなぬるま湯よりかは環境も厳しくなるかもしれない。それでも彼女は本人の意志を尊重し、戦場に出たくないのなら出なくてもいいとまで言ってくれたわ」


 ……まあ、俺を除いてなんですけどね!

 俺は皆の生活の保障と引き換えに、助けを求められたら帝国を一度だけ救うって約束を結んじゃったから。


 色々なゴタゴタを引き受けてもらえるのなら、これくらいは安いもんだけどね。

 帝国になくなってもらっても困るしさ。


 未玖は噛んで含めるように、クラスメイトの一人一人と視線を交わしながら言葉を紡ぐ。

 容姿が優れていて声も澄んでいる。皆視線が釘付けにされて、未玖の話をじっと聞いていた。


 いやぁ、人の心を掴むのが上手いなぁ。

 俺がやってたら間違いなく茶々を入れられて、こうはなってなかっただろう。


「皆には選んでほしいの。このまま王国でイゼル二世にいいように使われる人生を選ぶのか、それとも別天地で新たな生活を始めるか。もちろん私も鹿角君も、できるだけのことはするわ」


「未玖さん。いきなりそんなことを言われても、皆急に選択することなんてできないと思うんだ……」


「悪ぃな和馬、俺は行くぜ」


「晶!? 本気で言ってるのか!?」


 皆を取りなしながら自分で場を掴もうとする和馬君の言葉を、御津川君が遮った。

 彼はそのまま俺と未玖の方に立ち、そのまま和馬君と相対する。


「おう、イゼル二世のせいで殺されそうになったってのも事実だしな。ミーシャを娶るお前と違って、俺には王国に義理立てする必要もねぇしな」


「そ、それは、たしかにそうかもしれないが……」


 和馬君にぺちゃくちゃと喋られて皆の決意が鈍るっていうのはあんまり展開としてはよろしくない。

 何せ彼って結構なカリスマがあるからね。


「お義兄様はどうするつもりですか?」


「も、もちろん私達は和馬君についていくよ!」


「あ、ちなみにあまり王城の外を知らない野郎共のために言っておくと、この世界の顔面偏差値ってめちゃくちゃ高いから。だからわざわざ既に陥落済みの古手川さんや御剣さんを見なくても、美人はもっとたくさん居るよ」


「おい鹿角、どういう意味だ!?」


 『剣聖』であり古手川さんのセリフは完全に無視。

 和馬ハーレムの皆にあんまり場をかき乱してほしくないんだよ。


 聞けば転移したばかりの時は、和馬君と和馬ハーレムに扇動される形で全部が決まっちゃったらしいじゃないか。


 少なくともこの場ではそんなことをさせるつもりはない。

 この場を整えるのも、支配するのも、俺達じゃなくっちゃね。


 俺としてもここに来るまでには結構頑張ったから、話しているうちに気付いたら丸め込まれて皆残留、なんて展開は流石に御免被りたいからさ。


 ただ展開によっては彼とその取り巻きもまとめて昏倒させてしまおうかと思ってたんだけど、どうやらそんな展開にはならなそうで何よりだ。


 俺だって別に、クラスメイトに牙を剥きたいわけじゃないしね。


「皆、私達もかなり無理をして王城に侵入してるから、あまり余裕があるわけじゃないの。というわけで今から一分だけ時間をあげるから、その間にどうするかを考えて。これは多分、これから先の一生を左右する選択になるわ。無責任なことを言うつもりはないけれど、来てくれた人達に後悔はさせないつもり」


「別に強制じゃないから、残ってもらっても大丈夫だよ。中には帝国に行く前に捕まって連行されるんじゃないかって思う人がいるかもしれないけど、そこはこうして王城の中に入れてる俺達のことを信用してほしいかな」


「そうだよな、有栖川さん達、一体どうやってこの中に……」


「さっき影から出てきてなかった? 闇魔法をかなり高LVで修めてるんじゃないかしら」


「ほらほら、俺の話なんかしてる間にも時間は経ってくよ!」


「鹿角ってあんなやつだったっけ……?」


 だからなんで俺の話をするかね。

 だがなんやかんやで和馬ハーレムに会話の主導権を奪われるのだけは避けることができたので、悪くないのではなかろうか。


「はい、一分経ったわ。それじゃあ私達と一緒に行く人はこっち側に来て、鹿角君に触れてね」


 あっという間に一分が経ち、帝国移住を決めたクラスメイト達が俺の身体に触れてくる。 わっ、ちょっとそこはセクハラじゃない!?


「えっと合わせて……十四人かな。鹿角君、大丈夫そう?」


「うん、全員連れてくつもりで準備してきたから問題ないよ」


 一分待った結果は、三十人のクラスメイト達のうちの約半分の十四人が俺達についてくることになった。


 和馬君、藍那さん、古手川さんに御剣さん……和馬君とそのハーレム要員は皆残留するつもりのようだ。


 それと後は事前に話を聞いていた、王国に付き合っている人がいるクラスメイトが四人と、いきなり現れた俺達のことを怪しんだからか手を上げなかった生徒達が六人ほど。


 まあこの流れは想定内だった。

 ただ想定外だったのは、俺の言葉が効いたからか、俺の身体に触れているクラスメイトの多くが男子だったこと。

 野郎に触られても、全然嬉しくないんだよね!


 まあ、来るって言ってくれた人達の数は大体思った通りかな。

 それなら下手に感づかれる前にさっさとこの場をずらかることにしよう。


「待ってくれ未玖さん、鹿角、俺の話を……」


「ごめん聖川君。そんな悠長なことをしてられるほど、アリステラって優しくないからさ」


 俺は取り合うことなく流れるようにジョウントを発動。

 ちょっと悪いことをしてるような気持ちになってくるけど、万が一がないように少しでも時間が惜しいのは事実だしね。


 そして俺は範囲詠唱スキルの効果で俺の周りにいる人達ごと、王宮の外へと転移するのだった――。


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