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覚悟

『引きこもり』第一巻発売まで、あと4日!


 アリシアは最初、何を言われているのかわからなかった。


 彼女はある種自分の身を捨てる覚悟で勇気ある一歩を踏み出し、そして後は下される沙汰を待つだけと思っていた。


 にもかかわらず、王。

 黄でも凹でもないので、間違いなく王のことを言っているのだろう。

 文脈から考えればそれは王、つまりグルスト王国の国王のことに違いない。


「え、もしかしてアリスは私がこのままあなたのことを見捨てるとでも思ってた? 私、そんなに薄情じゃないよ。いざという時には王女という身分を捨ててもらってでも生きてもらうつもりだし。まあ案外私は、アリスが王になった方が綺麗に収まる気がするんだけどね」


「そんなこと、急に言われても……」


 自分が王になるなどという大それた考えを、アリシアは一度として持ったことはなかった。

 だからいきなり言われても現実味がなさすぎて、いまいち話が入ってこない。

 茫洋としているアリシアを見ながら、未玖は続けた。


「私はね、この国の魔族に対する考え方って非常に良くないものだと思ってるの。まあもっといえば聖教自体なくなればいいって思ってわ。獣人やエルフ、ドワーフ達を排斥してもいいことなんか自分達の自尊心が満たされるくらいしかないじゃない?」


 聖教は人族の単一国家でのみ信仰されることの多い宗教だ。

 その教義は多岐にわたるが、それらを一言で要約すれば人間が他の種族よりも優れているという一点に絞られる。


 人間は弱い種族だ。

 身体能力では獣人に及ばず、寿命ではエルフに及ばず手先の器用さではドワーフに及ばず。


 だからこそ皆、聞こえのいい教えにすがることになる。

 その結果が現在の、人間以外の全てを下に見る王国の考え方につながっている。


「アリスってさ、前に言ってたじゃない。魔族の中にも対話できる人がいるって」


「それは……はい」


 その言葉は以前、気が緩んだ時にこぼした一言だった。

 実はアリシアは姉と父と違い、完全な魔族排斥派ではない。

 その原因は彼女が幼少期に書庫に入って読んだ、とある資料にあった。


 実は今より数百年も前の建国期には、人と魔族が手を組んで別の魔族を撃退したという旨の記述が残っている。

 つまり魔族とは王国が言うように悪知恵が働く化け物ではなく、きちんと対話のできる知的生命体なのである。


 もっともその本は禁書に指定されており、ほとんどの人間は読むことはできない。

 イゼル二世はその存在を知っているだろうが、恐らくはミーシャなどはわざわざ手に取って見たこともないだろう。


「だったら今回の魔族との会談って、良い機会だと思うんだよね。わざわざ人間と対話をしようとしてくれる魔族ってめったにいないみたいだし。上手くやれればこれが何かの奇貨になるんじゃないかって、私達は思ってるんだ」


「そう、ですね……そうかもしれません」


 突如のように湧いてきた、今まで没交渉であったはずの魔族との対話の機会。

 たしかにこれはある種、千載一遇のチャンスであった。


 自分の考えが正しいのか、それとも魔族とは本当にただこちらを騙そうとしているだけの存在なのか。

 会談が終わればその答えは、おのずとわかることになるだろう。


 ただアリシアは、父が魔族とただ話し合いをして終わりになるとは思っていない。

 まず間違いなく、何かが起こるだろう。


 その時このグルスト王家の王族であるはずの自分は一体、どこで何をしているのか。


 今までと同じく、ただ部屋の中で閉じこもり静かに本を読んでいていいというのか。

 世界が変わるかもしれないその瞬間に、立ち会うことすらせずに。


「だからさ、もしよければ私や勝と一緒に特等席で観戦しない? アリスがこれからの身の振り方を考えるのは、それから先でもいいと思うし」


 自分が何をすべきなのか。

 自分は何がしたいのか。


 今までは考えもしていなかったことを、こんなにすぐに決断しなければいけないのかという気持ちはある。

 けれど不思議と、迷いはなかった。


 未玖を始めとした勇者達を助けるためになら、自分の命を使っても構わない。


 一度そう覚悟を決めたからこそ、今は自分の思うように行動できる気がした。

 アリシアは差し出された未玖の手を取り、頷きを返した。


「ミク……お願いします。もし、人と魔族が再び手を取り合う可能性があるというのなら……私は一人の王族として、その会談を最後まで見届けたい」

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